第24話 初恋の感覚

 ある日、枯れ木を集めに森へ入ったところで、魔獣に襲われた。どう料理してやろうかと考えていた時に、冒険者テオドールの一行に横やりをいれられた。


 こんな辺境の地になんの用があるのか尋ねると、どうやら魔法使いのおじさんに会いにきたのだということがわかった。


 おじさんは死んだと伝えると、供養したいので会わせてほしいと言われる。おじさんがこんな有名な冒険者と知り合いだったのは意外だった。いつもいなかったけど、外でなにをしていたのかな。


 壺の中にある骨を見て、テオドールが驚愕する。君がやったのかと問われたので、そうだと答えた。どうやったと聞かれるので、火葬の魔法を使ってやったと言う。


 パーティ内で話し合いが行われている。なにを話しているかはすぐにわかった。


 テオドールは言った。


「天才魔術師のお嬢さん。ぼくたちと一緒に冒険しない?」


 異次元な魔法の才能に惚れたテオドールはエマを冒険者パーティに迎え入れた。


 パーティに入って冒険をしたが、最初はまったく話せなかった。私は人間と話したことが生まれてから15年間ほぼなかったので、いつも無言だった。


 ただ、テオドールとセレスが一生懸命話しかけてくれたおかげで、少しずつ、人と話すことができるようになっていった。


 ヴァルゴは魔法使いのおじさんと似ていて基本あまりしゃべらなかったが、いつも見せてくれた笑顔はとても心が落ち着いた。父親というものを全く知らない私だったが、なんとなく父とはそういう存在なのかもしれないと思うようになった。


 少しずつ、私は心を開いていき、次第に心から信頼できる仲間たちであると理解できるようになっていた。


 ただ、冒険が進むにつれ、コミュニケーションが増えるほど、何故かテオドールと話すときに、普段とは違う逆に心が苦しくなる感覚を覚えるようになっていた。


 そして、セレスがテオドールと楽しそうにしているのを見ると、逆に怒りが沸々と沸いてくるようになった。その感覚が理解できない。とても大切な仲間たちなのに。病気かもしれない。


「ん?どした?調子悪いのか、エマ……」


 顔を近づけられ、おでこで熱を測ろうとしてくるーーー!!!


「きゃぁぁぁあああああ!!!」


 自身の奇声で飛び起きる12歳になった私、ティア・ゼノビア。


「なにごとですかーー!ティア様ぁぁ!!」


 飛んで駆けつけてくるルイ・リチャードハート。私の騎士。気合ばっちりで飛び込んできた。ただ、勢いが良すぎたのか。途中で盛大につまづき、


「ごんっ!!」


「いったぁぁい!なにしてんのよ!ルイ!バカ!!」


 頭蓋骨が衝突する不快な音とともに、私とルイの額はぶつかり合った。猛烈に痛みが走り目が覚める。


「も、申し訳ございません!ティア様。ただ、さきほどの叫び声はただ事ではないと思い……」


「な、なんでもないわ。大丈夫よ」


 額を抑えながら、今ほど視ていた恐ろしくリアルな夢に私はかなり動揺していた。ティアとして転生してから12年の月日が流れたが、エマの頃の夢をこんなに鮮明に見るのは初めてだった。


 あの停学処分の日から5年が過ぎた。6年生になった私は初等部最後の夏休みを満喫している。


 父に言われたとおり、停学の日以降、ここまで大人しく無難に過ごしてきた。


 停学前に、概ね煩わしいやつらを黙らせていたおかげか、あれ以降あまり突っかかってくる人間もいなくなっていたので、思いのほか、問題なく平穏な日々を過ごすことができていた。


 ただ、ティベリウスだけは隠すつもりもないのか、堂々と私のことを監視していた。それはプランタへ入学するときの様と大して変わっていない。


 この男。もしかして、暇なのか。


 授業はつまらなかったが多少は役に立つこともあったので、一応最低限は出席した。ただそれ以外の時間はほぼ図書館で過ごしていた。


 この長い年月のほとんどを使えば造作もないことだったが、私は古代図書館地下1階にある書物で、興味のあるものはほぼすべて読み終えていた。


 ただ読み終えてわかったことは、5年前に読んだ『アトムスの罪』に関する記述と、シルメリアの宝物の謎についての新しい情報は見つからなかったという事だけだった。


 もう地下2階に行くしか新しい情報を得るすべはないと思っていた矢先、


「王がお呼びです、ティア様」


 従者が私を呼びにきていた。ちょうどよかった。さすがに5年間も真面目にやっていたのだから、そろそろ許可をもらってもいい頃合いよね。

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