第40話 レインの想い
「9番隊は負傷者を中心に撤退を開始!6番と7番隊で動ける者達を抜けた穴を埋めるように伝えろ!」
「ハッ!!」
「現在、西から現れた新たな部隊がスパルタクス様と戦闘を開始したと報告が!!」
「ええい帝国め、他の総督でも動かしたのか…!どの軍団か分かるか!?」
黎明解放戦線の指揮拠点、その一部であるテントの内部は喧騒に包まれていた。中央に広げられたヴェディタル平野の地図を、レインを含めた多くの人間が囲い逐一指示を出していた。
自陣と敵陣の部隊を模した模型を
何故なら突如として現れた謎の軍団──ベルが自らの
その余りの数に苦戦を強いられている。男爵領の民兵達が持つ竜印でさえ歯が立たないという情報さえ、今この瞬間では恨みを通り越して怒りすら覚える程だ。アレらをどうにか出来るのは、最強戦力たるスパルタクスを除いて他にいない。
だがそのスパルタクスもまた、自由に動けていないのが現状。西─帝都アルダシアの方面から現れたという新たな兵力の一団が彼と激突している。
帝国随一を誇る第五と第七軍団の総督を纏めて相手取り、優位を保った程の戦闘能力を有するスパルタクスを足止めし得る戦力を新たに投入してきたという事実は、帝国が持つ戦力はまだまだ底知れないということだろう。
「面倒な……!」
その事実にレインは歯噛みする。後1人、スパルタクスに匹敵する程の
行動が早すぎたか?準備をきちんと整えるべきであったか?そう考えれば考える程に自らの拙速さに苛立ちを隠せなくなる。救いを求める者達に手を差し伸べるという純粋なレインの思いがこの事態を引き起こしたというのなら、ならどうすればよかったのか、と。
「レイン様!!こちらに総督──」
「はい全員動くな抵抗するなー、ほんの少しでも動こうとしたら潰すわよ」
外で見張りをしていた兵士がテント内部に侵入し警告を放とうとしたその瞬間、天幕を切り裂きながら第七軍団総督、カレン・ファルジナが蒼炎を撒き散らしながら降り立った。
「っ!?……よもや、無事でありましたか…ファルジナ総督…!」
「普通に死ぬかと思ったわ、レイン・シャクンタラ・ヴィシュヴァー。中々良い拾い物したみたいね」
突如として目の前に現れたカレンの姿を見て、レインは息を呑む。傍目から見れば身体のあちこちに大小様々な傷が刻まれており、出血も止まっていないのを見る限りスパルタクスは彼女をかなり追い詰めることには成功したようだ。
「さて、同じ女の子同士お話ししたいのは山々なのだけれど……今ここで降伏するのを勧めるわ」
片手で巨大な
「降伏?巫山戯るなよ第七軍団総督、私が幾度となくヴィシュヴァー辺境伯領で行われている非道の数々………それらを全て握り潰した者がそれを言うかッ!!!」
「…は?いや、ちょ」
レインは蒼炎纏う鋒を、火傷を負う事を厭わずに掴みカレンに啖呵を切る。手を覆う白の手袋が焼け焦げ、激痛が神経を通してレインに伝わるものの彼女はそれらを無視し、己の心境を吐露していく。
「私が何度中央にコンタクトを取ろうと思ったか分かるか!?1000や2000では効かん、手段やルートも幾度と無く変えていった。にも関わらず返ってくるのは沈黙という答えだけだ!!その上で我等が行動を起こせば反乱だ鎮圧だ、挙げ句の果てには降伏だと?貴様ら帝国の面の厚さは相当なものだな!!」
血走る眼差しが、レインの気迫を際立たせる。カレンとて多くの修羅場を潜り抜けた歴戦の兵士だ。気迫威圧、そういったものには慣れている。
「ッ……喧しいわよこのバカ女!!私はそんな手紙も情報も、一度たりとて手にしたことは無いわよ!!!」
「何だと…貴様ァ!!」
カレンもまたヒートアップし始め、それに呼応しレインも熱くなる。最早激突は避けられない、2人の女性の放つ覇気に呑まれてしまった者達は見守ることしか出来なかった。
「うわっ、何かキャットファイトしそうですよ皆さん。どっち応援します?」
「……ベルさん、不謹慎…ですよ」
「うわわわ姉様落ち着いて!と、取り敢えず話聞きましょう!?ね、ね!?」
「そうだぞカレン、お前さんは熱くなり過ぎんだよ……」
そんな緊迫した空気をぶち壊したのは、同じくカレンと共に行動していたアリシア達だった。
慌ててカレンとレインの間に入り、無理矢理距離を取らせるアリシアとカルグだったが、場の空気は先程と比べ比較的マシにはなったのだった。
「れ、れ、れ、レイン様ぁぁ!!うお、総督まで!?」
そんな空気を更に切り裂くように、慌てて外から入る1人の兵士。苛立ちを隠せないレインに加え、歴戦の総督や
「ヴェディタル平野南部に、無尽烈竜トランギニョルが出現!現在、スパルタクス殿と帝国兵達が応戦していますが、報告によるとこちらに向かって進撃しているとのことです!!」
その報告が為されたテント内部は、先程までの喧騒とは打って変わり静寂に包まれるのだった。
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