12. NTRはダメ、ゼッタイ
「何卒、何卒、なにとぞ!!!!!!!!」
これでもビックリマークが足りないと思えるくらいの声量で頭を下げて来た一人のオッサン。土下座の文化があったら迷わずやりそうな勢いなのだが、あんたみたいな偉い人が平民にそんなことしちゃダメだろ。それともこの国では許されてるのかね。
この人、この国の宰相なんだぜ。
信じられるか?
俺はこの状況が信じられねぇ。
どうしてこうなったかと言うと、話は俺がエリーさんの〇ロにダイブした後に遡る。
「ん……」
「あら、ようやく起きたのね」
「……!?」
目が覚めたら見慣れないベッドで寝かされていて、エリーさんらしき声がしたので周囲を確認したら、なんと俺の隣で寝ていたのだ。
しかも裸!?
おいおいマジかよ。
俺もしかしてやっちゃったのか?
でも全く記憶に無いぞ。
「あの……エリーさん?」
「激しかったわね」
「チクショウ!」
どうして覚えてないんだ。
彼女のふくよかな膨らみと柔らかな肢体の感触が記憶に無いだなんてあんまりだ!
そうだ、今から追加プレイをワンチャン……あれ。
エリーさん裸だけれど何かがおかしい。
だって巨峰の先端にアレが見当たらない。
おいおい、これってよく見るとまさか。
「視線がやらしすぎるわよ」
「肌色の服を着てるとか騙す気満々じゃないですか!」
「ようやく気付いたのね」
驚きで思いっきり体を起こしてしまった。
日本では『肌色』という表現は差別につながるから無くなったらしいが、エリーさんが着ているのは彼女の肌の色に近い色合いの服、つまり間違いなく『肌色』の服だった。
「どうしてそんな服を持ってるんですか」
「見えたと思ったら服だったって気付いた男の人の反応が面白くて」
「性格悪すぎですよ……」
「うふふ」
あのチャイナドレスっぽい服も、スリットから覗く肌色はまさかインナーの服の色だったのか。男心を弄ぶなんて酷い!
この調子だとエリーさんと何かあったなんてことは無さそうだ。
「それで俺はどうしてここで……あ、もしかして俺が倒れちゃったから」
「ヒーローを床で寝させるなんて出来るわけないからね」
「なんですかヒーローって。もしかして王様達が治ったってことですか?」
「そ、あなたが持って来てくれたポーションで呪いが解けたわ」
「それは良かったですね」
頑張って急いで持って来たかいがあったな。
「それで、陛下からあなたへ伝言を頼まれてるの」
「伝言ですか……」
伝言の内容には察しがついている。報酬の話だろう。
実は王族が呪いにかかった情報が公開された時に、解いた人物への報酬についても告知があったのだ。
報酬の内容は、王子様もしくは王女様。
この国の王子様と王女様は揃って美男美女であり人気が高い。だが、ただの平民にとっては会話することも叶わない雲の上の存在で、イベントなどの時に遠くから見て懸想するのが精いっぱいな相手。
その相手と結ばれる可能性があると言えば必死になるだろうとの考えだろうが、家族を報酬とするやり方が俺は気に入っていないので、貰うつもりは無かった。
エリーさんの伝言は、お礼と報酬についての話があるから登城しなさい、的な内容だろう。
「あんな臭いものを飲ませやがって。覚えてろよ」
「わぁお」
そういえばあのポーションは臭い取りを一切やってなかったから、最も臭い状態のものだった。自分で言うのもなんだけれど、良くアレ飲めたな。蓋を開けるだけで周囲の人間が嘔吐してぶっ倒れるレベルの兵器だし、効果が無かったら俺処刑されてたのではないだろうか。効果があっても処刑されそうな伝言だが。
「それと、起きたらさっさと城に来い。ですって」
「なんかフランクな王様ですね」
「うふふ、何度注意しても治してくれないから困っちゃうのよ」
王様にそんなことを注意出来る立場って、エリーさんマジで何者だよ。『友達』が呪われているから必死に治そうとしていたって言ってたが、その『友達』も王族のことだろうし、実は俺みたいな平民がこうして普通に話をすることなんてあり得ない程に偉い人なのでは。
うん、考えないようにしておこ。
「しょうがない、行くか」
しがない社会人にとっては会社の役員から上の人は『偉い人』の括りでまとまっている。例え社長だろうが総理大臣だろうが同じである。流石に強引かな。だが俺にとってはそうだった。
うちの会社は現場を大事にしようなんてスローガンをかかげていて、役員とヒラ社員が強制的に話をする
異世界の貴族社会だと平民が失礼なことをしたら斬られるなんてイメージがあるが、エリーさんの雰囲気から王様はフランクっぽいし、そもそも偉い人であるエリーさんやサイエナーさんがあれだからか、そんなに緊張していない。
「身だしなみを少しは……あれ、そういえば俺の臭いはエリーさんが取ってくれたんですか?」
「うふふ、念入りにやったわよ」
「だから下半身を見ないでください」
どうせ俺を揶揄っているだけなのだろう。
流石にその程度の揺さぶりにはもう動じないぜ。
「つまらない反応ね。だったら……」
「うひっ」
胸元を指でつつっと撫でられて変な声がでちまった。
「城に行く前に元気を注入してあげましょうか?」
「ちょっとエリーさん、悪ふざけが過ぎますよ」
彼女は俺に体を寄せてしな垂れかかって来た。こんな美人さんに接近されたら俺の男心が暴走してもおかしくないぞ。
「ふざけてなんか無いわよ。『友達』を助けてくれたこと、本当に感謝してるんだから」
「エリーさん……」
彼女は真剣で、それでいて蕩けるような目で俺をまっすぐと見つめてくる。
そんな目で見られたら、俺は……
「城に行きますね」
「ヘタレ」
「お姫様を報酬としてもらいに登城する前に別の女性とイチャコラするとか、俺はそんな節操なしな人間じゃ無いだけです」
「ヘタレ」
「なんとでも言ってください」
「ヘタレ」
「…………」
「ヘタレ」
「ああもうそうですよ。俺はヘタレですよ、チクショウ!」
「うふふ」
結局揶揄われてただけじゃねーか。
エリーさんには一生適う気がしないわ。
「私も一緒に行くわ」
「だったら服装とかも相談に乗ってくれませんか?」
「いつも通りの探索スタイルで良いわよ。今回は非公式で急ぎの呼び出しだから気にしないわ」
「そういうものなんですか?」
「むしろ探索者なんてやってるその日暮らしの人が礼装なんてしてきたら裏があるんじゃないかって逆に疑われるわよ」
「わぁお」
日本だと『私服OK』とか『ラフな格好で』なんて文言があっても罠だったりするからな。今回に限ってはそういうのは不要とのことだが……
「髪の毛くらいは整えておきます」
「うふふ、そうね」
跳ねた髪を整え、濡れタオルで軽く体を拭いて、念のため再度臭い取りの霧吹きで全身を清めてから城に向かった。
城は城壁で囲まれ、入り口は正面に巨大な門が一つと、その脇に小さな門が一つある。正面の門はパレードや他国の要人を受け入れる時などに開放するが普段は閉じられている。城に用事がある人は小さな門を通り、守衛に受付をしてもらい中に入る仕組みになっている。城には多くの人が勤めており、全員が一つの門に殺到すると出勤時や退勤時に大混雑になるため、他にも門があるらしい。
今回は正面の門から入るが、手続きはエリーさんが全部やってくれたから俺は特に何もすることなく城の中に入れた。
「城と言うより、役所と豪邸が合わさった感じ?」
まず正面から見て凹型の建物があり、そこで多くの人が働いている。
そしてその奥に王族が住む建物があるのだが、城というよりもかなり広い豪邸のように見えるのは、高さがあまり無いからだろうか。
物見櫓らしきものはあるが、姫様が軟禁されてそうな塔とか、細い通路で繋がっている二階の離れなどは見当たらない。
意匠は流石に豪華で華麗なデザインがなされているが、通路が無駄に広すぎて落ち着かないなんてこともなく、案外住みやすそうな作りだった。
「こちらでお待ちください」
案内されたのは待合室なのかな。
全体的に飾りっ気が薄く、ソファーもフカフカというよりは程よく硬くて座り心地が良い。長時間座っても大丈夫なタイプのやつだ。
一つだけ目立つのが大きな全身鏡が置かれていること。これで身だしなみを確認して待てってことなのかね。
「エリーさんって王城でもその格好なんですね」
「あら、問題あるかしら」
「ここは娼館じゃないんですよ」
「うふふ、言うようになったわね」
そこそこ長い付き合いになって来たから、このくらいの軽口は言える程度の仲にはなっている。
「もしかして欲情しちゃった?」
「止めて下さい。誰かに聞かれてたらどうするんですか」
「聞かれてなければ欲情しちゃうの?」
「しません。エリーさんが魅力的な女性なのは間違いありませんが、だからといってこんなところで盛ったら人じゃなくて野生動物じゃないですか」
「うふふ、シュウ君はそういう人よね」
なんとなく含みがあるようなニュアンスが感じられて少し気持ち悪い。服装について話を振ったのは俺だけれど、何か試されているような気がしなくもない。
「素晴らしい!」
「え?」
突然ノックも無く一人の男性が入って来て驚いた。
日本換算で五十代くらいの見た目のオッサンで、白髪交じりの髪に激しいパーマをかけている。毛先がクルックルで立っているだけなのに動いているから、猫がツンツンして喜びそうだな。
雰囲気的に偉い人かもしれないので、慌てて立ち上がった。
「煽情的な格好の女性に対する対応は実に紳士的。救世主があなたのような人物で本当に良かった!」
「は、はぁ……」
凄い勢いで近づいて俺の両手を強引に取り、めっちゃ間近でガン見してくるのだが正直暑苦しいしキモい。
というか野生動物じゃあるまいし、なんて言葉の何処が紳士的なのだろうか。
ツッコミたいが偉い人っぽいので我慢するしかない。
「ショーリサイ様、彼が困ってますよ」
「はっ、失礼失礼」
エリーさんが注意してくれたことでオッサンは適度な距離まで離れてくれた。
「私はこの国の宰相、ショーリサイと申す」
「……私は主に探索者として活動しているシュウと申します」
「ほう、年齢の割に言葉遣いも悪くない。良いですな。実に良い」
いきなりの大物の登場に驚きかけたがなんとかなった。
それほど待たせずに自己紹介を返せたのは社会人の経験によるものだ。こっちの世界は俺と同じくらいの年齢で成人になりたてってことだから、社会に出たことが無い人が多くて挨拶出来ることすら意外に感じるのかもな。
「この度は我が国を救って頂き、誠に感謝する」
「は、はい」
うわぁ、宰相に頭下げられてらぁ。
どんな時でも偉そうにするタイプの人じゃなくて助かったが、これはこれで気まずいな。
「この後、今回の件について王が自らシュウ殿に話されますが、その前にどうしてもお願いしたいことがございまして参った」
「お願いしたいことですか?」
厄介事じゃないと良いなぁ……
「誠に申し訳ないが、報酬を辞退して欲しいのだ」
「え?」
つまり王女を嫁に貰うのは止めてくれってことだよな。
元から断りたいと思っていたが、向こうから言われると最初から報酬を支払うつもりなんか無かったと言っているようなもので印象が最悪なのだが。
「もちろん代わりの報酬を用意致す。金だろうが美人だろうが貴重な品だろうが出来る限り用意致そう」
「はぁ……」
今更そんなことを言うなら最初から違う報酬にしておけば良かったのに。
「今回の報酬は王が昏睡する前に指示した物なのよ」
俺の考えを察したエリーさんが耳元で小声で教えてくれた。
チラっと表情を見たら、見るからに不機嫌そうにしている。
「どうして今の報酬だとダメなのですか?」
せっかく偉い人が下手に出て何でも教えてくれそうな雰囲気だったから、気になったことを率直に聞いてみた。
「王女殿下には既に婚約相手がいらっしゃるのだ」
「はぁ!?」
どういうことだ。
そんな話聞いて無いぞ。
まさか俺が知らないだけでこの国では常識なのか?
「言い方は悪いですが政略結婚ですよね」
「ええ。いずれも国益を考慮した相手になる」
だとすると結婚相手に不満がある人もいるかもしれないな。王族として当然の務めです、なんて言いそうだが俺としては王族が自由恋愛する話の方が好きだ。
「しかし幸いにも政治の話とは関係なく、王女殿下の縁談はいずれも心から想い合っているのだ。私としても我が子のように可愛がってきた殿下達の幸せな未来を壊すような真似はしたくなく……」
うん、分かった。
これはアレだな。
この国の王は俺にNTRをしろと。
しかも自分の娘が被害者とかふざけんなとしか言えないわ。
俺はハッピーエンド主義者なんだよ。やってられっか。
「何卒、何卒、なにとぞ!!!!!!!!」
国王が指示したことだから国側から撤回することは難しい。だから俺が別の報酬を望む形で円満に解決して欲しいと思っている訳だ。
「そうだ。もしも王女殿下の婿という立場が欲しいのでしたら一人だけ……」
「ショーリサイ様、そのくらいにしておいた方が良いのでは?」
「う……そ、そうですな」
やっぱりエリーさんが怒っている気がする。
いや、これは激怒していると言ってもおかしくない雰囲気だ。声質がかなり低く、怒りの感情をまったく隠さず宰相さんに叩きつけている。
「そ、それでは何卒よろしくお願いします」
その勢いにビビったのか、宰相さんは慌てて部屋から出て行った。
「エリーさん、どうしてそんなに怒ってるのですか?」
「……娘を報酬とせよというのは王命よ。いくら宰相と言えども、王に秘密でそれを破るようなことをするなんてありえない」
「確かにそうですが……」
王女殿下のことを思って暴走した、なんてのは王政では許されないのだろうな。
「それに
「え?」
「王は昏睡する前に、『呪いが解けないと判断した場合、即座に市井に助けを求めよ』と指示したのよ。それなのに国が混乱するからとか言って引き延ばしにした。もっと早くに助けを求めていればあの子が苦しむ時間が短かったかもしれないのに……」
ああ、そうか。
エリーさんは宰相の躊躇により友達が長く苦しんだことを怒っていたんだ。きつめの言葉をあまり使わないエリーさんが『あいつ』だなんて呼び方をしているなんてよっぽどだな。
だが俺が特級解呪ポーションを作ったタイミングは事件が公開された日だったから結果は変わらなかったと思う。
彼女がそんなことに気付かない訳が無いから、きっと理屈は分かっていても感情では認められないって所かな。王命に背いていたってのは確かなわけだし。
「あいつは近いうちにクビになるから、さっきの話は気にしなくて良いわよ」
「そうなんですか?」
「国の一大事に二回も王命に背いたのだもの。処刑されたっておかしくないわ」
「わぁお」
異世界こわい。
王様の言う事は素直に聞くようにしようっと。
しかし報酬か。
どうしよっかな。
「とりあえず、王女殿下について教えてくれませんか?」
「ええ」
俺は誰かが不幸になるような結末は嫌だ。
だからどうにかハッピーエンドになるようにと、王様が来るまでの間に少しでも多くの情報をエリーさんから引き出し、考えを巡らせた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます