ジュリ

第一話 残り香

 この匂いを嗅ぎ慣れてしまった。

 愛するパートナーとその愛人との情事の後の部屋とシーツや布団に染み付く。

 明らかに私と交わっていない匂い。

 でも半分は私の愛するあの人の匂い。

 ああ、この上でどんなふうに乱れたのか。

 私に見せない顔をあの人はするのだろうか。

 そして私はそれらを毎回洗濯する……。


 ※※



「じゃあ、また」

「おう」

 湊音はシバと玄関で別れの挨拶をしていた。特に抱き合うこともなく、でも少し湊音の顔は名残惜しそうだった。

 さっきまでシバと愛を激しく交わし、シャワーを浴びて昼ごはんを食べ帰っていった。


 シバは湊音を見送った後私の方を見て微笑む。そして私の肩を叩き一緒にリビングに行く。


 遠くではあなたと湊音が混じり合ったあのシーツたちが洗われている洗濯機の音がする。


 でも今は私とシバ、二人きり。


 二人でソファーに座ってシバがタバコを吸い始める。

「明日さ、どーする? 買い物行く?」

「うん。買い置きしないとね」

 たわいもない会話、そして約束。私たちは男性同士だから普通に結婚できなくてパートナーシップを結んでいる。


 なのに私は愛するシバが愛人の湊音としかも、私たちの部屋でセックスをするのを容認しているのか。


 周りからは変だと思われるし、まず誰にも言っていないし。


 シバは私の肩に触れてくる。


 湊音がシバを愛するように私もシバを愛している。


 別に構わない。だって私とシバはパートナーシップを結んでいる仲ですから。


 さっきまで湊音を愛してた手や唇で私は愛される。


 このあなたの舌で湊音をどうしたのか。


 でも全て私が上書きすればいいの。


 私のまとう香水を湊音を抱く前に擦り付けたシバの服にまだ私の香りが残っている。

 ああ、湊音はこの香りを嗅いで罪悪感を感じながらシバに抱かれたかしら。


 そう思うだけで私は優越感で満たされる。

「なんだよ」

「なに?」

「何笑ってるんだ? さっきから」

「ううん、なんでもない」

 そう微笑むとシバは私を押し倒した。

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