第11話 戦鬼激突
「オオオオォォォォォォォォッ!!!」
「ハアアアァァァァァァァァッ!!!」
教会前の広場に、2人の戦鬼──大具足を纏う大男の平教経と、濡羽色の美しい長髪を後ろに束ね、鴉を思わせる装束を纏う容姿端麗な女性の源義経──の咆哮と鋼と鋼が渾身の力を以て激突する、耳を劈くような激しい剣戟音が響き渡る。縦横無尽に駆け巡り、放たれる一撃は悉くが致命に至る部位にのみ集約し、そしてさも当然かのように受けて凌いで
「わ、私おかしくなったかな……あの2人、飛ばしてない…?」
その理由は単純明快、斬撃が飛翔しているのだ。尤も、その技術自体が存在することはアリシアも知っている。その身で練り上げられた
だが実際のところ、その特殊な要領の習得は困難を極める。そもそも
「一体、どんな世界から来たんだ…」
「ハハハッ!!やっぱりキミとの殺し合いは最高だ、愛してるよ教経ェ!」
「喧しいぞ山猿がぁ!!俺も会えて嬉しいぞ、この手で漸く殺せるんだからなぁ!!!」
アリシアが怯えているということは露知らず2人は互いに殺意と憤激と愛情を叫んでいき、同時に攻撃は更に剛く、疾く、鋭くなっていく。互いが放つ首狙いの斬撃はしかし、手甲で逸らすと共に体勢を崩させ己の次撃を致命にせんと更なる攻防を繰り広げていく。
その中で2人は、自らの持つ力に対する知識を深めていく。
「うん、中々に面白いよね、これ。ボク達の生きた世界にもあれば良かったのに」
「貴様の天才っぷりには怒りを通り越して呆れるが、それだけは同感だな」
互いが戦、闘争の天才。積み重ねられた異界の技術や武術をただ見様見真似で成立させるなど先ず常人には不可能だろう。だが、かつての日本において無双を誇った2人はさも当然かのように、呼吸をするかのように行なったのだ。だがそんな異界の常識など知らんと、改めて刀を構える2人。その時、義経は一瞬物陰に隠れているアリシアを一瞥し、苛立ちを隠せないのか舌打ちをし教経に問いかける。
「ねえ教経、あの女誰?この世界で作った妻?ボクというキミを心から愛してる女がいるのに?」
その発言を耳にして、教経はまたかと嘆息する。あの日…互いが初めて戦場で出会い、殺し合ってからはいつもこうだ。何時如何なる時でも愛を叫びながら殺そうとしてくるのだ。
「一体何度言えば分かる…俺と貴様の家系は殺し合っていると─」
「でもその
「な、何を話してるんだあの2人…」
先の激しい戦いが収まり、何かを語り合っているのを確認したアリシアはその内容が気になって仕方がないのか、耳を澄ませようとする、その瞬間。
「ねえどいて教経、その女殺せないッ!!!」
「
「うびゃあっ!?!?!?」
遠く離れていたにも関わらず、まるで2人が瞬間移動したかのようにアリシアを挟み込むような立ち位置になると同時に、血風轟く神楽舞が再演されていく。
「うにゃあああああ!!!!!?!?」
必死に頭を下げ、地べたと融合するかのように伏せるアリシアの頭上を死刃が駆け巡る。殺意と憤怒を伴う義経の猛攻を同じく殺意と憤激を以て迎え撃つ教経。斬撃の余波だけでアリシアの紅色の髪の毛が僅かだが切れていくのを本能で知覚していく。
“あ、死んだ”
恐らくあと数秒、もって数分の間に自分の命は儚く斬り刻まれると確信したアリシアは誰に遺す訳でも無く、遺言を考え始める。そんな中教経と義経のやり取りは更なる激情を伴っていく。
「ねぇ、ボクの何が悪いの何がダメなの早く教えてよキミの為なら全力で直すから!!!」
「よしでは聞け、俺達はそもそも敵同士恋仲など有りはしないだろう!?」
「男なら黙って女の1人や2人抱いてみせなよ!いや待ってダメだボク以外の女がキミに抱かれるの許せねえ!!」
「ほんっと情緒が不安定だな義経ェ!!」
鋼と鋼が激突する際に生じる火花が、豪雨のようにアリシアに降り注いでいく。身体が焦げる事はないだろうが、それでもアリシアは必死に耐え抜く。同時に、2人のやり取りを聞いて得心する。恐らく、この女性は自分と教経がそういう関係であると勘違いしているのだと。それを解消すればあるいは…!そう思って、命乞い代わりにその言葉をアリシアは全力で叫ぶ。
「わ、私と!教経…さんは、ええとそういう関係では無いと言いますか!その、貴女の方が教経さんとお似合いだと想います!!!!」
その叫びが、アルモス村に響いたその瞬間。
「ホント?」
義経のその声と共に、教経の展開していた大太刀による防御網を掻い潜り、アリシアの頸部を今にも斬り飛ばそうとしていた義経の刀─薄緑が止まった。あと僅かでも叫びが遅れていれば、確実に死んでいたであろう位置に刀があるという事実に、ガクガクブルブルと震えているアリシアに対し義経は満面の笑みを浮かべて、再度アリシアに問いかける。
「ボク、教経とお似合い?」
その問いに、アリシアは涙目になりながら全力で首肯するのみだった。
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