第20話 両親

 通常、結婚式というのは新郎新婦双方の親類が来るのが普通だが、レイアとアランはいずれも両親は来ていない。アランの両親は健在だが、片方だけ来ているというのも変なのであえて呼ばなかった。と言うよりはレイアが全部取り仕切っていて、式を上げるというのをアランが聞いたのが前日だったというのもある。

 そもそも、その席に来てたら他の参列者と目を合わせた途端に卒倒してそうなので呼ばないのが全面的に正解である。とはいえ、双方の両親を会わす必要はありそうだ。レイアの連れ子が強烈すぎるだけで、レイアのご両親は感じることすら困難な超越的、概念的な存在だからあたかも誰も居ないが如し。


「一応、うちの両親とレイアの両親あわせたほうが良いかな?」


「うちの親ねぇ……。あなたもあなたの親もさらにその親も既に私の両親には会ってるけど、概念的すぎてわかりにくいよね。」


 そう、レイアの母親である存在それ自身の女神と父親である虚空の男神は、何かが存在していれば、それは常に彼らとともにあるからこそ何かがそこに存在出来る。むちゃくちゃ難解な概念なのだ。


「実体化してもらうことも出来るけど、なにかを聞きたい訳でもないただの報告ならその手間をかけさせるのも何だし、私達がよろしくやってるってことだけ時々アランのご両親に挨拶に行けばいいんじゃないかしら。」


 存在それ自身の女神と虚空の男神、すなわちレイアの両親は、一応実体化することが出来るらしい。ただし、それはかつてレイアがどうすればクロノスに秘密にしてゼウスを生み育てる事ができるのかを相談したときに、向こうから情報を伝える媒体としての実体化であって、その必要がないこちらからの一方的な報告ならば既に先方は承知の上だから必要が無いということだ。便利といえば便利だけど味気ないなあ。ご挨拶くらいしてみたいもんだが。


 他方でアランの方の両親に婿入り先のレイアの尋常でない神格の高さがバレたら絶対に天狗になってアランを産み育ててくれた両親ではない何か別のエコノミックアニマルになってしまう予感がする。気が重い。


 両親は尊敬もするし感謝もしているが、その性格や高潔さに全面の信頼は置いていない。身内にこれだけの女傑が居るならきっとみっともなくあれやこれや無心するだろう。自分がその立場なら多分するから、内なる両親が信用出来ないことを教えてくれている。そんなことでレイアの失望を買いたくはないし、罰を当てられる事まで想像がつく。


「わたし、そんなので怒るほど偏屈でも世間知らずでもないわよ。舐めないで。こう見えてもあの腕白小僧とお転婆娘たち育ててるんだから、今でこそそれなりになってるけど、あの子たち育てるのなんてどれだけ忍耐を要求されることかわかってないでしょ。」


 確かに、暴れたら誰も手が付けられないゼウスやポセイドン、ハーデスのわんぱくこぞうたち、お転婆娘のデメテルを手の内で踊らせつつ育て上げた女なのだ。アランの両親がいくら天狗になって図々しくなったとしてもアリん子のようなもんだ。そもそもそうなりそうだというだけで実際にそうなったわけじゃない。


結局「新婚旅行の帰りがけに旅行の思い出をおみやげにアランの実家に寄リましょう。」

ということになった。

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