第9話 暗殺依頼1とEXスキル

「どうしてそう思った?」

「おじさんは剣の使い方とかはすごく上手いのに右からの攻撃だけ反応が遅れてた。しかも、それだけじゃなくて他のことを気にしてるようにも見えた。最後の攻撃もおじさんが何かに気を取られて力を緩めたりしなければ、私は多分やられてた」


おじさんは私がぐるぐる回った時に焦ったようにしているように見えたが、ちゃんと受け止めていたことを考えるとそれもきっと見えない右目をカバーするためにしていたのだろう。


「……」

「何をずっと気にしてたの?」


おじさんは黙ったまま私の目をずっと見つめていたが、しばらくするとため息を大きく吐いた。


「どうせ、最後の土産だ。おまえさんに特別に教えてやろう。窓から外を見てみるといい」


私は、ギリギリ届かない窓をなんとか背伸びをして覗き込んだ。

外を見るとたくさんの子供達が屋敷から出て、バラバラに走っていっていた。

格好はすごくオシャレをしているとか、そういうわけではないが動きやすそうで外で歩いてもおかしくないような格好をしている。


「あの子達を逃してたの?」

「そうだ」

「あの子たちは奴隷なの?」

「いや、正確にいうと違うな。あの子たちは私にとって弟子であり、家族だ」

「へぇ、つまりおじさんは家族を逃すためにここに残って私の足止めをしていたってこと?」

「それもあるのだが、ここに侵入してくる奴は大体私を狙うやつがほとんどだからな。関係ないことにあの子たちを巻き込むわけにはいけない」


まぁ、確かにそうだ。ここに侵入してくる人でおじさんの暗殺以外に可能性があるとすれば金銭目的だけだ。

いずれにせよ子供たちは関係ない。


「そうなんだ、ちゃんと逃げれるか心配で集中できなかったってこと?でも、それだと目が赤く光ってた理由がわからないし」

「目が赤く光っていたのは私のEXスキルの【感覚共有】をつかっていたからだ。これを使うと、名前のままだが感覚を共有できるのだ。今回の場合は視覚と脳を共有して、弟子の1人にどこから逃げればいいのか指示していた。でも、このスキルは視覚の場合は目が赤く光ったりと何かとデメリットも多いスキルなのだ」


その言葉に私は頭に疑問が浮かんだ。

その言葉の中には私の知らない単語が入っていたのだ。

「EXスキルって何?」

「おまえさんの歳で知らないのか?」

「うん」


おじさんは目をすこき大きく開いて驚いたような顔をしていた。

そういって話している間にも切った腹から血がたくさん流れている。

しかし、おじさんはその様子を気にした様子はなく

「なら教えよう。EXスキルとは生まれた時から持っているその人特有のスキルのことだ。そのスキルは人によって決まり、他に使える人はいないと言われている」

と説明してくれた。


なるほど、私は【感覚共有】と似た魔法はしっているもののそれは五感は共有できるものの考えやアドバイスはすることができない。

EXスキルとは既存の魔法の上位互換みたいなものなのだろうか。

もしかすると、私が知らなかった【体色変化】もEXスキルなのかもしれない。


「てっきりお前さんは戦闘系のEXスキルを持っているのだと思っていたのだが…」

「私はまだわからないね」


というか、私は神だからそういうEXスキルというのは持っているのだろうか?という疑問を持ったが、まぁ、冒険者登録すればわかる話だ。


「そうなのか、それでその強さとは末恐ろしいな」

「どうやったら、EXスキルってわかるの?」

「それは普通は神殿に行って見てもらうのだが、お金も時間もかかるから冒険者になるのが一番だろう」

「ありがとう」

「ただし、覚えておくといい。」


おじさんは段々と息遣いが荒くなっていき、言葉も震えているが、その言葉だけは私の目を真剣な顔つきで見て、しっかりはっきりその言葉を口にした。


「EXスキルは必ず強いとは限らない。普通の魔法より弱い可能性もある。弱かったり自分に合っていなくても落ち込まないことだ。どんなスキルでもそれを応用させることが大事なのだ。そして、周りがどんなEXスキルだったとしても見下すことはするな。それで痛い目にあってきたやつを何人も知っている」

「わかった、ありがとうおじさん」

「それくらい大丈夫だ」


そういうと真剣な顔をしていたおじさんはゆっくりと息を吐き、また苦しそうな表情に戻った。

もう床は真っ赤に染まっており、靴の中に血が浸食してきた。


「最後に一つ聞いていい?」

「いいぞ」

「あの子達を屋敷に住まわせて何をするつもりだったの?」

「何をするつもりも何もただ計算や剣術、魔術を教えていただけだ」

「おじさんって魔術も使えるんだね」


おじさんは今回の戦いで一回も魔術を使っていなかった。

それは【感覚共有】を使っていたからか、この家を壊さないようにしていたからなのかはわからない。

でも、一つ確かなのは歳をとっているにも関わらず、剣術にも魔術にも優れており、本気を出されていたら私では到底太刀打ちできなかったということだけだ。


「ははは、こう見えても元冒険者Aランクだ。それくらいできるさ」

「おじさんって元Aランクだったの!?すごい!」


冒険者Aランクがこの世界ではどのくらい凄いのかはわからないが少なくともラノベの世界ではかなり上の方だろう。

そうであれば強いのは当たり前だし、元とはいえ最初のうちに当たれたのは私にとってもかなりラッキーなことだと思える。


「あの頃に比べたら私はすごく弱っている。本当に老いとは恐ろしい者ものだ」

「これでも弱ってるって全盛期のおじさんはすごく強かったんだね!」

「ははは、このおいぼれに嬉しいことを言ってくれる」


そうやっておじさんは笑おうとしているのだが、痛みでその表情は笑っていない。

おじさんは大きな息を吐くと私に向かってこういった。


「すまない、もう少しお前さんと話していたかったんだが、そろそろとどめを指してもらってもいいだろうか?この様子だと出血多量で死ぬにはもう少しかかりそうなのだが、腹にさっきから激痛が走っていてな。我慢するのももう限界だ。」

「そうなんだ、わかった。でも、私ももう少しおじさんと話したかった」

そういって、私はおじさんが使っていた剣を持ち上げた。

私が使っていた刃がボロい短剣よりもこっちの剣の方が痛みを感じずに死ねると思ったのだ。

おじさんは世間から見たら悪い人かもしれないが私からしてみれば、家族思いの私に対しても優しく、とても強いおじさんだ。

そのおじさんには安らかに眠って欲しいと思った。


おじさんは私が持ち上げた剣が自分のだと気付くと目に涙を浮かべて

「ははは、最後は自分の剣で逝けるとはなんとも嬉しいものだ。その剣と金は好きに持っていくといい。これは私からの少しばかりのお礼だ。本当にありがとう」

といった。

それに対し私も笑顔を浮かべ

「おじさんもありがとうね」

と言い、剣を勢いよく振り下ろしたのだった。

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