第8話 前代未聞の入学式

 それっぽく話していたが、もうすでに事前に書いていた挨拶文とは全く内容が異なっていた。


 私のとても挑発的で交戦的なスピーチに場の空気も変わる。散っていた視線が一気に私へ集中し、次の言葉を待っている。


 耳かっぽじってよく聞きなさいよ!このひよっこ集団が!


「学園生活はとてもつまらない日々になるでしょう。挑戦が必要ですが、規律がそれを邪魔して、私たちが本当に望む学びは阻まれることでしょう」


 特にこの学園の規則が厳しいのはすでに学習済みだ。無能な教育者たちの圧政が、今の段階でも容易に想像できる。


「ただ、それもまた学びの一部。その障害を乗り越えることで私たちは成熟し、より快適な立場を得ることができるのです」


 教師たちがざわついている。生徒たちは興味を持つ者、怒りの表情を浮かべている者、罵声を浴びせる者など様々な様相が見て取れる。


 いいよ、おもしろくなってきたじゃない!


「私たちが選んだこの道は、取り立てて大した道でもありません。あなたたちは自分達がエリート集団に属することができたと自負しているかもしれませんが、それは大いなる勘違いです」


 止まらない喧騒に、私も少し興奮してきた!貴方たち程度の人間なんて、世の中には掃いて捨てるほどいるんだからね!


 勘違いしないように!


「世界からみれば、この程度の集団などただの烏合の衆です。未熟で、どうしようもないヒナたちの集まりでしかありません。ただ、自分が無能であると知ることからでしか、成長はありませんので、まぁ、せいぜい頑張ってください」


 煽りに煽りまくってやった。教師たちの声が一段と大きくなり、私のスピーチを止めに入ろうとしている。


 場が完全に喧騒から混乱に変わった。


 ここらが潮時だね。


「最後に。私は争いごとを好みません。できれば波風立てず、静かな学園生活を送りたいと願っていますので、必要以上にあまり絡んで来ないでくださいね」


 ここまで言っておいて、このセリフは皮肉でしかないかな。


 ま、スッキリしたから別にいいか!


「以上です。スピーチ聞いてくれて、ありがとう。あ、異論は認めないので悪しからず」


「ティア・ゼノビア!ちょっと来い!」


 ようやく、教師たちが動き出す。遅いよ。


 場が完全に乱れている。おそらく、前代未聞の入学式になったことだろう。


「触わらないで。逃げないから」


 取り押さえようとしてきた教師がいたが、少し魔力を纏わせた睨みで近づけさせなかった。


 その後、私は強制的に退場させられた。


 教師たち数名に職員室まで連行されている道すがら、なにやら見覚えのある顔を見つけた。


「ゼノビアの王女様は刺激的なのがお好きなようね」


 声をかけてきたのは、シルメリアの第3皇女アリアだ。取り巻き3人を従え、余裕の笑みを浮かべている。


 かつてルイと死闘(?)を繰り広げた騎士フェリスの姿はない。まあそりゃそうか。私のルイもお留守番だ。


 彼女もどうやらこの学園へ入学していたようで、顔を見たことで、この間の出来事をふと昨日のことのように思い出していた。


「これはこれは、だれかと思えば。盗人皇女様ではありませんか」


 少し立ち止まらせてもらい、アリアと話す。


 決闘の後、魔術具を万引きしたことを思い出したので、ちょっとだけ煽ってみた。


「お金払ったわよ!あとで気づいて送金させたわ!」


 食い気味に言い放つアリア。案外気にしていたようだ。


「これから楽しくなりそうね、ティア・ゼノビア」


「せいぜい楽しませてね、アリア・シルメリア」


 お互いに敵意丸出しの笑顔を向け合う。


 アリアの取巻きも汚い笑顔を浮かべている。



 多分、浮かれていたんだと思う。主席挨拶であんなスピーチをしたのは。


 大人しく過ごしたいと言うのは本心だけど、あれだけ大勢の前で話をする機会はこれまでなかったから。たぶん気分が高揚していたんだと思う。


 エマとして生きてきた時には経験できなかったこと。


 正直、学園生活は少し楽しみな面もある。


 行きたいと願っても行けなかった場所だったからね、学校。


「はやく来い、ティア・ゼノビア」


 そんな他愛もないことを考えながら、さっそく職員室デビューを果たした私。


 波乱に満ちた学園生活の幕は、すでに切って落とされていたのだった。

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