第3話 ベルム村攻防戦─①
「す、すまない…大丈夫か…?」
「し、死ぬかと思った……とは言え、礼を言わせてくれ…」
「何を言うか!助けられたのはこちらの方だとも、ご助力感謝する」
対するアリシアもまた教経に向け礼の言葉を述べる。彼が居なければ今頃目の前に横たわる熊の胃袋に入っていたかと思うとゾッとする。生きたまま貪られ、誰にも見つかることなく無意味な生を嘆く未来を想像するも、それを振り払うかのようにぷるぷると頭を振るい、
「改めて名乗らせてもらおう、帝国陸軍士官候補生のアリシア・コットンフィールドだ」
自らの身分と名を名乗り、手を差し出す。本来な全力の
「俺は平能登守教経だ、貴殿には助けられた。……その、不躾ですまんがその手は…?」
だが、悲しいかな。握手という概念は平安時代末期に生きた教経には未知そのものであった。
「え、いや…その、握手だが?知らないとはどんな土地から来たのだ……」
教経のそんな様子を見て、アリシアは一気に警戒態勢に移る。とはいえ命の恩人、手荒い対応は避けたいとの思いもまた否定できない。よって、教経の行動に注視するも、
「あー…その、すまん。実は俺もよく分かってなくてな……事情を説明したいから、柄から手を離してくれ。抜かれれば此方も抜かねばならん…だがそれは望んでいない、恩人に刀を振るうのは避けたい」
それは教経も同じだった、彼にとってもアリシアはある種の恩人にも等しい。そんな人物と殺し合いすることは望んでいないのだ。
「…分かった、取り敢えずどこか休める場所を探し、そこで事情を聞くとしよう」
教経の態度を見て、アリシアは警戒を解く。ふぅ、と息を吐き緊張を解し、「それでは行こう、私について来てくれ」と教経に告げて休める場所を求めて歩き出す。教経もまた「応」と短く答え歩き出す。
それからある程度の時間が経った。少なくとも天頂に陽が登っていた頃から、日が沈み、空に巨大な太陰と満天の星が散りばめられていることが視認できるようになった頃、二人はお互いの持つ情報を交換し合っていた。
教経が最も気になっていたのは、竜印─先の戦いでアリシアが使用していた、炎を操る妖術─と呼ばれるものだ。
話を聞くに、この世界には
「俺も契約すれば手に入るのだろうか…」
正直言って羨ましい、矢に炎や雷が宿れば正に絶大な破壊力を獲得出来るだろう。その力があれば、源氏を…頼朝を…義経をも倒せるだろう。脳内で火やら雷やらを操り敵兵を薙ぎ倒していく姿を妄想していた教経だったが、
「え?もう契約しているだろう?」
アリシアの放った一言で脳内でそれは粉々に打ち砕かれてしまった。「そ、そうなのか…?」と弱々しくアリシアに問いかける教経、
「だってノリツネ殿、その剣やら弓矢やら槍…?やらを作り出していただろう?継戦能力の極めて高い素晴らしい能力だ!とはいえそんな竜がいたかな…剣竜は聞いたことはあるが、それだと弓矢や槍の説明が…」
そんな様子に気付かずに教経の持つ竜印を考察していくアリシア。
複数の武装の召喚を可能にする力…確か神話の時代には、無数の財宝を射出して戦う英雄が居たとも伝えられている。その類か?と考え始めるものの、
「待ってくれ…俺は契約した覚えは無い。そもそもその、竜とやらには会ったことも無い」
「何だと?その見た目で契約してないとか、どんな辺境から来たんだ…?」
教経の言葉に違和感を感じて、思考を中断する。この世界において、竜と契約していないのは謂わば自らを野生の獣であると周囲に知らせているようなものだ。だがそうなると、教経の纏う豪奢な鎧の説明が付かない。これ程の一品、並大抵の立場では手に入らないだろうと想像がつく物を纏っている以上、教経の正体が分からなくなっている。
「ええと、実はだな─」
「──とまあ、こんなことがあってな。それでここに来たという訳だ」
「…………ぇ?」
今までに何が起き何があって結果どうなったか…ということを懇切丁寧に説明したところ、アリシアはショートしてしまった。
「ええと、つまり…ノリツネ殿は…この世界の人間では無い…?」
最早理解が及んでいないのだろう、頭にクエスチョンマークが乱立していたアリシア。だが絞り出すかのように、しどろもどろなりながらも結論を述べた。
「うむ。少なくともアリシア殿は日本という国を知らんのだろう?」
「う、うむ…日本という国は聞いたことが……あー、いや待ってくれ…確か異世界転生者…?なる者の出身が日本だったような…」
「異世界転生者?」
最早意味すらわからない言語が目の前の少女から飛び出て来て、頭を抱える教経。だがそんな彼を尻目にアリシアは続ける、
「帝国では実用化されていないが、連合の方でな…。確か、こことは異なる世界に住まう魂を召喚する儀式だった筈だ。改めて問うが、ノリツネは…召喚されていないんだよな…?」
アリシアはまるで、目の前に捕食者が現れた被食者のように怯えながら教経にそう問いかける。
何故なら、アリシアは異世界転生者の恐ろしさを自身の教官から教えられているからだ。文字通りの無法、竜印の
だが、そんなアリシアに気付いていないのか教経は、
「安心してくれ、俺は少なくとも人には呼ばれておらん」
とあっけらかんに答える。そう、教経は人には呼ばれていない。ふと、アレを思い出す、黄金に輝く人面の龍。神を僭称するあの姿を思い浮かべた瞬間に、殺意が迸る。あれこそが平家の衰退の元凶、否。我が主たる言仁殿の死に直結していると悟った。
全ての運命は神が定めている、という考えはアレと遭遇する前には存在しなかったものだ。何故?どうして?と思いつつも、内心理解していた。アレはそういうものだ、人智を超えた怪物を人智で以て理解しようなど愚の骨頂なのだと。
「あ、あのー…ノリツネ……さん?」
「……その、すまん」
その声に意識が戻される。気が付けば、目の前には青ざめた顔をしながらぷるぷると震えている
「それで、ノリツネ殿は…この後どうするのだ?私はこの後街に戻る…というより、試験の最中でな。そちらに戻るが……」
「試験?」
「うむ!士官…まあ、部隊を率いる役職に相応しいか否かを見極める為の試験だ!まあ、この試験を受けられる時点でほぼ合格は決まっているようなものだけどな!」
ふむ、と自慢げに話すアルシアを見ながら得心する。こんな辺鄙な所で一人行動する理由が分からなかったが、それがある種の試練を目的とするなら話は別だ。それを乗り越えなければ一人前の将にはなれない、ということなのだろう。だがアリシアは続けて、
「とはいえノリツネ殿を一人にするのも……ううむ、しかし試験の最中に人一人連れるのはどうなのだろうか…?規定違反か…?いやしかし、土地勘も無いだろうし…」
問題はそこであった。試練である以上、手伝うことは許されないと教経は考えている。だがそれは別行動を取るということに繋がりかねない。この世界における知り合いは?アリシアのみ。土地勘は?一切ない。
よって教経の答えは──
「ではアリシア殿の後ろを着いて行くことにしよう。手伝いは…そうだな、命の危険が発生したと俺が判断した場合のみ助力するというのはどうだ?」
ただ目的地が同じで、命を失いかねない規模の危険が迫った限り助力する。困っていたから手伝った、という体であれば少なくとも何か言われる可能性は低いだろうとの判断だった。それを聞いてアリシアは嬉しそうにする。
「よし、ならそれで行こう!場所は…まあ、地図とここから見える山の方角を見ればある程度は分かる。少今はしっかり休んで、陽が昇ったら進もう!あー疲れた休むぞー!」
やはり軍に属すると言っても幼い少女。たった一人でこの森の中を進むという緊迫感は心身共にダメージがあったのだろう、脱力して呑気そうに横になるアリシアを尻目に教経は問いかける。
「そういえば、アリシア殿の歳は幾つなのだ?」
「ん?私か?21だぞ!」
……前言撤回、幼い少女ではなく幼く見える女性だった。
そして交互に休みを取りつつ時が経ち──天に浮かぶ太陰が沈み、再度陽が昇る。それと同時に二人は改めて目的地である街──要塞都市グヘカを目指し進むのだった。
一方、時を同じくして。
複数の木々の枝が重なり合い、遠目から見れば植物の塊にしか見えない場所の中に十数人もの数の人間が屯っていた。ある者は木に寄りかかり眠りこけて、ある者は起きている者同士で会話をし、ある者は起きて自らの武器を丁寧にチェックしている。その中で
「ふぁぁぁ〜……あー、怠い」
「弱音を吐くな、見苦しい…任務を忘れたか」
涙目になりながら欠伸と伸びをする一人の青年と、それを注意する一人の壮年の男性が二人で隠れながらある一点を見つめていた。視線の先には小さく長閑な農村が存在していた。昇りつつある朝日を浴びながら、村の周囲に広がる農地に向かう村人達。遠目でも分かるほどに、彼等は笑顔を浮かべていた。
そんな牧歌的な風情を尻目に、
「とは言ってもですねぇ、隊長〜…。どうして俺達がこんなことしなきゃならねぇんですかねぇ?いやまあ?楽しみは山ほどありますので文句はないですが」
「決まっている。帝国臣民を殺し、国土の食料地帯を焼き払い憎き帝国の国力を落とす。そうすれば、我らが英雄達…連合が誇る大枢機卿猊下とその軍団が、この異端の国を滅ぼしてくれるからな」
連合、アルディシア大陸の東部に位置する帝国と並ぶ巨大国家。その軍団が、帝国国土の内部に侵入しその領民を殺害、
全て殺す、皆殺す。老若男女関係ない、我々を見たものは全て抹消する。それが、上層部から下された命令故に。
よって、凡ゆる面において隠密性が彼等には要求されている。その一端が彼等の装備に現れている。連合の正式装備ではなく、ありきたりな盗賊が扱う装備を纏っていることからもそのことが分かるだろう。仮に帝国に囚われたとしても、ただの盗賊として処理されるようにしているのだが、更々捕まるつもりは無い。
陽が徐々に昇る、隠密性を考えるなら攻め込むのは夜が良いのだが…ここは辺境の地だ、要塞都市からは見えないし気付けない。
「さあ、仕事の時間だ。お楽しみは程々に、な」
敵地に長期間潜伏し、破壊工作をし続ける彼等もまた人間。よってどうしても、
「ええ勿論ですよ、隊長」
「いい生娘が居ると良いですがね」
「前のところはババアしかいなかったからな!」
「そういうお前、めちゃくちゃに犯してただろうが!」
ギャハハ!!と下品な笑いが響くが、隊長と呼ばれた男の『静かに』というジェスチャーで部隊全体が静寂に包まれる。そして、
「行くぞ」
号令が下される、帝国に属する神敵を滅ぼすべく音もなく走り出す。
「んー…と、ここが…アレで……あそこが…コレ…」
「……大丈夫か?」
陽も昇り、徐々に気温が上がっていく中…。アリシアは地図と周囲の地形を交互に凝視し続け格闘していた。元来なら特定のルートを進むだけなのだが、
「なあに任せておけ!大船に乗ったつもりでいるが良いさ!」
「泥舟で無ければ良いんだがな…ところで、試験とはいつまで続くのだ?」
最早不安しか抱かせないアリシアの言動にこめかみを押さえつつ確認をする。もし普通に歩くだけで間に合わないようであれば、彼女を担いで全力で疾駆するつもりの教経だったが、
「ああ、一応今日の日没までだな。ええと…あったあった、この魔道具が鳴るまでに街に着けば良いんだ。そして今から行けば、そうだな…日没前には着く筈だ」
案外近いんだ、とニヒヒと笑うアリシアに苦笑を溢す教経。さあ行こうと地図を頼りに歩き出す、その瞬間─
「……ん?」
教経の耳に声が、否悲鳴が届く。小さな小さなそれは、常人なら聞き逃す程。現に地図に気を取られているアリシアは微塵も気付いていない。
「おい、この近くに村…もしくは人が通る道はあるのか」
「えっ?ええと…ちょっと待って…ああ、うん。向こうの方角にベルム村という、小さい村があるが…それがどうかしたのか?」
アリシアが地図を確認し、指を刺した─その瞬間。
「村が野盗に襲われている可能性がある、行くぞ」
「…へ?」
教経はアリシアを俵担ぎで抱き抱え、全力で駆け出していた。木々の合間を通り抜け、枝葉を腕で薙ぎ払いながら突き進む中、
「ちょまっ!おちちちつけぇ!?何がどうしうわっ!?」
「悲鳴が聞こえた、あと微かではあるが戦いの音もな」
その説明でアリシアが納得するかどうかは気にも留めていなかった。もしそれが事実なら見捨てる理由は存在しないし、事実で無かったら自分の足で過ちを取り返せば良い。どうか、後者であってくれと願う教経だったが、しかし。
「こ、れは…」
「………」
二人の目の前には、地獄が広がっていた。
転ぶ屍の山、燃え盛る家、地を染める紅い血の川、そして村の奥から響く悲鳴の数々。
教経はそれを知っている、かつて日本に生きていた時もこの凄惨な殺戮が行われ、自身がその主犯を討滅していたから。無意識のうちに、弓と矢を呼び寄せる。アリシアもそれに呼応するかのように剣を抜き放つ。互いに戦闘態勢は整えた。後は、如何にして村人を救うかだ。
「…ノリツネ殿、ご助力を願いたい。私が野盗を引きつける、その隙に貴殿が村人を避難させ─」
「いや、その役目は逆の方が良いだろう。避難させようにも、俺は土地勘が無いからな…地図を読めるアリシア殿が先導すべきだ」
アリシアの提案を、教経は拒否し再提案する。少なくとも現状、村人を救うのは教経よりアリシアの方が都合が良い。その提案にアリシアは「……分かった、お願いする」と躊躇いつつも首肯する。
「よし、では俺はこのまま中央に向かう。アリシア殿は遠回りして進んでくれ」
「分かった、武運を祈る…っ」
教経からの指示を受け、アリシアは敵に見つからぬよう、慎重に静かに駆け出していく。村のどこに野盗が潜んでいるか分からない以上、無闇に動き回るのは避けたかった。だが進む度に視界に映るのは死体、死体、死体──。村に駐留していた数人の兵士達もいたものの、多くの村人が血を流しながら他に伏せていた。その多くは俯けになって地に倒れていた、そして尊い命を奪い去るきっかけとなる傷もまた、背中側。つまるところ、逃げようとして斬り殺されたのだろう。必死に必死に、殺されないように全力で駆け抜けて、だが間に合わずに…。何よりも、死体の浮かべる表情がその全てを物語っていた。
“死にたく無い”“助けて”
それを見る度にアリシアは歯を食いしばる、余りの怒りに身体が沸騰してしまいそうになる。あの忌々しい記憶が蘇りそうになるのを必死に振り払い、改めて歩みを進めた、その瞬間。
「イヤァァァァァァァ!!!だ、誰かっ、助けて…っ!!」
悲鳴が聞こえる。より鮮明に、より鮮烈に。その声を聞いた瞬間、アリシアの脳内から隠密という言葉が綺麗さっぱり無くなった。助けを求める者がいる、なら救わない理由は何処にも無い。
「待っていろ、今行くッ!!」
声のする方向へ全力で疾走した先にあったのは、
「おらッ、抵抗すんじゃねえよこの糞アマァ!」
「いやっ、いやぁ!!!」
まだ幼なげのある少女に覆い被さり、無理矢理にその服を破こうとする野盗の姿。そしてその横には少女の父親だろうか、背に剣を突き立てられたまま生き絶えた壮年の男性の屍が横たわっていた。
恐らく、逃げ遅れてしまい捕まりそうになった少女を助けようとし、抵抗したのだろう。その結果がこれでは男も思い浮かばれない。
「黙って俺のいうこと聞きゃ命までは取らねえよ、オラッ!さっさと脱ぎやがれ!!」
だがそんなことは関係ないと、野盗は自らの下卑じみた欲望に付き従い、顕になってしまった乳房を掴もうとした、その刹那。
「ハァァァァアアアッ!!!」
「ゴップァァァ!?!?」
─そんな男の横っ面を、全力で以てアリシアは殴り飛ばした。小柄なアリシアであろうと、鍛え抜かれた腕力と全力疾走の衝撃を合わせた一撃は大の男を吹き飛ばし、地面を転がさせるには十分な威力を誇った。
「無事かっ!?取り敢えず、これを!」
「えっ、あの、ありがとう…ございますっ」
上半身を露出してしまっている少女に対し、着ていた上着を脱ぎ渡すアリシア。本来ならそのまま二人で安全な所に逃げたかったのだが、
「んだよどうしたボンズ」
「大方、女に反撃されてんだろって…ほら見ろ、やっぱり吹っ飛んでやがるぜ」
「うるっへぇ!別に、俺はっ、あの赤毛の女に殴られたんだっ!」
「ん?おい見ろよ、この女帝国兵だぜ」
先程の男─ボンズと呼ばれた者の悲鳴を聞いて、周囲にいた野盗達が集まってしまったのだ。
「チッ」
数は─四人。流石に一人で相手取るのは厳しいが、だからといって弱音を吐く訳にはいかない。背中には、守るべき民草がいるのだから。震える足を気力で押さえつけ、息を整える。
「私は帝国陸軍のアリシア・コットンフィールドだ、無駄な抵抗はやめて速やかに投降せよ!!」
「ハッ、そんな足が震えたままよく強気な言葉吐けるもんだな、そういう女は嫌いじゃねえぜ」
「なら攫っとくか、アイツらにも偶にゃ発散させなきゃならねえしな」
「だな、つーわけだ帝国兵の嬢ちゃん。悪いが手足の一、二本は斬り落とすから…さっさと気絶してくれや」
人間が持つ
「助けて…」
後ろにいる少女の助けを願う、小さくか細い声を聞いて覚悟を決める。心の奥底から、焔が噴き出ていく。あの時の記憶が心身を駆け巡り、自分が自分で無くなるという奇妙な感覚がアリシアを襲う。だがそれに恐怖は無い、燃え盛る紅蓮がそれすら焼き尽くしていくから。
「良いだろう、我が焔が煌めく明日を守り抜くとも」
一歩足を踏み出す、ただそれだけ。それだけで助けを求めた少女から恐怖が消え去っていく。まるで、その背が──
「英、雄…?」
弱者を踏み躙り、強者が享楽を貪るという世の理不尽を否定する、それは万民が願う
だがアリシアは今の自分がどうなっているのかも分からないしどうでも良い。今はそんなことよりこの魂から迸る衝動に身を委ねるのみ。全身から焔が溢れ出る様は今にも噴火しそうな活火山を思わせる程の熱量を宿している。
しかし矢張り、と言うべきか。それとも哀れと称するべきか。
「ハッ、さっきまで怯えてた嬢ちゃんが何か言ってるぜ」
「面白え!さっさと喘がせてやるヨォ!!!」
彼女の変質に気付くことなく、それとも気付くも敢えて無視して己が欲望を解消すべく進撃する
先程までの怯えは完全に消え去った、今あるのは燃え盛る憤怒と湧き出る殺意のみ。
「来い、お前達の罪の清算の時だ」
それは力無き者達を守り、若人達が進むべき
一方、その頃。
アリシアの姿が物陰で見えなくなったのを把握してから、
「さて、邪魔する者は消えたぞ。さっさと姿を現さんか。殺意を隠しきれていないぞ?」
「……まさか気付かれるとはな、恐れ入ったよ」
教経の言葉に呼応するかのように、燃え盛る家屋の屋根から、影から、教経の背後に広がる森の中から──都合8人の盗賊─に扮した連合兵─が現れたのだ。まるで予め二人が現れることを予見していたかのような位置に、教経は内心焦っていた。
村の方にいる四人の気配は分かっていたが、背後の者達は二人ほど気付けなかった。特に、先程教経に話かけてきた者の練度は極めて高い、と心の内で評価していた。今までの経験上、そんなことはあり得なかった…と言いたいところだが、あの
「さて、先程の赤毛の少女は帝国兵のようだが。君は違う…大方彼女に雇われた傭兵と見た、そこで一つ提案なのだがこの件から手を引いてはくれないかね?無論、彼女が支払うべき報酬の倍額を支払─」
─おう、と続く言葉は空を切り裂き飛翔する一本の矢によって遮られた。背後からの声のみを頼りに放った一矢はその狙いを過たずに、男の脳漿を撒き散らす─筈だった。
「──交渉は、決裂のようだな。殺せ」
その一言で教経の周囲に居た野盗─否、連合兵が動き出す。剣を、弓を構え眼前の大男を殺さんと。
同時に教経もまた戦闘態勢を整えつつも先程の光景を思い出す。彼は見たのだ、放たれた矢が急に逸れて背後の木を粉砕したのを。そして同時に理解する、先の力こそが目の前の男が有する竜印の力なのだと。常軌を逸した力を持つ者達との死闘、ああそれは──
「心躍るな」
獰猛な笑みを浮かべ、再度矢を番える。ここに対話による平和的解決の可能性は消失した。残るは、屍と勝者のみ。
「
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