第21話 兄を黙らせる
停学中なので図書館でシルメリアの歴史や成り立ち、関わる人間関係などを調べることにした。
「大した事書いてないわねぇ……」
色々読んでみたが、教科書レベルの歴史しかほぼ乗っていない。ほんと、地下1階の書物も大したことないんだから。
ただ、調べる中で、エマとしての最後を迎えたラストダンジョンの奥に眠る秘宝についての記述が一部見受けられた。
『アトムスの罪』について、だ。
ほかの書籍にも考察や知見などが多く記されていたが、独特の観点とシルメリアが貯蔵する宝物の一部に関連するなにかがあるという引っかかる書き方をしていた。著者は不明。
まさかここで『アトムス』の単語を見るなんて思いもしなかった。もう少し調べる必要がありそうだ。
「難しい顔して。またなにか見つけたの?」
一緒に来ていた母にやさしく話しかけられる。母もなにか調べものがあるようで、一緒についてきていた。母はかなり前からこの地下1階への入室は許可されていた。
「ずいぶんとご活躍のようじゃないか」
聞き覚えのある声に話しかけられる。オズだ。当然停学処分の話は知っている。
「うちのオズちゃんと違って素行が悪いんじゃありませんこと」
ジュリエッタ妃もいるようだ。なんか懐かしい感じだな。
シルメリアとのことについて知らないのかと馬鹿にしてくる。相変わらず鬱陶しい。
「雑魚に構っている暇ないの」
目も合わせず冷淡に対応する私。激高するオズ。勝負しろと大声で言ってくる。また図書館で怒鳴っている。学習能力ないのかこいつ。っていうか、地下1階にこんなの入れるなよ。だれだ、許可出したやつは。
「おれに勝ったら、シルメリアの重大な秘密を教えてやるよ」
大きく出たな。それはそんなに簡単に話してはいけないことだろう。でも、最近体もあまり動かしていなくてなまりそうだったので、ちょうどいい。
相手をしてやろうと思う。もう一回黙らせておいた方がよさそうなので。
「ティア、けちょんけちょんのギッタンギッタンにしておあげなさい!」
案外、母は乗り気だった。
♯
ゼノビア城訓練施設内へ移動。ギブアップを言ったほうの負け。シンプルだが、このルールが一番やりやすい。
「いくぞ、こらぁ!」
うるさいのでさっさと終わらせてやろう。いつものように魔力の
って、あれ?出ない。なんで!
「うっるぁああ!」
間合いを詰め、手刀を殺しにかかる勢いで一閃するオズ。以外に速く、そして強い。
口だけではないらしい。ギリギリかわすが、間髪入れず蹴りを入れられガードの上から吹っ飛ばされる。
「いったぁ……」
セイラの蹴りには到底及ばないが、それでも痛いものは痛い。しかもなにか、これは簡易な封印術が張られていて魔法が使えないため、緩衝用の魔法障壁を張れなかった。
物理的に直で攻撃を食らったのは久しぶりだ。
「(出力元はどこ?)」
痛みをこらえながら、術の発生場所を探る私。ちなみに言っておくと、この微弱な封印術程度で私を抑え込むことは本来はできない。
ただ、弱いとはいえ封印術がかかっていると魔力の微妙な出力調整がほぼできない状態となる。
要するに、全ての魔法をある程度の火力で解き放てば簡単に使えるが、そうすると下級の魔法でもおそらくこのゼノビア城を破壊し、オズは息を引き取ることになる。
さすがにそれはまずいので、出力元を探すしかなかった。
「(あいつか!)」
なにやら怪しい動きをする人物を発見。ジュリエッタだ。決闘に介入してくるとは、親バカもいいところだ。
でもさすがに魔法なしはきつい。いくら格闘の修行をエマ時代にしていたとはいえ、オズは男で、しかも13歳。私は7歳のか弱い乙女。
純粋な運動能力と格闘能力の差は歴然としている。このまま普通に戦えば負ける。なんとか、封印をとかなくては。
「(あの女の術式を止めて!!)」
母に目配せして伝えるが、気づかない。自身で直接叩くには距離がありすぎる。
「どこ見てんだよ!」
追撃がくる!なんとか距離をとって時間を稼がないと……。
お願い、お母様!気づいて!!
「あ……そういうことね!」
攻撃をなんとか躱し、隙を見て渾身のジェスチャーをする!
ようやく気付いてくれたようだ!
「邪魔するんじゃないわよ、ジュリエッタ妃!」
「え、なにすんのよ!女郎が!このっ!放しなさいよ!!」
もみ合うサビーナ妃とジュリエッタ妃。戦闘能力のない二人がもみ合う姿はちょっと笑える。
「解けた!」
もみ合いが功を奏したらしい。封印術が一瞬解ける。見逃さない!
瞬間的に、私は足元に魔力を一点集中し、地面を蹴る!ジュリエッタとの間合いを詰め、手刀で軽く気絶させる。
「小賢しいマネしてくれるわね。さあ、ここからが本番よ!」
「くっ、このやろぉおおおおお」
やけくそで向かってくるオズ。もはや勝負は決した。
足元の溜めた魔力の出力を再調整し、そのままカウンターで思いっきり蹴っ飛ばす!
「ぐえ」
いい感じで吹っ飛び、壁に激突し、泡を吹いて気絶するオズ。
心配しないで。ケガしないように背中に軽く防御魔法、張ってあげたから。
格の違いを思い知ったか!
「やったぁ!さすがティア、強い!」
勝ったと喜ぶ母サビーナ。
「お母様のおかげよ!よくあのジェスチャーで気づいてくれたね!」
ボディランゲージ自体は自信があったが、正直気づくのは難しいかと思っていた。
「え?お母さん、自分で気付いて止めに行っただけだけど……」
「え?」
「あのヘンな動きは勝利の儀式かと……」
「……え?」
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