第4話 来年から本気出す
その日、街は大パニックになっていた。ドラゴンが飛来しそのままダンジョンの横に留まりじっとしているのである。
特に何もしてきたりはしないが万一のことを考えて政府主導で住民は順番に避難している。
当然シェルターや避難のための交通の便は王族貴族ブルジョワジーから先である。
武器を持った兵士が、交通整理、秩序維持と言う名目でプロレタリアと無産市民と奴隷たちに武器の矛先を向けて避難を妨害し、王族貴族ブルジョワを優先して避難させている。
残されたプロレタリアートと無産市民、奴隷たち。平時の建前では市民は平等で皆様のための政府を標榜してるが、いざこういう場面になると本性をあらわにするものだ。政府はやっぱりそういうものだったんだな。ふ~んと半ば諦めている。知ってたけどこうも露骨にやるもんかね。
―――
動画配信はリズム感が命。アランはオープニングテーマのカセットを掛けて配信モードになってるケータイにくくりつけて、かつてテイムしたドラゴンに乗り、「良い子のかんたんダンジョン」に向かう。
オープニングテーマの尺は5分だ。ドラゴン横付けでは少し余るが目立たない経路を取ったり、目立たない場所に繋いで歩くにはちょっと足りない。足りないよりは余らせたほうが良いだろうと、ダンジョン横付けにした。
ケータイをそのへんの木の枝の隙間に倒れないように置いて、ナレーションをする。
「今日は週末なので皆さんご存知の、良い子のかんたんダンジョンを踏破したいと思います!」
言い終わると音楽とともにテープレコーダーがガチャっと止まった。尺ぴったり。調子がいい。これなら万バスは無理にしても百バズぐらいしてくれるかな〜と期待しながら、探索開始の60分カセットA面をセットし再生ボタンを押して軽快なテーマ曲が流れる。
そしてダンジョンを動画を配信しながら歩き回る。やっぱりココでもモンスターは襲ってこず、アランに恐れをなしてカサコソと物陰に隠れて、戦闘にならない。最奥にまで着いたと同時に音楽とともにテープレコーダーがガチャっと止まった。うむ。予定通りキッカリ30分だ。自分の演奏だからあとどれだけで終わるとかわかるから歩くスピードのペース配分出来るんよ。
さて、ダンジョン脱出編に入りますか。前のラジカセはオートリバースだったんだけど、ここのところは安物になったなと嘆きつつ、カセットを裏返して再生ボタンを押す。
ここは入門ダンジョンとして有名なので時折先客とも出会うが、不必要に干渉しないのがマナーだ。
何故か出口付近が渋滞してる。そうだ、不必要に干渉しないのがマナーとはいえ袖振り合うのも他生の縁ってやつで、出会いがてらお話をするのも番組としてアリかもしれない。
「どうかなさったんですか?」
アランは声をかけてみる。
「シーッ!ドラゴンが出口の脇にいるんだ、刺激しないようにどっかに行くまでここで待機するんだ。」
………。やっちまったな。
動画はリアルタイム配信済み。ご丁寧にもドラゴンに乗ってやってくるところまで呑気な音楽入り。一度流れた動画はアーカイブを消してもどこかに残ってるものだ。逃げ道はない。
この場は平謝りですべて打ち明けたうえでなんとか帰ってほとぼりが冷めるまで引き籠もらざるを得ない。
自分の置かれた状況は完全に理解した。
来年から本気出す。
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