第18話 マイストス対イヴ
「な、何故ぇ!?」
(いや、そりゃそうだろ)
顔を驚愕に染めるマイストスにレーヴは冷静にそう心の中でツッコミを入れた。
そもそも出会って数分も経っていないのに告白して成功する可能性の方が低いとレーヴが考えているとイヴが耳打ちをする。
「どちら様です? この方」
「とあるお貴族だ。ソウジキゴーレムを全部売れとしつこくてな」
「なるほど」
二人が状況の確認をしていると、立ち直ったマイストスがイヴに詰め寄る。
「ど、どどどどうしてだい!?」
「いえ、どうしてと言われましても」
「こう見えても僕は!」
そう言うと再び使用人たちが紙吹雪を撒き、マイストスはポーズを取りながら自分をアピールしていく。
「ファウゼンの家の四男で! 金も! 地位も! 顔も! 全て良しな!」
「何故一々ポーズを取るのですか? それと紙吹雪は止めてください。店内が散らかります」
「えぇ!?」
(流石イヴ、人が言いにくい事をズバッと)
余程意外だったのかポーズの途中で口をあんぐりとさせながら固まるマイストス。
そんな彼にイヴは更なる言葉による追撃を行う。
「そもそも何故ポーズを取る必要が? 円滑なコミュニケーションの邪魔になるだけだと思われますが? いえ、それよりも事前の連絡もなしに商品を買い上げようとするのもそうですが。このような場所にいきなり馬車で乗り込む事自体、無作法だと思われます」
「グハァ!?」
(本当に言いたい事言うな、イヴ)
イヴの言葉に膝から崩れ落ちるマイストス。
そんな彼にほんの少量は同情しつつもイヴに感謝を伝える。
「すまないイヴ。助かった」
「? 言うべき事を言っただけですが?」
「それが中々出来なかったから言ってるんだよ。いいから受け取っとけ」
「了解です」
そんな風に二人が会話していると、マイストスがゾンビのように立ち上がる。
「フ、フフ。素敵だイヴさん。貴族である僕にもハッキリと言うその姿勢はやはり妻に相応しい!」
「……どうしましょうレーヴ。当機は初めて理由も無しに人を殴りそうです」
「気持ちは分かる。本当に分かるが落ち着け」
マイストスには知らないところで握りこぶしを作るイヴを抑えるレーヴ。
そしてマイストスは不敵に笑いだす。
「しかし! これを見ても僕の告白を断れるかなぁ!?」
(宝石の類いか? イヴはその類いは興味ないが)
「僕の考えた究極のポーズ! これを見れば考えが変わるに違いない!」
(帰れ!)
レーヴの願いは届かず、マイストスはポーズの準備を始める。
「行くぞ! 究極ポーズ! 名付けて! 『アルティメットォォ』グアァァァ!?」
(あ、今のは腰をやったな)
元々が無理あるポーズだったのであろう。
腰から妙な音が鳴ると同時に倒れ込むマイストスは使用人たちに抱えられ馬車へと向かう。
「ぼ、僕は決して諦めない! 君に僕の心が届くまでは! 待っててくれイヴさーん!」
(その根性はもっと別のところで生かすべきたと思う)
何時までも叫ぶマイストスを乗せ、馬車は嵐のように去っていった。
レーヴとイヴ、そして野次馬や行列に並んでいた人々でさえ何も言えなくなる。
そんな中、二人は顔を見合わせて言うのであった。
「さて、販売するか」
「そうですね」
結局、通常の時間から一時間ほど遅れて便利屋はオープン。
五十のソウジキゴーレムは早々に完売し、その後の評判も上々だったと言う。
「昨日は大変でしたねレーヴ」
「全くだ。お陰でライアンに余分な借りを作ってしまった」
翌朝。
レーヴとイヴは便利屋の開店準備を始めながらそう話し合う。
今日はソウジキゴーレムは販売していないが、今日も今日とて店の前にはお客が開店を待っている。
「ライアン様は気にしなくてもいいとは言っていますが」
「だからと言ってその言葉に甘える訳にはいかないだろ?」
今度ライアンと飲む時は奢る事を決意しながら店を開店させようとした時であった。
見覚えのある馬車が店の前で止まった。
(うわ。凄く嫌な予感)
レーヴに不吉な考えが過る中、馬車の中から人が飛び出して来る。
「イヴさ~ん!!」
空中で大回転を決めつつイヴの前に着地した人物は花束を取り出して言った。
「僕と生涯を共にしてもらいたい!」
「無理です」
「なぁぜぇぇ!?」
(むしろ何で行けると思ったんだコイツ)
突如告白してきた人物、いやマイストスに冷静に心の中でツッコミを入れるレーヴ。
できれば放置したいレーヴであったが、そういう訳にもいかず声を掛ける。
「あーファウゼン様? お腰の具合は如何です? あまり無理をされない方が」
遠巻きに腰を痛めたんだから早く帰れ、と言うレーヴであったがマイストスは笑みを浮かべる。
「フッ! 心配しなくてもいいよ便利屋くん! ファウゼン家の医師は優秀だからねぇ! 治療魔法を受けて前より調子がいいぐらいだよ!」
(余計な事を)
筋違いとは知りつつも顔も知らない医師に恨み言を唱えるレーヴを置いて、マイストスはイヴに話しかける。
「それよりもイヴさん! どうして僕の愛を受け取ってくれないんだい!? 僕と結婚すれば地位もお金も約束するよ!?」
「そのような物には興味ありません。そもそも知り合って合計でも数分ほどで告白してくる相手を信用は出来ません」
「!?」
イヴの言葉がショックだったのか地面に倒れ込むマイストス。
流石に諦めるかとレーヴもイヴも考えていると。
「そうか、ならばデートをしよう!」
(こいつのメンタルはオリハルコンかミスリルで出来てるのか?)
滅多に取れない金属を例にしながらレーヴはマイストスの復活の速さに頭を悩ませる。
ゾンビのように復活するマイストスにイヴはため息を吐きながら答える。
「どこがどう繋がっているのですか」
「要するに君と僕の時間が少なくて受け入れてくれないのだろう? だったらデートをして交流すれば君は僕を知る事が出来る。僕は君と一緒で楽しい。両方が得をするいいプランじゃないか!」
(そもそもお前の事を知りたがっているという前提が間違っているが、言ってる事はそう間違いじゃないな。前提は間違っているが)
そんな事を考えながらもレーヴはある事を伝えにイヴに近づく。
「仕事がありますのでその話は」
「少しいいかイヴ」
「レーヴ? 何か?」
レーヴはイヴに近づくと、そっと耳打ちをし始める。
(この話、受けろ)
(何故です? こちらにメリットは無いと思われますが?)
(もし今日断ってもコイツの事だ、定期的に迫ってくるに違いない。だったら今日一日それらしい事して、その上で諦めさせろ。店は俺が何とかする)
(……)
レーヴの言葉にイヴは少し考えると頷きを返す。
(了解しました。少し計画にアレンジを加えても?)
(? まあ大元が変わらなければ何でもいいが)
(礼を言いますレーヴ)
そう話し終えるとイヴはマイストスと向き合う。
「分かりました。そのデートお受けします」
「ほ、本当かい!?」
「ただし受けるにあたり一つ条件を付けさせてもらいます」
「もちろんいいよ! 何でも言ってくれたまえ!」
(どんな条件を付けるつもりだ?)
レーヴも疑問に思う中、イヴはその条件を口にする。
「ここにいるレーヴも一緒に行動する事、それを条件とさせてもらいます」
(はい?)
「勿論いいとも!」
(はいぃぃぃぃ!?)
こうして、この三人によるデートが決定したのであった。
あとがき
まさかのデート、成立!
と言う訳で次回はこの三人によるデートの様子をお送りします。
果たしてイヴの思惑とは?
マイストスの気持ちは届くのか?
レーヴのストレスは大丈夫か?
そしてまさかの人物も加わります!
次回もお楽しみに!
できれば感想やコメント、そして応援のほどよろしくお願いします。
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