第25話 事態好転のために
かいつまんで言えば、ひとに石を投げてはいけないって、そういう当たり前を取り戻すため。この街で追われる身の私が、何かして、行政と教会に改めさせる。
シャロンさんも、できる範囲で協力してくださるそうだけど、随分な難題だとは自分でも思う。
それでも、アテもなく逃げるよりはずっといい。
後押しを得て前向きになれた私は、この問題に向き合うことにした。朝食とお酒を交互に味わいつつ、思考を巡らせていく。
「そういえば」と口を開くと、シャロンさんが「何?」とすぐに応じてこられた。
「この街にも衛兵の方がいらっしゃいますが、今回の件については、どういうスタンスでいらっしゃるんでしょう?」
「ん~……なんとなく察しはつくけど、確かなことは言えないし……ちょっと待ってな」
そう仰ってすっくと立ち上がり、シャロンさんがこの場を離れていく。
ややあって、他のお客さんを伴って戻ってこられた。衛兵の方々と仕事上の付き合いがあって、仲がいいお客さんとのこと。
この若い男性客は、昨晩この場に居合わせていらっしゃったそうで、話は早かった。
曰く、この件について、衛兵隊は距離を置くスタンスにある。
そもそも、この街の衛兵隊はあんまり手が足りてない。その事は行政側も重々承知のところ、教会と連名で手配書が公布された。
衛兵隊としてはいい気はしないだろうし、実際、現場の声もそんな感じだとか。
「昨日の夕方、衛兵やってる友人と話す機会があったんだけど……捕り物やるのに、衛兵介さず、住民を手先にするってやり口だろ? 本業からすれば、バカにされた気分らしくてさ」
そんな話をしていると、同業の他の宿泊の方々も話に乗ってきた。私たちのテーブルを中心に、意見交換会が始まる。
「衛兵隊と行政が距離が近いから……仕事は押し付けづらいって、行政もわかってるはずなんだよな」
「となると、教会側が怪しいか? すでに手一杯の衛兵隊からは距離を置いて、教会から行政に圧力かけ、勝手におっぱじめた、と」
「しっかしなぁ。ここの教会、悪い噂は聞かねえぞ?」
「
冗談交じりに指摘が入り、ちょっとした笑いが起きて小休止。
ここまでの話をまとめると、現地行政や教会よりも上の、現場を知らないお偉いさんが圧力かけてこうなった――と見るのが、現状の少ない情報からすれば、妥当な推理だそう。
実のところ、主因は教会側にあるって確信はある。
だけど、私の
それよりは、もっと上、あるいは別の部門・部署が動いてるって考えた方が良さそうで。
つまり、皆さんと同じような推理に行く着く。
重要なのは、よほどのことがない限り、衛兵隊は自発的には動かないだろうってこと。
もちろん、ここの行政や教会よりも上からの圧力があると考えれば、衛兵隊もこのままではいられないだろうけど……
うまくやれば、
では、実際にどうするか。
現実的な策を考える段になって、皆さん黙り込んだ。途中参加の方も多いし、そもそも私が考えて決めるべき事項だから、口を挟まれなくて当然なんだけど。
考え込みつつ、ふと周囲に目をやると、店の中の掲示板に目が止まった。私みたいなお尋ね者、あるいはそういう集団の手配書が貼ってある。
衛兵隊だけでは警備・護衛の手が足りない、そういうことが新聞にも書いてあった。
そこで、ふと、私は思った。
「もし、仮にですが……私が、この地域で幅を利かせる賊どもをひっ捕らえたとして……どうなるでしょう?」
すると、お客さんたちは互いに顔を見合わせた。
「お前さんを追ってる……いや、追わせてる連中からすれば、ちょっと難しいことになるだろうな。それで恩赦が出るかどうかは知らんが」
「衛兵的には、表立って感謝はできないだろうけど、距離を置いておく理由は増えるんじゃねーの?」
「あとはまぁ……『功労者』に石を投げるか? って話だな」
もちろん、それぞれの思惑が絡み合うこの状況で、確かなことなんて何も言えないのだけど……やってみる価値はあるように思う。
そもそも、これは紛れもない善行だし。
「では……多少ひどい目に遭っても心が傷まないような悪党で、それなりの規模の集団がいれば、
私の言葉に、場がすっと静かになる。果たしてどんなものかと、興味の目線が注がれてるのがわかる。
すぐに私以外の手配書を持ってきてくださったシャロンさんが、私の顔をまじまじと見つめ、尋ねてこられた。「一人で行く気?」って。
別に、制圧するだけなら一人で十分――というより、その方が好都合。
だけど、少し考えるところあって、私は首を横に振った。
「『私の仕事』ですし、できる限り私の手で、と思いますが……土地勘のこともありますし、同行してくださる方がいれば、大変助かります」
実のところ、賊に勝つのはともかくとして、
助力を求める私の声に、お客さんたちから、少なくない手が上がる。
今の今まで放置されてきた「仕事」だけに、相応の危険はある。少なくとも
それでもこれだけの手が上がったのは、私が興味を持たれているからに他ならなかった。
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