第11話 宣言
「お……お、ま……お前! 俺を忘れたってか!?」
「いや、本当に記憶にない。……誰かと間違えて無いか?」
「便利屋のレーヴだろうが! 誰がテメェの顔を忘れるかよ!」
地団駄を踏みながら怒りを露わにする中年男であったが、レーヴが先ほどから頭を捻ってもその男の事を思い出せない。
レーヴが横目でイヴに確認を取るが首を横に振る。
するとアーシャが突然声を上げる。
「ああ! 思い出した! アンタ二枚舌のポシェでしょ!」
「そ、その名で呼ぶんじゃねぇ!」
「……二枚舌、ですか?」
ライアンはアーシャの聞き直す。
レーヴとイヴも記憶にないようで、アーシャに注目している。
「しょうもない小悪党よコイツ。詐欺まがいのマジックアイテムを露店で売って回ってた奴なの」
「……いや、そんな奴と知り合いになった覚えはないんだが」
ワナワナと肩を震わせるポシェを見ながら断言するレーヴ。
アーシャは呆れたような口調で続きを話す。
「なくても仕方がないわよ。ただでさえ悪い噂が出回って、まあ事実だけど。商売が立ち行かなくなった時だったもの。レーヴが便利屋を始めたのは」
「つっっっっ!!」
「その後、問題を起こして軍に追われる身になって帝国から姿を消した……と思ってたんだけどね。まさかここまで落ちぶれてるとはね」
「なっ!」
「ああようやく思い出した。商売始めた頃にイチャモン付けて来た奴が何人かいたがその一人か。しょうもなさ過ぎて記憶から消してた」
「う、うるせぇぇぇぇぇ!! 全部テメェのせいだ!!」
ポシェは激高しながらレーヴを指で指し唾を飛ばしてまくし立てる。
「テメェが便利屋なんて始めるから俺の嘘がバレたんだ! 帝国に追われたのも、こんな事してるのも全部全部テメェの所為だ!!」
「いや、アンタがあんなマジックアイテムを売るからでしょ」
「黙れよ! 商売なんて騙してなんぼだろうが!」
「清々しいほどの逆ギレ。参考になります」
イヴが変なところで感心している中でポシェはさらに顔を真っ赤にしてレーヴを責め立てる。
「テメェが来てから碌な事がねぇ! 手配書があちこちに出回ってるから商売も出来ねぇ!」
「いや。まずそんなの売るなよ」
「俺みたいな奴がまともなマジックアイテムを作れるわけないだろ!」
「自慢する事じゃないでしょ、絶対」
「へ、へへへ」
「? おかしくなりましたか?」
突然笑い出すポシェにイヴは疑問を持つが、その笑いは段々と大きくなっていった。
「へへ。けれどこんな思いも今日で終わりだ。テメェはここで消えてもらうぜレーヴ!」
「悪いが、まともなマジックアイテムも作れない弱小逆恨み野郎に負ける気はないぞ」
「逆恨みじゃねぇ! これを見てもその口が開けるか!」
ポシェが右腕を高々と上げるとそこには赤黒いドクロの入れ墨が彫られていた。
「……なるほどね。あんたみたいな小悪党が随分大それた事をしたと思ったら、『プルート』に所属した訳ね」
血濡れの悪魔(プルート)。
反社会ギルドの代表格であり、メンバーはその腕に入れ墨を掘る代わりに力を増幅させているのである。
自信満々に入れ墨を見せるポシェは人を不快にさせるような笑みを浮かべながら高々と説明する。
「そう! この入れ墨こそが世界を恐怖に染める悪党ギルド、プルートの一員である証! これがある限りお前らに、お前らなんかに! 絶対に負けない!」
(……これが師匠の言うフラグという奴か、初めて見たな)
躊躇なく負けフラグを踏んづけたポシェにある意味感心するレーヴ。
だが突然ポシェの姿が巨大な何かに遮られる。
「……言いたい事はそれだけですかな」
「あ? 何だお前は?」
(そういえば一言もしゃべってなかったな)
その巨大な何か、いやライアンの巨大な背中を見ながらレーヴはそんな事を思う。
「自分には商売の事は分からない。だがこれだけは言える。アナタは裁かれるべき者だ、いま降伏するなら痛い思いはしないで済むぞ」
その言葉には所々怒りが込められていた。
オークとのハーフと言う事で誤解されがちではあるが、ライアンは正義感が強い。
ポシェの所業を聞いて怒っても仕方がない事であった。
その最終通告ともいえる提案を、ポシェは鼻で笑った。
「する訳ねぇだろバァカ! これを見ろ!」
ポシェがそう言うと地面から次々に魔法陣が現れる。
そこから現れたのはゴブリンの大群であった。
「へへへへ!! 見ろこのゴブリンの大群を! 俺が何の対策も取らないと思っていたのか!!」
「ゴブリン、五十を確認。未だ増え続けています」
イヴがそう報告すると、ポシェは自信満々に説明し始める。
「そう! 魔力が続く限りこの召喚が止まる事はねぇ! 無限とも言えるゴブリンの大群に飲まれてしまえ!」
「ふーん? だったら供給元のアンタを止めればいいのよね」
「……あ」
「魔法使いが自らネタばらししてどうするんだよ」
アーシャに図星を突かれ、レーヴにそんな言葉を浴びせられたポシェは肩を震わせながら大声を出す。
「う、うるせぇ! そんな事はこの大群から生き残ってから言いやがれ! 行け!」
ポシェが号令を掛けると、ゴブリンたちは一斉に四人目掛けて突撃していく。
既に八十を越えそうな数のゴブリンを前に皆の前に立つライアンは。
「ふん!」
逆に真っ向から突撃していった。
それを見てポシェは大声で笑い飛ばす。
「へへへ! とんだ大馬鹿野郎だぜ! ゴブリン共! リンチしてやれ!」
大群であるゴブリンと、たった一人の巨体であるライアン。
その二つがぶつかり合った結果は。
「……へ?」
ゴブリンの大敗であった。
多くのゴブリンが宙を舞う姿を見てポシェは思わず間抜けな声を出してしまう。
仲間の惨状に足を止めるゴブリンたちを前にライアンは堂々と断言する。
「愛無き者に、自分が砕ける事は無い!!」
そう堂々たる姿にゴブリンたちは早くも逃げ腰になってしまう。
それを見たポシェはゴブリンたちを一喝する。
「び、ビビるな! 囲んで弱らせればいいんだよ! ほら行け!」
そう命令されゴブリンたちは再びライアンと対峙する。
じわじわと包囲してくるゴブリンに対してライアンは背負っていた大剣を引き抜き構える。
しばらくにらみ合いが続いたが、両横に陣取ったゴブリンが同時にライアンに跳びかかる。
「「ギャァ!?」」
だがその二匹は突然飛んできたショートブレードに貫かれ木々に張りつけにされる。
突然の事にゴブリンたちが混乱する中、ライアンの後ろから高い声が響く。
「まったく。こっちに四人いることを忘れてるじゃないわよ」
アーシャは右手に槍、左手にロングブレードを持ちながらゴブリンたちを見渡す。
その存在感に怯えつつあるゴブリン、そしてポシェにアーシャはこう宣言するのであった。
「アンタたち。逃げられるとは思わないよね」
これより夕暮れの森にて、殲滅が始まろうとしていた。
あとがき
今回はこれにておしまいです。
ライアンとアーシャの実力が少し明らかになり、次回は本格的なバトルに突入です!
是非楽しみにしてくださいね?
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