狐の涙【結】-MusuBi-

前田 眞

第24話 流れる星と祖母の夢

山の頂から離れた場所で、少年は眠っていた。

その場所も、とても寝心地の良い所だった。


少年は同じ夢を何度も見ていた。


それは、まるで輪廻の如く「狐火」の中を歩く夢だった。

スイの後を追って歩いていた疲労が余程あったせいか、或いは初めて訪れた

この山での出来事が、今までの日常とはまるでかけ離れた出来事だったせいか

少年の脳内は、夢と現の境界線が分からなくなっていた。


夢を見ては起き、起きた様でまた夢を見る。

心地良いながらも熟睡しているとは言えない、初めての感覚に陥っていた。




そんな時間を暫く過ごし、明け方になる頃少年は再び夢を見た。

深い眠りに入る事が、ずっと夢現の脳を安心させるのかの如く、その世界へ引き込まれて行った。




少年は狐火を歩いている先に、鳥居があるのが分かった。

狐火から出て、直ぐにその鳥居を潜ると、そこは何時もの神社だった。

馴染み深い神社は、鳥居から入るのはごく稀だったので、初めは分からなかったが

参道に入ると直ぐにその場所を理解した。


何時もの風景だった。


スイと初めて出会った時の、彼女の目線から神社を見ている様で嬉しさもあった。


季節は恐らく、紅葉も終わり秋が深まる少し肌寒い頃だと感じた。

参道に立っていた少年は、視線の高さから自分がまだ幼い頃だと悟った。

虫の鳴き声も、風の音も無く神社は静寂だった。


その後、少年は何時もの様に宝物庫に向かって歩いた。


すると、小鳥を埋めた場所に祖母が立っていた。

少年は嬉しくなって、駆け足で祖母の元に行き、抱きついた。


小鳥を埋めた場所を、祖母はまるで知っているかの様だったが

少年はそれをもう一度詳しく説明して、その場所で一緒に膝を落とし、お辞儀をした。


その後は祖母と二人で大石に座り、少年は色々な話をした。


夢だったので、何をどれだけ話したのかは曖昧だったが

それでも祖母に、今自分がどれだけ幸せかを訴えていた事は理解出来た。



そして今までの自分の行いに、祖母から再び忠告を受ける覚悟もあった。

それでも少年は、今の自分の切実な気持ちや、これから先の進むべき道を伝えていた。


祖母は黙って聞いていた。





最後に少年は


「婆ちゃんが見た狐火、綺麗だったよ。その中潜ったんだ。」


そう言うと祖母は、ニッコリ笑った。




その後、祖母は消えて、いつの間にか父親が何時もの自慢の燻製を持って立っていた。

父も満面の笑みで、少年に燻製を渡した。



少年は久々に、大好きだった二人に逢えて嬉しかった。

身体が子供に戻っていたせいか、夢だったせいか、些か動くのが大変だったが

父からの燻製を受け取り、それを手に持っていた。



父の燻製を持ち、ふと手水舎の方を見ると、あの頃の狐が座っていた。

少年は懐かしさと安心感を覚え、そうっと歩いて父から貰った燻製を狐の居る少し手前に置いた。




燻製を置く寸前で、少年は瞳を開けた。




まだ夜が明ける前で、辺りは薄暗かった。

とても懐かしく、幸せな夢だったので、続きが見たいと思っていた。

夢現だったので、起きた現実よりも夢の方が優っていた。



少し間を置いて、少年は現実に戻った。


隣に居るスイの手を握ろうとした。

だが、スイの手は無く、その代わりとても柔らかく心地の良い毛に触れた。

薄目で横をチラッと見ると、隣には長い立派な尻尾を身体に巻いて眠っている

黄金色をした狐が眠っていた。



夢見心地だった事と、暗かった事で曖昧な記憶ではあったが

隣で眠っている狐の寝顔は、女神が凍った様な美しさだった。



少年は、眠る狐に懐かしさと安心感を覚えた刹那。



「あの時の」



脳裏を過るや否や、少年は再び眠りに落ちていった。












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