第38話 鋼の軍勢
「うっひゃ〜……数多いですねぇ」
「そ、そうだな、まずはここを突破しなければ……シェーン、行けるか……?」
戦場を疾風のように駆け抜けるルプの背中にしがみついているベルの呑気な発言に同意するアリシア。周囲を見渡せば人、人、人。スパルタクスの
そんな中、疾駆するルプの周囲に3人の人影─カレン、カルグ、そしてシェーンが全速力で駆け抜けていた。自身の脚部を
「……そうですね、殺しても構わないのなら……可能かと……」
アリシアの問いかけに答えるシェーンであったが、そこには嫌悪の感情も含まれていた。元々人ならざる怪物達と戦い続けてきたシェーンは、人同士の戦争というものを経験したことがない。人同士、悪意を持って殺し合うこの状況を目の当たりにし、それを止める術を殺害という形でしか行えないのだ。それ故の嫌悪であり、アリシアもその表情から理解したのだった。仮にも共に戦う仲間に、そのような非道をさせる訳にはいかない。
「姉様、どうしますか?」
「その子がどんな
アリシアは隣でルプに併走するカレンに問いかける。カレンとしても命まで奪うのは違うと判断しているが、逆に言えば一般兵ですら圧倒している奴隷達─スパルタクスの
「あ、じゃあ私やりましょうか?」
「「は?」」
「……そうですね……ベルさんなら、やれると思います……」
だが、そんな状況でベルは呑気に手を挙げる。その発言にカレンとカルグは軽くブチ切れかけるものの、続くシェーンの発言に困惑を浮かべる。
「ふっふーん、あの要塞の兵士達を無傷で制圧したのは何を隠そうこの私。さあやっちまいますんでルプさんは一旦止まってくださいな」
「ヴァウッ」
ベルは嬉々として自らに宿った異能を使うべく、その場に停止することを要求する。ルプはそれを受け入れ、徐々に速度を落としていく。だがそこは戦場のど真ん中、敵味方入り乱れる戦域だ。
「……皆さん、彼女の警護を」
「あ、あぁ……本当に任せてもいいのだろうか……」
「大丈夫大丈夫、この私に任せてくだせえアリシアさんや」
その状況下で真っ先に動いたのはシェーンだった。自らの
「こいつが攻め落とした、だぁ……?」
「ちょっと予想出来ないわね……」
その中でカレンとカルグは困惑していた。理由は、ベルの容姿だ。アリシアよりも小柄な体躯は戦闘者のそれとはかけ離れている。世界には彼女よりも小柄で、自分達と同等かそれ以上の戦闘能力を持つ者も居ると聞く。
だがベルには、強者特有の
『ここに我が竜銘を刻まん──』
次瞬、周囲の大地に満たされる莫大な
『織りなすは無限の摩天楼。意志も想いも情動も、無謬の零と壱が紡ぐ智慧の灯火を前にして敢えなく崩れ去る』
どこまでも理不尽に、冒涜的に、ただ技術的に異界法則を紡ぎ上げていく。大地が鋼に、草木が電線に、石塊が
『自由無き鋼の楽園。それに異を唱える者は存はしない。ただ生まれ、ただ生き、ただ満ちて死して逝くその在り方は正に救いそのものだから』
立ち上がるは人型の鋼。この世界には存在しない
10、100、1000──無尽に増え続ける機械の軍団。それを目の当たりにしたアリシア達は言葉を失っていく。
「んだよ、この数は……!」
辛うじてカルグが口を開くものの、それは驚愕に染まっていた。戦場を活躍の場とする者達なら誰もが知っている1つの道理。戦いにおいて他を圧倒するのは質に在らず、全ては数で決まるという純然たる事実。ベルの
如何に数を集めようとしても、草木や大地が尽きぬ限り彼女の
文字通り、単独で帝国や連合を相手取った上で圧勝しかねない程の軍事力を
『なれども、只人たる我等は願おう。超越者たる
だがそれはベルにとってはどうでも良いことだった。自由が欲しい、明日が欲しい、束縛される世界なんか真っ平ごめんだと、紡ぎ続ける
それ故の宣誓。運命の全てを管理される、純白の地獄への叛逆の狼煙。奇しくもそれはスパルタクスの思想に似たものだった。
終わりなき無謬の暗闇を、その足で切り拓く意志を、ベルは己が
此処に始動するは究極の武力。
「
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