絢爛
Meeka
第一部
十二月になった。ここのところ、地下鉄のホームや街角の街頭看板では、イルミネーションの宣伝が客足の奪い合いを繰り広げている。仕方がない、今はそういう季節なんだ。
私も例外ではなく、職場と家の往復の間でそれらの広告合戦に巻き込まれている。1つはドイツ風のクリスマスマーケットをやると打ち出し、別の一つはここら一帯で最大規模のイルミネーションを行うとか。
乗り換え途中、ぼんやりと広告を眺めながら地下通路を歩いていると、ふと目に留まるものがあった。
「散歩しよう、
これを見て、私は「懐かしいな」と思った。久しぶりに行ってみるか。
それにしては、この季節になれば。
「あっち見ようよ」
「ここで写真撮ろう?」
「綺麗ですね。今日来られてよかった」
などと、あちこちから声がする。声の主は、多くの場合、二人で来ている男女の組だ。向こうからこちらに歩いてくる、腕を組んで身を寄せ合っている二人組も
他方、私は一人。雪が降る中、息を白くさせながら、たった一人で人混みを
◇◆◇
「寒いよ。そろそろ帰ろうよ」
「あとちょっとなんだから、せっかくだし」
「じゃあ、上着貸してほしい」
「俺だって寒いんだから。ほら、すぐそこでしょ?」
「でも、寒いもん。もう帰ろうよ。また来たらいいじゃん」
「今日までなんだよ、このイベント。……それに、寒い寒いって、もっとちゃんと服着て来いよ」
「……じゃあ、私はもう帰るよ」
「は? ちょっと……」
その後、何と言われたか覚えていない。そもそも聞こえなかった気もするし、何も言われていなかったのかもしれない。
あの日も今日と同じように、十二月上旬なのに雪が降った。ここら辺では珍しいことで、異常気象などと形容されている。そんな
目的は単純だ。彼がこのイルミネーションと一緒に行われるイベントに訪れたかったのだ。そのイベントだけなら「一人で行ってくださいよ」というものだったが、イルミネーションもあるということだったので、仕方がなく私も付いていくことにした。
しかし、あまりにも寒かったのが問題だった。というのも、実は、天気予報では雪が降るとはされていなかった。そのため、私はいつもと同じようにコートを羽織った程度だったのだが、想定より
いつもどおりの服装だった私がそんな寒さに耐えられるわけもなく、一緒にイルミネーションの中を散歩している間から口数は減っていった。
イベント会場は駅から少し歩いたところにあった。最初からそこに直行していれば問題なかったのだが、途中に現れた小さなクリスマスマーケットに予定を狂わされた。
野外にいる時間が伸びたせいで体温が下がり、それに伴って全身に無駄な力が入り、ヒールのあるブーツを履いていたために足が痛くなった。率直に、私は帰りたくなった。そして、言い争いになった末、
彼は、そんな私の行動が気に食わなかったのだろう。
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