第28話 決戦

 アストラの協議施設からアリアがいるシルメリアの魔導研究所まではそう遠い距離ではない。通常であれば2日ほどで着く距離だ。国境にもすでに話がついているらしく、審査なしで通過できるそうだ。


 今は時間が惜しい。1秒でも早く、アリアがいる場所まで辿り着かなくてはならない。


 私、ルイ、ティベリウスそしてセイラの4人はアストラ共同代表のブラハムが用意てくれた特殊馬車で目的地へ向かっている。


 この馬車はすごかった。速度は単純に普通の馬車の4倍。安定感は地上と変わらない。御者の操縦技術もおそろしく高い。しかも驚いたことに、この馬車に魔法の類は一切使用されていないらしい。


 御者に確認した。アストラの技術力は古い書物で一通りわかっていたつもりだったが、まさかこれほどまでとは正直思ってもみなかった。


 道中、ティベリウスにテオドールとの因縁について聞いてみる。


「お兄様、テオドールとはどのようなご関係だったのですか?」


「ああ、テオドールとはな……」


 なんでもプランタ高等部の同級生だったらしく、昔よくつるんでいたとのことだ。テオドールは非常に優秀で博識だったが、授業をよくサボって勝手に旅に出てしまうような自由人でもあった。


 また、ゼノビアの古代図書館にもよく二人で一緒に行っていたらしく、いつも難しい哲学の書籍をしかめっ面で読んでいた記憶があると、昔を思い出しながら語ってくれた。


「だがな……」


 2年の夏休みに旅に出て以来帰ってこなくなり、テオドールはそのまま退学処分となったらしい。それ以来会っていないとのことだ。ただ、会わなくなる前、テオドールはティベリウスに気になることを言っていたらしい。


「世界は、僕たちになにか重大な罪を隠している。それを暴く旅に、僕は出るよ」


 罪……。やはりテオドールはラストダンジョンの秘宝を今も追っていると見て間違いなさそうだ。『アトムスの罪』とはいったいなんなのだろう……。


 私の知識量をもってしても、その秘密には一部分すら、到達できていない。


 古代図書館地下2階に行けば、なにかわかるのだろうか。それにシルメリアの秘宝『アラケスのみそぎ』。この二つを結ぶ因果とは、いったい……。


 テオドールの狙いやアリアが持ち出した秘宝の秘密を考察しながら馬車は目的地へ向かい、疾走していた。セイラもルイも、少し緊張しているようだ。口数が極端に少ない。


 テオドールは強敵だ。果たして対峙したとき、目的を果たすことができるのだろうか。捕らえるという行為は相手を殺すよりも難易度がはるかに高い。このメンバーで本当に、彼を止められるのだろうか……。


 目的地が徐々に近づいてくる。



 どぉぉぉおおおおん!!



 もう少しで到着するというところ。前方で大きな爆発が起き、煙が上がる。


 すでになにかが始まっている!テオドールなのか!?到達が早すぎる!


「みんな!私につかまって!!」


 さらなる緊急事態だ。はやくいかなければ!私の並々ならぬ空気を察してか、全員黙っていうことを聞いてくれた。


「御者さんは距離を取っていてください!危ないですから!」


 馬車を走らせたまま私は4人を魔法で空中に射出し、落下速度で爆発の地点へ一足飛びで向かった。落下の瞬間、緩衝の魔法で衝撃を吸収。一気に目的地へと辿り着く。


 そこにはすでに対敵していたテオドールとフェリスの姿があり、周りにいるはずの数十人のアリアの護衛達が至る所で倒れていた。アリアはフェリスの背後で気絶していると思われる。


 間に合った……のか。


「ああ、久しぶりだね。ティベリウス。15年ぶりかな」


 傷一つないテオドールが息一つ切らさず言い放つ。当然、この展開にしているのはテオドールだろう。年はとったが、あまり見た目は変わっていない。


 緊張と、だが若干の会えてうれしいという気持ちに嘘はつけない。非常に複雑な心境だ。


「アリア様ぁぁ!!」


 私たちの登場に安堵したのか、フェリスはアリアに駆け寄り、介抱をはじめた。命は無事らしい。だが、ここからでも明らかに動揺を隠せないでいるフェリスの姿は見て取れた。


「思い出話をするつもりはない。シルメリアの皇女は保護させてもらう」


 ティベリウスが剣を構える。


「そう言うなよ、親友。久しぶりだろ?出世したようだね」


 不思議な笑みを交え、余裕のテオドール。特に構える様子もない。あの柔和な雰囲気で威圧する感じは変わっていないようだ。


「シルメリアの騎士よ!」


 ティベリウスが大声でフェリスに呼びかける。びくっとするフェリス。


「近接戦闘を仕掛ける。加勢しろ!ルイは中距離から隙を伺え!」


「了解です!ティベリウス様!」


 さらに


「ティアはアリア皇女を護れ!セイラ殿は回復!その後負傷者全員の命を助けろ!いいか!」


 黙ってうなずく私。セイラは「わたしだけ仕事多くないかしら」とか言っている。ちょっとは余裕があるらしい。


 それにしても、ティベリウスのこの瞬間での状況判断と決断力の速さはすごい。次期王と言われるだけのことはある。


「そんな陣形とか戦略とか言っちゃっていいの?全部聞こえて……っとぉ!」


「お前は変わらないな、テオドール。相変わらず油断が多い」


 瞬時に間合いを詰め切りこむティベリウス。受けるテオドールの刃が交わる音が場に響き渡る。


「きみは相変わらずせっかちだねっ!」


 受け流し、間合いをとるテオドール。間髪入れずフェリスが間合いを詰め、斬り合いとなる。


「うおおおお!よくもアリア様を!ゆるさんぞ!」


 怒りのフェリス。ものすごい連撃を繰り出し、テオドールを圧倒している!


「いくぞ!テオドール・スターボルト!!貴様の悪業もここまでだ!!」


 ティベリウスも再びテオドールへ突撃し、この戦いは徐々に、より本格的な命の奪い合いへと発展していくのであった。

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