初コラボ編
第8話 変人はサンタクロース
いやがるドラゴンを鯉のエサで説得してトナカイの被りものを付けさせ、アランはサンタクロースの衣装を纏う。サンプラー用の携帯も配信用ケータイに括り付けてBGMを鳴らす。
さて……と危ない危ない。いくら偽装したと言っても、また騒ぎになるところだった。飽く迄もドラゴンは移動手段であって出演者ではない。
またドラゴンに乗ってダンジョンに向かっていく動画配信したら反省の色が見られないと袋叩きに遭うところだった。
さて、今回の配信するダンジョンは、有名でありながら未踏破で浅層では誰もが楽しめ、低層では初心者でもなんとかなり、中層は中級者も唸らし、上級者の一部が深層に到達出来るが誰も最奥にはたどり着けてないという有名だが奥が深い、「新宿アウトローダンジョン」だ。
ここのどこが素晴らしいかというと、配信に来たのは誰もが確認でき、帰ってきたところも確認できる。つまりリアリティの演出もできる高難易度ダンジョンなのである。トレビア~ンではないか。
ただ新宿アウトローダンジョンの周辺には大都市圏が広がり、ドラゴンで横付け出来ない。かろうじて見つからない程度に人が少なくなるのはダンジョンから約20キロ離れた大垂水峠を挟んだ反対側だ。
この大垂水峠はローリング賊が出没すると言われている怖いところだ。ローリング賊に襲われた乗り物は法面に押し付けられたり谷底に突き落とされて完全に破壊されて、積み荷の金銀財宝、時には生命すら奪っていくという。
ローリング賊の被害にあった生存者も居ることは居るのだが、襲撃されたときの状況については皆口を硬く閉ざして多くを語らず、その実態については謎に包まれている。
本当は上空をドラゴンで通過したいところだが、ひとたびこの峠を超えたらドラゴンが降り立てる場所はどこにもない。ドラゴンをトナカイに偽装してリアカーを引かせて地上を行く。アラン本人はサンタクロースの衣装だ。
しばらく行くと、谷底から「にゃ〜ん!にゃ〜ん!」と猫ではなく人の声が聞こえて来た。アランはガードレールから下を覗き込み、声の出てくる方向を探る。
―――
「よしこりん」こと平沢佳子は世界的な人気を誇る超一流ダンジョン配信者である。本人の抜群なプロポーションに声の可愛さもさることながら、時々出てくる天然でダンジョンに吸い込まれていくミリン屋細野といった個性的なパーティメンバーと、探索のどんな障壁に対してもにゃ〜んと鳴くとすべてが解消してしまうスキルが人気だ。
ファンの間ではそれはスキルではなく一種の放送禁止用語のようなもので、言えないことを裏でやって解決したのだという解釈と、よしこりんが本当にスキル持ちなのだと解釈が二分しているが、両者ともに「かわいいからヨシ!」で意見が一致している。
そのよしこりんだが、大垂水峠の脇にある旧道をリアルタイム配信中に滑落していたのであった。事前に何回も周到に準備していたが、本番配信中に突然起こった雪崩になるすべもなく呑まれた。配信ドローンは5台中2台が健在だが、急な動きにAIが対応できず飛行しながら沈黙の雪景色のなかに虚しく響くにゃ~んにゃ~んの声を鳴らしていた。
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