第25話 会議は始まる
「それではこれより、臨時の帝国会議を開始する」
その一声と共に、場内に緊張が走る。唾を飲む音すら響いてしまうと思わせる程の静寂に包まれる。帝国最強の戦力が短い期間に2回も集うという異常事態を前にすれば、仕方ないと思わざるを得なかった。
「さて、何度も諸君を呼び立てて申し訳ない。先ずは、謝罪させてほしい」
そう言って1人の男が立ち上がり、場内にいる全て─総督達は無論のこと、背後に控える文官武官達にも同様に─頭を下げ謝罪する。
彼こそ第一中央軍団総督“英雄”ピルガ・フォン・エルキン・ドゥムジアスタ──帝国が誇る最強の個人だ。幾度となく積み重ねられてきた武功に並ぶ者は存在せず、胸には数多の勲章が付けられた金髪の壮年の男性だ。強さとしても、人格者としても真に皇帝の懐刀と讃えるに充分な人物として知られている。
「しかし、それが我々の仕事です。職務に忠実たれ……我ら誇り高き帝国の使命なれば」
そうピルガに言う男は第二南部方面軍団総督“
その席は、第三北部方面軍団総督“
「………奴が居なくとも、会議は進められる」
頭を悩ますマクギスの不在をどうでも良いと一笑に伏すのは第四北部方面軍団総督“獣騎士”アラン・スタリオルだ。他の総督達のような黒の軍服ではなく、
「だな、あんな問題児いても会議の内容を荒らしに荒らして自分は何もしない、なんてことになりかねねぇ」
それに同意するのは第五東部方面軍団総督“
「そうですね、それで…何故また我々を呼んだのでしょうか、ドゥムジアスタ公」
早速議題を聞こうとするのは、第六軍団総督“
「ええ、もし敵が近づいているとかくだ……簡単な問題でしたら速やかに潰してきますわおほほほ」
怒りを通り越して殺意すら滲ませるのは、第七東部方面軍団総督“紅蓮后”カレン・ファルジナ。
愛しの
「そうだな、マキナ公の言う通り速やかに終わらせよう。議題は2つ、先ずは……バシラウス要塞が陥落した」
ピルガの発言に場内が一気にざわつき始める。帝国と連合の主要戦線、その内の1つを担うバシラウス要塞が陥落したという情報を聞いて落ち着いていられる者は限られていた。
「確かバシラウス要塞って…カルグ、アンタんとこのじゃなかったかい?」
そうカルグに問いかけるのは、第八南部方面軍団総督“刃舞斬踏”シェラ・マルジアだ。赤毛に褐色の肌─帝国領南部の少数部族の生まれである彼女だが、その姿を見た多くの人物は目を逸らすことになるだろう。何故なら彼女の纏う軍服は最早服の体裁を成していなかった。文字通りの水着と言っても良い服を煽情的に纏う、妖艶な美女であるシェラに対し、カルグは「いや、まあ…うん……」としどろもどろに答えるしか出来なかった。
「すまないマルジア公、彼に報告をさせなかったのは私の判断だ。流石にバシラウス要塞が陥落したとの情報が帝国国土に流れれば、発生する懸念が増大する恐れがあってな」
「あら、そうなのかいドゥムジアスタ。そいつは悪いことしたねカルグ、許しておくれ」
だがカルグが答えられなかったのは、ピルガによる情報統制だった。現に、帝国は幾つかの不穏分子をその内に抱えている。バシラウス要塞という対連合の要所が攻め落とされたとなれば、帝国の崩壊すら起こってもおかしくはない。
「じゃあ、この会議はバシラウス要塞の奪還についての話ってことで良いのかな?僕が出張ろっか?」
そう気怠そうに挙手しながら発言するのは、第九西部方面軍団総督“煌彩天輪”ラタ・プシュカルだ。
男でありながらミニスカートを履くという倒錯した趣味を持つ人物だが、彼もまた帝国最高戦力である総督に任命される程の人物であり、また戦闘狂でもある。彼と、彼が率いる軍勢を以てすれば如何に難攻不落の要塞であるバシラウス要塞であっても攻め落とせるだろう。
「いや、それは不要だプシュカル公。何故なら、既にバシラウス要塞は奪還されている」
「「「は?」」」
だが、続くピルガの発言に総督達と文官武官達は困惑を隠せない。難攻不落のバシラウス要塞、連合が使う
「あー、オイラは陸の人間じゃねえから分からねえんだけどよォ……先ずは誰が攻め落として、んで誰が奪還したか説明してくれねぇか?」
そう言うのは、帝国が有する唯一の海上戦力である艦隊を率いる、西部大洋艦隊総督“破海”バステルム・マグナランダだ。蓄えられた白い髭と恰幅の良い体型、そして全身に刻まれた無数の傷跡が彼の戦歴を無言で語っている。そんな彼の要請を受け、ピルガは説明を開始していく。
「そうだな、先ずバシラウス要塞を陥落させたのは連合からだっそうした
「む、無傷…!?」
その説明はカレンを初め、更なる困惑を呼ぶだけだった。
純粋に心技体が備わっていない者が行使できるようなものでは断じて無いことを、総督達は魂で理解している。だからこその困惑だ。
「…………俺たちの中で、1人でも居るか……?要塞を攻略し、人員全て……無傷で捕えることが…」
アランの問いかけに返ってきたのは無言だった。当然だろう、それは不可能だ。不殺というのは、圧倒的な力量差が無ければ成立しない。仮に出来たとしても100人が限界であり、バシラウス要塞に駐在する戦力全ての無傷による捕縛を可能とは口が裂けても言えなかった。
「そして後日、近くにある要塞都市グヘカの速やかに行動可能な戦力を向かわせた結果、その者の手によって奪還に成功したとのことだ」
「カルグさぁ、そんな戦力あるなら報告しなー?」
ピルガの報告を纏めるならば、連合から逃げてきた
「それで、誰が奪還したのですか?」
カレンはそう問いかけながら、手元にあったコップに注がれていた水を口に含み、ピルガの答えを聞いて──
「うむ、確か…アリシア・コットンフィールドだったな」
「ぶふううううう!?!?!?」
──そして、見事に水を噴くのだった。
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