第37話 始まりの章

 部屋を出ると、ルイが待っていた。


「誤解無きよう言っておきますが、私は王には話さない、と言いましたが、王妃に話さないとは言っていません。そのあたり、よく思い出していただき……ぐえ」


 御託を言うので脇腹への一撃で黙らせた。そういうことじゃ、ないんだよ!


「この件はもうこれで終わり!さ、行くわよ!」


 泣いてスッキリした私。もう、感情的に思い残すことはないだろう。


 次の目的地は帝都ヴァナハイム・キングダムだ。古代図書館地下2階への入室許可を得るため、4か国を巡り、各国の王から入室の許可をもらわなければならないらしい。


 王が書簡を出してくれていた。それを持っていけばヴァナハイムはおそらく承諾するとのことだ。


 また、ヴァナハイムが折れれば、他の国は比較的スムーズに許可を出してくれるらしく、運が良ければ、ヴァナハイムの一存で他国の承諾なく決定することもあるとのことだ。


 帝国の力というのは、私が思っている以上に強大だということが、ヴァナハイムだけで決められるという言葉を聞いて、理解した。


 シルメリアは混乱しているから、行く必要があるなら最後にしろとのこと。アリアのことは気になるが、いまはまだ会わないほうがいいだろう。落ち着くまで待とうと思う。


「あれ?」


 城を出て、正門前にたどり着いたとき、1人の女性が待っていましたと言わんばかりにこちらに手を振っていた。


 見覚えがあるどころではない。まだ、この間の戦闘からそんなに日は経っていない。


「お待ちしておりましたわ。ティア・ゼノビア」


 セイラだった。服は相変わらずヒラヒラで動きにくそうなものを身に着けているが、背中には大きなリュックを背負っている。旅支度はすでに完了している、と言いたげな装いだけど……。


「大聖女様からお許しが出ましたの。お姉さまを探す旅に出てもいいって」


「いや、ひとりで勝手に探せばいいじゃん」


「なんでもゼノビアの王女が旅に出ると風の噂で聞きまして。これはわたくしが一緒にいないと野垂れ死んでしまいますわ!と思いまして、ご一緒して差し上げようと考え、今日ここに来ましたの」


 こっちの言うこと、聞いてないよね。しかも上から目線だし。


「……まあ、確かに。あなたがいると心強いけど」


「でしょ、でしょ?よくわかってらして。さすがは天才魔術師様ですわね!」


「旅は道連れ世は情け。知らない仲でもありませんし、ここは仲良く一緒に……ぐえ」


 ルイがきれいにまとめようとしたことが、なんか無性に腹立たしかったので、一発いれといた。


「ま、いろいろあったけど、とりあえず」


 晴れ渡る雲一つない青空。


 新たなる冒険の旅路を祝して、私は声高らかに出発の狼煙を上げた。


「行こう!次に目指すは、帝都ヴァナハイム・キングダムよ!!」






――Side 5大国元老院『五大老の集い』――



 地図には載っていない、とある場所。



「先日提出された魔道具による記録から、禁止魔法『シンクロニティ』と『コンヴェルシオ』の使用が確認された。ゼノビアの第7王女は“魔女”で間違いなさそうじゃな」


「“魔眼のベリトリリス”もおったな。ずっと尻尾を隠しておった特級指名手配の怪女が、まさかテオドールの元にいるとはのぉ」


「”超獣のバルファゴール”もな。そりゃシルメリアの『スターナイツ』ごときじゃ止められんわ。『アラケスのみそぎ』は一旦テオドールめに預けておこうかのぉ」


「『アトムスの罪』を世に解き放つわけにはいかん。片道切符になっている深淵の牢獄地下63階よりさらに下層。そこから帰還した冒険者たちには、早々にご退場願いたいものだがな」


「ロイヤルシード再興は忌々しき冒険者たちによるラストダンジョン進攻への布石……。テオドールを取り逃がした罪は重いぞ、ティベリウス」


「申し訳ございません。五大老の皆様方」


 暗く、広い部屋の中央で審問を受けている男はゼノビアの第二王子。


「だが転生した“魔女”を今日まで監視した功績は高く評価している。ゆえに免罪とする」


「ありがとうございます」


「“魔女”はゼノビアの古代図書館地下2階へ降りる許可を得るため、ヴァナハイムへ向かったそうだな」


「はい。特異資質を持った騎士とヘスペリデウスの天才聖女と一緒に」


「古代図書館地下2階……。何故か12年前から突如として封印され、何人の侵入も許されなくなっている。できれば“魔女”にはその謎を解き明かしてもらいたいものだがな」


「対テオドール用にも有効じゃて。牢獄最下層からの帰還者ではあるのじゃが……。“魔女”にはもうしばらく、活躍してもらわねばならんかのぉ」


「ティベリウス。今日からお前にはテオドール監視の任を与える。“魔女”の監視はヴァナハイムの人間に引き継いでもらう」


「かしこまりました」


「おい、あの男を呼べ」


 従者が指示に従い、暗く広い部屋にもう一人、とある男が召喚される。


 その男の名はアラン・マケドニア。ヴァナハイムの伯爵である。


「お久しぶりです、ティベリウス殿。5大国間協議以来ですね」


「アランか」


「あなたの妹さん、今日から私が監視を引き継ぎます。大丈夫ですよ。丁重におもてなしさせていただきますから」


「……」


「それにしてもティア王女。いささかご活躍が過ぎるのではないですか?あれだけ無双させていたら、せっかく王女に転生したのに、また魔女って言われちゃいますよ?」


「……エマ・ヴェロニカが“魔女”と言われていたのは性格が悪いからだ」


「あはは。その説を推しておられるのですね、ティベリウス殿は」


「そこは否定できないな」


「はは。まぁいいや。それでは、私は“魔女”ご一行のお出迎えの準備をしなきゃいけませんので、これにて失礼させていただきます」


「記録を忘れるなよ、アラン・マケドニア」


「承知」


 風のように去っていくヴァナハイムの伯爵。


「……ヤツはヤツでひと癖あるからのぉ。少し心配じゃの」


「まぁ能力は一級品じゃし、問題なかろうて」


「ティベリウス、もう下がってよいぞ」


「失礼いたします」





「ティア王女。5大国間協議以来だね」


 一人になったアラン。


 夜の帳が辺りを包んでいる。


 瞬く満天の星空。それらを薄目で眺めながら、アランは最後にこうつぶやいた。



「また会える日を楽しみにしているよ。“転生の魔女”さん」



 第一章 完



――――――――――――――――――――



【あとがき】


 第一章完結までお読みいただき、ありがとうございました。


 もし本作が「面白かった!」「続きが読みたい!」と思っていただけましたら、是非レビューやフォロー、応援コメントなどいただけますととても嬉しいです。今後の励みになります。


 よろしくお願いいたします。


 十森メメ


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