第2話/在りし日の思い出・ようこそ異世界へ
『……なんだよ爺ちゃん。そんな嬉しそうな顔して……』
『ぬっふっふっふ……"
――これはルーク……"
『……なにそれ? 新しいヘルメットか?』
『まぁ一見すればそう思うわな。だがこれは違うぞ孫よ! 今度発売される最新のゲーム『
『……それで? 今度発売されるゲームのプレイ機材を持ってるってことは、ベータテスターにでも選ばれたのか?』
『ぬぅ、反応が薄いのぉ……もうちょっと驚いてもいいんじゃが……』
『……やってる暇ないからさ。俺じゃなくて"
『……はぁ……城司も若いんじゃ、もうちょっと気楽に遊んでもいいんじゃないのか?』
――ミーハーな祖父との会話であり、城司が初めて
『……俺は美雪の兄ちゃんなんだ。家族として、俺は頑張らなきゃいけないんだ……』
『城司……そうじゃな……』
『だからそれは美雪に――』
『じゃがそんなものは関係ない! とりあえずやるぞ! 都合のいいことにプレイする機材は3つあるんじゃ!』
『……いややらねぇって……第一、それの遊び方知らねぇんだけど……』
『それを開拓するのがゲームの醍醐味じゃ! つべこべ言わずにやるぞ! んん? それともなんじゃ? 儂と美雪だけで遊んでいるときに、美雪が一人迷子になってもいいのか?』
『……仕方ない、やってやるよ』
『ふっふっふ、さぁ、早速やるかの!』
――幼少の頃に両親を亡くし、妹である"
『おー! このゲームは新鮮で面白いのぉ! THE☆異世界を冒険できるとはなぁ!』
『おい爺ちゃん、あんま勝手に行き過ぎるなよ……ったく、聞いてねぇし……』
『ねぇお兄ちゃん! 私も行ってきていい!?』
『……はぁ、まぁあんまり遠くに行き過ぎないなら行ってもいいぞ』
『! じゃあ行ってきます!』
『……ほんと、元気にはしゃいでんなぁ……』
――ベータテスト版の頃のF.F.O.は、まだ未開拓な異世界という設定もあって、城司……"ルーク"達はその自然あふれる世界を駆け回っていた。
『そっち行ったぞ爺ちゃん!』
『ぬぅん! まだまだ儂は若いぞぉおおおおおおおお!!』
『頑張れお兄ちゃーん! 頑張れお爺ちゃーん!』
――時には現実には存在していない生物――"魔物"と戦い、
『ほほぉ! 食事アイテムを食べると味覚センサーで本当に食べたような味がするのぉ!』
『ん~! おいし~!』
『……うめぇ……こんなところまで作りこんでるのかよ運営さん……』
――時には冒険して手に入れたアイテムで作った食事をとる時もあれば、
『じゃじゃーん! かわいいでしょ~!』
『流石は儂の孫じゃ! なんでも似合っとるぞ~!』
『えっと、『絹の魔術師ローブ』1個で5000マニー……『オークの杖』一本で3450マニー……そこらの魔物を倒して大体50マニーだから……』
――時には様々な装備を手に入れ世界を楽しんでいった。
『…………楽しいな』
『そうじゃろ? あんまり重く考えすぎるなよ城司。お前はまだ気楽に生きてていいんじゃ』
『……そうだな。ありがとな、爺ちゃん』
『かっかっか! 素直でよろしい!』
――そんな始めたての思い出。本当に大切な思い出があったから、城司は変われたのだ。
『そうじゃ! ファンタジーといえば『ギルド』を作ってみたいのう!』
『ははっ、どんなのを作りたいんだよ?』
『そうじゃな、ここは異世界でも最強の生物にあやかって、そのような
『――『
~~~~~~~~~~
まどろみの中で目を覚ます。
(――な――にが――)
メールから発せられた眩い光に包み込まれ、見える世界がすべて白一色に染め上げられる中、ルークは意識をはっきりとさせた。
しかし、体は強烈な水流にのまれたかのように感じられ、手足が思ったように動かせない。
それならばとルークは、ある程度自由に動く頭を使って考えを巡らせ始める。
(まず何が起こってこんな状況になったんだ――思い出せ――何があったのか――)
どこまでも続いていそうな真っ白な世界にいる原因、そのことに関してはあっさりと結論が出た。
(そうだ――運営からのDMが俺達全員に届いて――)
――突然届いたF.F.O.運営からの
個性の集合体ともいえる『
なので今回も『それ』関連なのかと特に警戒もせずメールを開いた結果、今のような状態になっている。
(流石に無警戒すぎたか――)
そう後悔しても今となってはもう遅い。
こんなことを起こしたであろう運営に恨みをぶつけようにも、今の状況ではどうしようもない。
その証拠に……
(コンソールウィンドウが出てこねぇ――)
唯一の頼みの綱であった、ゲーム内機能であるコンソールウィンドウが開くことすらできなくなっている。
この感覚は、まるでF.F.O.を始めたときのチュートリアルムービーのようだと、ルークは感じていた。
そんなことを考えつつも、思考を巡らせていたルークであったが、突如として変化が訪れる。
『――あなた達は――選ばれし者――』
(――!? この声はなんだ――!?)
虚空から語り掛けるような声が聞こえ、先程まで覚醒しきっていなかった頭が急に鮮明になり始めたからだ。
鮮明になった頭と共に、体の制御も戻ってくる。
しかし、その体は水の中でおぼれているかのように天地の感覚がはっきりとしない。
そんな状態であっても、虚空からの声は紡がれていく。
『この世界を――変えてくれる――』
(世界を変えてくれるって、アンタは一体何なんだ!? これはどういう――いや、この話は――!)
訳の分からない状況に混乱していたルークだったが、ふとあることを思い出す。
(『F.F.O.』のオープニング――!?)
そう、虚空から聞こえてくる声の内容が、『
なぜそれが今更になって聞こえてくるのか……混乱している間にも話は進んでいる。
『――あなた達なら――この世界――"
いつの間にか自身の体の感覚が戻り始め、自由に動かせるようになり始めた。
そして、白一色だった世界に色が付き始め、朝日に照らされる広大な世界――"フロンティア"の光景が目に飛び込んでくる。
今まで宙に浮いているような感覚が、眼下に広がるフロンティアの大地に向けて落下していくのを知らせ始めた。
『だから――あなた達に託します――この世界の未来を――』
「ま、待ってくれ――!」
虚空へと伸ばしたルークの腕は何もつかむことはなかった。
まるで、今までの繋がりが解けるかのように――。
そして、吹きつけられる風と共に、ルークはフロンティアへの落下を強制されるのであった。
「っ! "ブレイブ"!!」
「キュイ! キュアアアアアアアアアア!!」
このままでは地面に叩きつけられると判断したルークは、自身の相棒であるワイバーン――"ブレイブ"を呼び出す。
懐のポーチから拳大の宝石が飛び出し、眩い光を放ったかと思えば召喚用の魔法陣が展開され、そこから巨大な翼竜が現れた。
翼竜ことブレイブは落下するルークの姿を視界に捉え、彼の落下方向へと先回りするように降下する。
流石は翼を持った生命の中でも"空の王者"と言われる竜種という設定のブレイブだ。
その飛行能力は伊達ではなく、高速落下していたルークをたやすく回収する。
「いっつつ……助かったぜブレイブ」
「キュキュイ♪」
「……なんかお前、さっきと比べてやたら生物味があるな」
「キュア?」
「…………お前ってそんな挙動したっけ?」
九死に一生を得るような状況を乗り越えたかと思えば、何やらいつもと比べて違和感を感じ始める。
いつもよく見るゲームの中の世界にいるというのに、まるで現実にいるようなおかしい感覚。
ゲームの中では定型文とプログラミングされた動きしかしなかったはずの相棒は、やたらと生物的な応答をした。
ルークの中で嫌な予感が湧き始める。
そして、この状況に酷似した"あること"を彼は知っていた。
「まさかまさかと思うんだけど、まさかこれって――」
「きゃああああああああああああああああああ!!!!」
「っ! この声は――!」
「お、お兄ちゃん!? 助けてぇえええええええええええええ!!!」
「ブレイブ!」
「キュア!」
そんな思考を断ち切るように、叫び声が頭上から聞こえたかと思えば、雲を突き抜けて見知った顔――ミユキが落ちてきていることを認識した。
ルークはそのことを理解するよりも先に直感でブレイブに指示を出し、ミユキの落下方向へと先回りをし、ふわりと受け止めた。
――もう、色々と現実から目を背けてはいられなかった。
「風もやたらリアルっぽいし! アプデが来たにしては大型すぎてもっと後になるはずだろ!? しかも、さっきのボイスは機械的な感じじゃなくてリアルで聞いたときみたいな感じだ! おまけにお前はなんか変わってると来てる! 考えたくないんだけどさ!これってあれか!? 俗に言う――」
――それはここにいない仲間達も同じ気持ちだった。
「「「「「「「「「「「――マジモンの『異世界転移』ってやつ(か)(ですか)(なのかしら)(かの)!?」」」」」」」」」」」
――さぁ、物語は始まった。
――異世界――"フロンティア"を舞台とした冒険譚は、『空想』から『現実』へと変わった。
――そんな世界に放り出された彼等――『
――それは、誰であっても分からないのかもしれない……。
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