第13話 お姫様抱っこと創造の神
「はぁ、はぁ、はぁ、すみません、待ってください」
屋敷から出て、門に向かって歩いていたのだが後ろからもうすでに息切れしている少女が地面に倒れ込みながらそう言った。
「体力ないね」
屋敷から出てからここまで歩くのは少し早かったかもしれないが全く走っていない。
さらにまだ10分も歩いていないのだ。
「すみません、ここ数年間は全く運動をしていなかったので」
「まさか、ここまでとは思っていなかったなぁ」
「す、すみません」
私はずっと部屋に監禁されることの危険性を改めて感じていた。
この様子だったら多分、いつか脱出を図っていたとしても失敗していただろう。
「いいよいいよ、気にしなくて。これから体力つけていけばいいことだし。でも、このままだと帰る頃には夜が明けてそうだなぁ」
しかし、このままだと本当に帰るのが遅くなりそうだったので、どうしたらいいか考えるとある一つの案が頭に浮かんだ。
「そうだ!ねぇねぇちょっときて!」
「なんですか?って、ええ!」
「よっこらせっと」
わたしは少女の前に立って、その体を持ち上げた。
「な、何をしてるんですか!」
「お姫様抱っこだよ!」
「な、なんでですか!」
「だってこっちの方が早く帰れるかなぁって思って」
「他の方法はなかったんですか!」
少女は顔を真っ赤にして、暴れているが当然体力も力もない少女が私から逃げることができるはずなかった。
「ないよ、これが一番最速で帰れる気がする」
「そ、そんなぁ」
「にしてもかなり軽いね」
私は少女をお姫様抱っこをした時にあまりの軽さに驚いた。
見た目もかなり細い印象だったが、抱えてみるとその異常性がよくわかる。
「そ、そうなんですか?自分ではどれくらいの体重かはわならないので」
「そうだね。うぅーん、まず最初は肉と体力をつけたほうがいいかもしれないね」
この状態で冒険や動き回ったりしていてた魔物と会う前にもう力尽きてしまうだろう。
「そ、そうですか。大変そうですが頑張ります!」
「うん、その意気だよ」
顔がまだ赤いながらも引き締まった顔をしてやる気を見せている少女を見て、私はかわいいと自然に笑顔になった。
「じゃあ、走るよ」
「はい」
そう言って、私は走り出した。
力を封印されているから、人を運び続けるのはきついかなと思ったが想像以上に少女が軽かったためしばらく走っていても疲れを全く感じていなかった。
そのまま私は走って行く。
少女は怖かったのか私のローブをしっかりと掴んで目を閉じてしまっていたので会話をすることもなかった。
そして、伯爵家の敷地内を出て少しまっすぐいったところで私はあるものに目がいって止まった。
「うわぁ、でかい!」
そこには大きな像が立っていた。
その像の人はかなり歳をとっているようだが、この世界について何も知らない私はこれが誰かわからなかった。
「ん?もうついたのですか?」
さっきまで目を瞑っていた少女は私が止まったのを感じ取ると恐る恐る目を開けて私の方を向いた。
「ごめん、まだついてないよ」
「それなら、どうかしたんですか?」
「これは誰の像なのかなと思って」
「あぁ、これは創造の神マルセイユ様の像ですね」
少女は像の方に目をやってそう答えた。
創造の神マルセイユ?
なんか聞いたことあったようなないような。
「この世界を創造した神で約1万年前にこの世界を壊そうとした邪神を自分の命と引き換えに殺したことでも有名な神です」
私と同じ邪神と言われていた神が他にいたのか。
なんか少し親近感が湧くな。
私は優秀な友達がいたから大丈夫だったもののその神がもし友達がいなければとても大変な目に遭っていただろう。
「へぇ〜、じゃあ、すごい神なんだね」
「はい、ちなみにこの国ではマルセイユ様を侮辱しただけで拷問になるので気をつけてください」
「こわぁ。そうだ、ちなみに邪神の名前って何?」
そんなにこの国にとってこの神は崇拝してるんだろうなと思ったが、わたしはそれより同じ邪神と呼ばれていた神のことについて気になった。
「邪神パラレルです」
「え?」
私はその名前を聞いた瞬間に膠着した。
この微妙な名前。男かも女かもわからない多分つけた神はネーミングセンスがないのが明らかな、他の神と比べても浮いていたこの名前は私はよく知っていた。
なんなら、この前まで呼ばれていた。
そう、邪神パラレルというのは紛れもなく私の神としての名前だった。
「あ、あの大丈夫ですか?」
でも、私はこの世界を壊そうとしたことなんてないし、創造の神マルセイユとはあった記憶も殺された記憶もない。
「あ、あ、あの、あの!大丈夫ですか!」
その声で私は現実に引き戻された。
すっかり、考え込んでしまっていたようだ。
「うん、大丈夫だよ。ごめんね心配かけて」
「あのどうかしたんですか?」
「なんでもないよ」
私は邪神と呼ばれているのが私ということがバレたらまずいなと思い、急いで話題を逸らすことにした。
「それより名前がないと呼びにくいね。名前なんていうの?」
「わ、私の名前ですか?え、えっとフランといいます」
「そうなんだ、フランって名前なんだね」
フランはいきなり振られたことに驚いたのか恥ずかしいのか少しタジタジしていたが、ゆっくりとその名前を言った。
「あ、あの名前はなんていうんですか?」
「あ、私?忘れてた。私の名前はパ……」
そこで私は言葉を止めた。
おもいっきり、パラレルと言おうとしていたのだ。
しかし、邪神と同じ名前だと怪しまれる可能性が高い。というか、確実だ。
そう思い止めたのだが、変なところで止めたためフランは首を傾げている。
私は頭をフル回転させて、どうすればいいか考えた。
その結果、
「え、えっと私の名前はユメだよ」
出たのは、人間だった頃の名前だった。
私は不自然な間がフランに変に思われていないか心配になったが、
「ユメ様っていうんですね。」
と、特に疑問に思っていないようだった。
ていうか、
「なんで様呼び?」
「えっ?そっちの方がいいかなと思いまして」
「まぁ、どっちでもいいよ!」
特にこういう呼ばれ方をしたなんていう願望はなかったため、それに関してはフランがしたい方に任せることにした。
「じゃあ、ユメ様と呼ばせていただきます!本とかで読んでてこういう関係も憧れてたんですよ」
「そうなんだね。でも、おんなじくらいの見た目のかわいい子にそんなことを言われるとなんかムズムズするね」
実際にフランの顔はかなり整っていてかわいい。そんな少女に様と慕っているような感じにされるのは言葉で表すのは難しいがかなりいい気分になる。
フランはその言葉を聞くと、顔を真っ赤にさせた。
「か、かわいいなんてそんなことはないです!髪も白でボサボサですし、目は赤なので」
「ええー、そこも含めてかわいいと思うけどなぁ」
「そ、そんなことないです!」
そんな感じでしばらくの間、褒めたりしていじり尽くした後、褒められすぎて疲れたのかフランはぐったりとしていた。
「この様子なら早く帰った方がいいよね!」
こうなったのは自分の責任でもあるから、早く落ち着いて寝られる場所に連れて行ってあげたいと思った。
「あ、でもどこも泊まる場所ないなぁ。そうだ!レオンのところに行けばいいか!」
泊まる場所が決まったあらあとはダッシュで向かうだけだ。
私はぐったりとしているフランを再びお姫様抱っこして、あまり揺らさないように気をつけながらレオンの所へ向かうのだった。
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