第6話 裏ギルドと暗殺依頼

入った瞬間、中にいたさっきの女の子を含む5人全員私のことを目を開いて驚いていた。


奥には強そうな雰囲気の人が座っており、その右側にお付きみたいな女の人が立っている。

他の2人はその2人に向き合うような形になっているソファに座っていた。


しかし、私がここに入ってから1秒くらい経つと一番奥に座っていた人が「やれっ」と指を刺しいうと、手前の2人が流れるように武器を取り出し襲いかかってきた。


なかなかの手だれのようだが、焦りからか少々攻撃がお粗末だ。


私は自分の体格の小ささを活かして、潜り込んでお腹にボディブローを叩き込んだ。


大きな2人の体が3メートルくらい吹っ飛んでいき、他の3人はかなり驚いているようだ。


「いきなり襲いかかってきたら危ないよ?」


これがもし間違って入ってきてしまった人だったら、一発で殺されてしまうかもしれない。


その忠告のつもりで言ったのだが、奥の人は私を睨みつけて

「【体色変化】」

と呟いた。


その瞬間、視界からその人が消えたのだ。


「消えた!」


姿を消す魔法など神の世界でもあまり見たことなかったので、私はかなりびっくりした。


しかし、体色変化ということは体の色を変化できるということみたいだが、透明にもできるということなのだろうか?


そんなことを考えていると、さっきまで横に立っている人が

「【誘惑】」

と言った。


その瞬間、私の目線はその女の人に吸い寄せられて行った。


スキルの【魔法抵抗】が機能していたらこんなことにはならないから、きっとこのスキルも封印されているのだろう。


目線は女の人に向いていて、もう1人は視認できない。

なかなかの連携プレイだ。


しかし、焦ることはない。

私は目を瞑った。ここは生憎と室内だ。


空気の動きは感じやすいし、足音は響きやすい。


それにさっきの女の子より断然この人の方が足音は小さいが魔法も使わずに足音を消すなんてことは不可能だ。


「ここ!」


私は後ろから首元を狙われた攻撃を【アイテムボックス】から取り出したナイフで楽々と受け止め、弾き変えるつもりだったが、力も制限されているせいか押し負けかけた。


そして、咄嗟にお腹に蹴りを入れた。


「よっと」


「マジかよ…」


そんなかわいい声から放たれ他とは思えないほど強い攻撃により奥の男は吹っ飛ばされて壁に頭をぶつけ、頭を抱えながらそう言った。


「レオン!」


吹っ飛ばされた男を見た女の人は急いで名前を呼びながら、男の方へ向かっていった。


レオンっていう名前なんだ。


「大丈夫だ。それよりあの女の子をソファに座らして、お茶を用意してあげろ」


「わかったわ」


さっきまでの様子と打って変わって、客人かのように扱うよう言ったレオンに対して疑問を持ちながらも、痛いだろう頭を治めながら一所懸命に立ちあがろうとしているところを見て私は

「手を貸そうか?」

と声をかけた。


「いや、結構だ。何されるかわかったもんじゃない」


「私からは何もしないよ」


「何か依頼があったからとかとさここを潰すために来たわけじゃないのか?」


別に詠唱していないから、魔法は使っていないんだろうが、他の人だったらビビって逃げ出すような威圧を放ちながら睨んできた。


「違うよ。まず、ここかなんなのかも知らないもん」


「嘘だろ?」


「本当だよ」


「じゃあ、ただの早とちりかよ」


私の様子からそれは本当のことだと確信したのか、頑張って起きあがろうとしていた体を重力に任せてその場で尻餅をついた。


「あ、そうだ!聞きたいことがあるんだけど大丈夫?」


「いいぞ、なんでも聞け。今日だけは答えれることはなんでも答えてやる」


「いいの?」


「ちょっとしたお詫びと思ってくれ」


いくらやられたからといっても、あまりにも危機感がなさすぎじゃないかと思ったが、わざわざそこについていうほど馬鹿ではない。


「じゃあ、どうしてあの女の子は私のことをストーカーしてたの?」


「あぁ、そういうことなら最初から説明するか」


私は私が最初に2人を倒してから端っこで固まって震えている女の子を指差してそう聞いた。


レオンはそっちに目をやるとめんどくさそうにため息をつきながらそう言った。


「まずここは裏ギルドとも呼ばれている裏の取引や暗殺などを任せられるところだ」


「じゃあ、悪いところなの?」


裏ギルドというと荒くれ者たちが集まって、人を殺したりヤリまくったりとそう印象がどうしても浮かんでしまうがここはそんな雰囲気は一切感じない。


「人によって感じ方も違うが、一応ここは自分達でこれはした方がいいと思うようなことしかしない」


「例えばどういうのがあるの?」


ソファを反対に座って、背に体重を任せてそう聞いた。


「それはおまえさんだよ。おまえさんが警備員のいない隙を狙ってこの街に入ってきたりしたから、怪しいやつだと思ってカスミを付けさせていたんだよ」


「へぇっていうか、カスミちゃんっていうんだね。よろしくね」


「ふんっ」


体が大分良くなったのかまだフラフラしているが、立ち上がって自分の席に戻っていくレオンを横目に見ながらカスミちゃんに笑顔でそういうと、さっきまで怖がってた顔をいきなり取り繕いそっぽを向いた。


「あいつはツンデレなんだ。気にしないでやってくれ」


「ちがう!」


「かわいいなぁ」


なるほど。この子はツンデレキャラなのか。


今までツンデレな人は何人か見てきたがそれでかわいいと感じたのは初めてだ。


「そうだろ。うちの看板娘だ」


ここは裏ギルドだから当然看板娘などいないのだろうが、それくらいかわいいということなのだろう。


しかし、私はもう一つ気になっていたことを聞くことにした。


「へぇ、それでカスミちゃんってレオンの奴隷なの?」


「違うな。首輪をつけていないだろ」


「確かに」


そういえば他の奴隷と違って、カスミちゃんには首輪が付けられていなかった。


「それに俺は奴隷反対派だ」


「そうなの?」


「大体、この国では奴隷が禁止されているんだ。しかし、ここの街を収めている伯爵がお金を手に入れるために王様に無断で奴隷を合法にしたんだ」


「なるほど」


それは全く知らなかったからこの情報は本当にありがたい。


そして、カスミちゃんが奴隷じゃなくて安心した。


「こいつはこの近くで拾ったんだよ。孤児院かなんかで真っ当に生活されるつもりだったが、俺みたいになりたいって言って聞かないから危なくない感じのようなことからさせていたんだ。今回は運悪くハズレを引いたみたいだがな」


「その言い方は納得はいかないけど、事情はわかった!」


「よかったよ」


私の返答に安堵したようにため息を吐き、机の上の書類を見始めた。


私はそれを見てあることを思いついた。


「そうだ!私に暗殺の仕事をいくつか任せてくれない?」


「どうしてだ?」


レオンは怪訝そうに眉をひそめながら私のことを見てきた。


「私、これからパーティを作って冒険したいと思ってるから、向上心があって伸び代があるなかまがほしいの!」


「それって…」


「そう!暗殺対象の中に目ぼしい人がいたらさらっていい?」


そう、私が考えたのは暗殺対象を殺したことにして仲間に加えるという考えだ。


別に犯罪者を仲間に入れたいわけではなくて、犯罪を犯していなくても恨みを買っている人や巻き込まれている人はいるだろうと思ったのだ。


「奴隷売り場にいい人はいなかったのか?」


「いなかったね」


「今来てる暗殺依頼は三件しかないからその中にいるかはわからないぞ」


そう言って、レオンはさっきまで見ていた書類を持ち上げてひらひらと見せてくる。


「もし、いなかったら、カスミちゃんをもらっていくよ」


「それなら、その中にいい奴がいるように願わないとな」


そんな感じでレオンと笑い合っていたのだが、部屋の隅にいるカスミちゃんだけ全力で頭を横に振っていた。


「そうだね、で早速最初の標的は誰?」


「実力的には大丈夫とは思うが証拠とか掴まれるといけないから最初は簡単なやつからにするぞ」


「いや、めんどくさいから三つ一緒にやってくるよ。そっちの方が楽だし、あちこちで騒ぎが起きたらどこかの捜査は単純になるでしょ」


殺して周りにいい人がいるかないか探すだけなら、十分そこらあればできるだろう。

いくら力は落ちているとはいえ体力には自信がある。

これを三つこなすくらいなら楽勝だろう。


「それにそっちの方が早く冒険に向かえるし!」


「それは…まぁ、おまえならいいか」


頭をポリポリとかきながら、そう言ってまたため息を吐くレオンを見て私は疑問に思うことがあった。


「身元も知らない私のことを信用してもいいの?さっきから私のことについて聞いてくるかなと思ってだけど、何も聞かないみたいだし」


「誰が好き好んで棘に手を突っ込む馬鹿がいるんだ。それにおまえは何もわかってないからこそ勝手に死んでもいなくなって後処理する必要がないからいいんだよ」


「なるほど、ということはこれはレオンたちにとっても都合がいいんだね」


「まぁ、そうだな」


なるほど、別に私が成功しようと失敗しようとレオンに立ちには関係ないことだ。


だって私はここに所属しているわけではないし、ここと繋がっているという証拠も持ち合わせていない。


だから、私が死んでここが疑われる可能性は低いから、この関係は互いにとってWin-Winというわけだ。


「わかった。じゃあ、この書類持っていっていい?」


「いいぞ、その代わり絶対に落とすなよ」


「フリ?」


「な訳ないだろ!」


「だよねー。じゃあ、いってきます!」


「おい、ちょっと待て!」


そう言って、ドアに手をかけようとすると、後ろからレオンがそう叫んだ。


「どうかしたの?」


「こんな真っ昼間から暗殺しにいくわけがないよな?」


確かにそうだ。


今、外はまだ明るい。


暗殺者のラノベだとこういうのは基本的に夜中眠っている時を狙うはずだ。


「あー、確かに。じゃあ、街でしばらく時間を潰してからいくね」


「そうしてくれ」


私はドアから出て、【アイテムボックス】に書類を投げ入れると、

「よーし!観光再開!」

と叫んで、スキップしながら裏通りを出るのだった。

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