第1話 転生の魔女
私、エマ・ヴェロニカがティア・ゼノビアとしてこの世に再び生を受け、産声をあげてからもうすでに6か月の月日が経過しようとしていた。
「ティアは本当に本が好きなのね」
優しく、微笑むように母サビーナは私に語り掛けた。
ここはゼノビア王国が誇る巨大な古代図書館『マクシミリアン』。現代書物の約90%、古代書物の約75%が蔵書として保管されている、世界で最も多くの本がある世界最大の図書館だ。
私が住むゼノビア城からすぐ近くにあるため、たびたび母を誘導し、ここを訪れている。
もちろん、母を怖がらせてはいけないし、周りの大人たちに怪しまれても面倒なので、赤ん坊のフリは続けている。
「そんな歴史書なんか眺めて、なにが楽しいのかしらね」
愛らしく苦笑いを交えながら母が続けた。当然、母は私が歴史書を理解しながら読んでいるとは夢にも思っていない。絵本の絵を眺めるように歴史書を楽しんでいる、そう考えているのだろう。
本を読み、外でたくさんの情報に触れることで、私は現状を冷静に把握することができた。
改めて思い出してみようと思う。
私の名前はティア・ゼノビア。
ゼノビア王国の王位継承権を持つ7番目の王女様だ。
元々は最強の冒険者パーティで魔術師として活躍していたのだけど、ラストダンジョンで命を落としてしまって、なんの因果か気づいたときにはこの国の王女として生まれ変わっていた。
時系列的には、エマとして戦死したのと同時にティアへ魂が渡ったと認識している。理由は、ゼノビア王国が転生前に私がいた世界にも存在していたからだ。
世界地図や各国の表向きの歴史を見る限り、わたしがこれまで得ていた知識と照合しても、前世との違いは感じられなかった。
なので、正確には異世界に転生したワケではなかった。元々いた世界で新たに生を受け、ただ何故か転生前の記憶と魔力は引き継いでいる。そんな状態だった。
転生前に共に冒険していた仲間たちの情報については、この半年間で得ることはできなかった。
エマとしての死に際に放った転移魔法には回復の魔法も組み合わせていたから、少なくともテオドール達は瀕死の状態は脱していたと思われる。
ただ、あの魔法は研究途中の未完成品だったので、欠点もあった。
自分は転移させられず、転移先も選べなかったのだ。
だからおそらく、彼らはそれぞれ別々の場所で、しかも山中、海中、砂漠、など転移先で到底生き残れない可能性のある場所に転移したかもしれない。
どうか運よく町や村に転移していてくれていればと願ってはいるんだけど。
ただ、現状それを確認する方法はない。祈ることしかできないのは正直歯がゆかった。
「……あまり楽しそうでもないのよね。ほんと、不思議な子ね」
母の名はサビーナという。温厚で柔和ですごく癒される存在だけど、正直かなり天然であまり理解力があるとは言えない母親だった。
イライラさせられることも度々あって、まあ、それも含めて愛すべき存在であるとも言えるんだけどね。
母は爵位の低い貴族の出身で、本来であればとても王国の妃となる立場にない人間であったけど、魅力的な母に心を奪われたゼノビア王が半ば強制的に立場を与え、王国に呼び寄せたので、高位の貴族出身である異母やその子息、息女からは当然のように疎まれていた。
「あらあら。これはこれは。サビーナ妃とティア王女ではありませんかぁ」
図書館の静寂を乱す、不愉快な悪声が耳を汚す。
気づいてはいたけど、関わらないようにしていた。
話しかけてきたのは、年齢不相応で似合わない長い金色の髪を巻き上げた、生理的に受け付けない女性。隣には明らかに性格の悪そうな、人相の悪い子供。
ゼノビア王国第3王子オズとその母ジュリエッタだ。いわゆる純血派と呼ばれる、優越感を誇示する典型的な嫌味親子だ。事あるごとにわたしと母に絡んでくる。
「なに赤ん坊が勝手に歴史書触ってんだよ。きたねぇんだよ!」
オズがわけのわからないことを言ってくる。きたねぇってなに?アナタのほうが汚らわしいと私は感じるけど。
ああ、いけない。なんか真面目に色々考えていたけど、だんだん思考が荒くなってきた。
あまり吠えると……わかってる、よね?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます