第23話 一本切れた心の糸
一気飲みについて、年上の方々からは苦笑いで
だけど、こういう無茶をはたらいたことは、場に馴染む上でちょっとは意味があったと思う。
自分の分のおつまみを、ちまちまと食べていく私に、皆さんの方から現場について色々と、快く教えていただけた。
まず、今日発布されたばかりなのに、住民の反応が良かった件について。
住民を装う「関係者」の仕込みもあったことだろうけど、実際には地域一帯の現状と住民感情も無視できないのだとか。
「このあたりじゃ、街の外で商人が賊に襲われるってのは、そう珍しくもなくてな。衛兵の手も追いついていない」
「はい。新聞で拝見しました」
「なら話は早い。このへんで悪さするヤツに、『またかよ』みたいな思いはだいぶ根強いんだろうな。だから、本当は良くわかっていないお尋ね者だとしても、『みんなの敵』って思えば……ま、加担するのも無理はないだろうよ」
だからって、ああやって石を投げるなんて……私からすれば
むしろ、いま教えていただいた住人感情を、お役所や教会も把握しているのだとすれば――
この流れは「致し方ない」ものではなくって、「故意」か、もっと言えば「仕組まれた」もののように思う。
私に石を投げた人たちに対しては、やっぱり個人的に腹立たしく思う気持ちはある。
ただ……彼らを憎むのは筋違い、なのかもしれない。諸々の環境がそうさせている、そういう言い訳も立つでしょうし――
彼らを都合のいい走狗として扱っている側こそ、非難されて
しばし黙りこくってテーブルに鋭い視線を落とすと、ちょっと静かな時間が流れ、若い方から声をかけられた。
「もしかして、一杯じゃ足りない?」
「えっ?」
「いや、目つきが据わっててさ、もっと欲しいのかと」
次の一杯を勧めようという声に、年配の方が「おいおい」とたしなめる。
ただ、勧める側としては「今日は『飲みたい日』だろうし……」とのこと。
私としては……思っていたほどの
だから……もう少し、いいかな。多少、深酒したところで、手配書で
それでも少し恐縮する気持ちを覚えつつ、「おかわりいただけるなら、喜んで」と頭を下げると、皆さん割りと嬉しそうになさった。
これなら、もうちょっと飲んでみても――
☆
「だぁから言わんこっちゃない」
呆れ顔で言う、酒場の若女将の言葉に、店員の若い衆は苦笑いしか返せなかった。
「いやさ、顔色変わらんし、受け答えもしっかりしてるから、『ああ、強い方なんだ』って……なるだろ?」
「最初って言ってたし、もう少し様子見ながらで良かったんじゃない?」
やりとりしつつ視線が向く先には、テーブルに突っ伏して寝息を立てている逃亡犯がひとり。
何杯か、勧められるままに程々のペースで消化したところ、眠気が一気に強まってきてこのようになった。
この娘をどうしたものかと、若女将が腕を組む。
「突き出すか?」
あくまで確認といった風に尋ねる年上の客に、若女将は首を横に振った。
「
「そりゃまた。太っ腹だな」
「状況もよくわからんからさ。ぶっちゃけ、この子、自分のことは全然話さなかったけど……手配書出してる側だって隠し事だらけだし。こっそりここに置いといて、この子の信頼を得て――」
それからため息を漏らし、彼女は続けた。
「いざとなれば、お役所に突き出すけど」
しかし、その「いざとなれば」という状況について、話す当の本人はそうなる可能性をそこまで高くは見積もっていないようである。
気心知れた客たちも、彼女の言葉にさほどの反応を示してはいない。
実のところ、今回の騒動については、客の中に目撃者がいる。
当事者が寝静まったということもあってか、おさらいのように、その目撃談が語られた。
「投げられた石、ほとんど手づかみでキャッチしててさ。たぶん、この中の誰よりも腕が立つと思う」
「だから、集団の圧力で押しつぶそうって策か?」
「かもなぁ。んでさ……この子が石投げられてて、居ても立っても居られなかったんだろうな。割って入る立派なご老人がいてさ」
「お前、見てただけかよ~」
赤ら顔の客に茶々を入れられるも、「おかげさまで『客観的』報告になったろ?」と苦笑いで応じ、続けていく。
「この子、かばいに来たご老人を、逆に自分を盾にして守ってたんだよなぁ。それでも二人に石を投げるやつがいて、どっちが悪人かわからんなって」
無論、この目撃談は真相のごく一部でしかないのだが……
それでも、得体のしれない手配書に踊らされることに、彼らは抵抗感を覚えた。
「じゃ、ちゃんと寝させてあげるか。空いてる部屋あるから、テキトーにつっこんどいて」
若女将に頼まれ、「はいはい」と若い女性客が数人、勝手知ったる様子で動いていく。
彼女らに運ばれる珍客を目に、若女将は「これからどうなるやら……」とポツリつぶやいた。
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