第5話:盗賊団
俺は荒野を進んでいるときに運悪く盗賊に囲まれてしまった。
盗賊が手にしている剣や身に着けている鎧には血がついていた。
「へっへっへ・・・お前、さっき通った貴族様の元家族だったんだろ?」
禿マッチョが話しかけてきた。
「ああ、そうだが。・・・彼らはどうした?」
「護衛が多くてなー、わざと見逃したよ。でも、そのお礼としていい情報をいただいた。」
「それはなんだ?」
にやにやしながら禿マッチョは剣の切っ先を俺に向けた。
「お前からならば命も金もすべてもらって良いってな!!」
それを合図に盗賊たちは俺の周りを囲んで剣を抜いた。
「はあ、あそこまで屑だったとは・・・。」
「かかれィ!!」
どうやら禿マッチョはこの盗賊団のボスらしい。
離れたところにいる彼が号令をかけると、俺を囲んでいた盗賊たちが一斉に襲ってきた。
俺は、空気に隙間を作りそれを自分の周りに作って奴らに飛ばしてボスの前で消えるようにイメージした。
すると、瞬時に半透明の輪っかのようなものが現れ、それが盗賊たちに向かって飛んで行った。
ブシャーという血しぶきの音とともに体を真っ二つにされた盗賊たちがバタバタと倒れた。
「お、意外とうまくいった。」
人を殺しても全く罪悪感がない。今までのハロルドとしての人生がそうしているのか、それとも前世の激務で単に心が疲弊しているのかわからない。
「な、なにが起きたんだ?・・・痛つっ!!」
あまりの出来事に驚いていた禿マッチョは、自分の腹部に切られたような痛みが走ったので自分の腹を右手で抑えつつ恐る恐る見ると、横一文字に深い傷ができていてそこから血がしたたり落ちていた。
右手にも血がべったりとついていた。
「ひ、ひいいいっ!」
禿マッチョはその場で逃げようとしたがあまりにも恐ろしい出来事だったのか、その場でへたり込んでしまった。
俺は自分を殺そうとした禿マッチョに恐ろしい形相で近づいた。
「覚悟はいいか?」
「ま、待ってくれ!そ、そうだ!今からあなた様が私のボスです!いままで奪ってきた金銀財宝もすべて差し上げます!」
「・・・本当か?」
「え、ええ・・・もちろんです。」
拍子抜けだったが、これである程度の生活ができることを期待した俺はその提案に乗ることにした。
「わかった。だが、裏切ったら容赦はしないぞ?」
「へ、へい。」
その時、青かった禿マッチョの顔がさらに青くなったかと思うと、後ろで犬の唸り声と咀嚼音がした。
「どうした?」
「ふぇ、フェンリルだ!」
驚いて後ろを向くと、白銀色の毛並みが美しい中型犬が先ほど俺が殺した盗賊たちを食べていた。
恐らく、血の匂いに誘われてきたのだろう。
禿マッチョの声に反応してフェンリルが近づいてきた。
まだ、ハロルドだったころの記憶だが、フレーという女性エルフにフェンリルが人語を解す人狼の中で一番位の高い種族で、本人たちもそれを自覚しており、プライドの高さから使役されることはめったにないということを聞いた気がする。
「君、食べられる人間?」
フェンリルは少女のような声で話しかけてきた。
声、可愛いな。
そんな、のんきなことを考えていると後ろから押すやつがいた。
「そ、そうです。こいつは俺の仲間を殺して俺から財産を奪おうとした悪い奴です!食べるのなら美味しそうなこいつから・・・。」
「はあ、言ったそばから裏切るとは・・・悪は悪でも糞のような悪人だな。おまえ・・・。」
「へっへっへ、何度でも言え!この世界じゃ強い奴とそれに追従するものが勝者よ!正義よ!ゆえに悪人の肉が大好物なフェンリルは、正義の俺様と敵対しているお前しか食わねえ!」
「うん、知ってた。前世も弱肉強食な世界だったし・・・というか、仲間が食われているのに自分は助かると思っているのか?」
期待はしていなかったが、こうもあっさり裏切られると怒りを通り越して呆れてくる。
「彼は飯をくれた恩人。恩人を食うわけにはいかない・・・禿マッチョ、お前は私の恩人を殺そうとした悪人。だから、美味しそうなあなたを・・・食べる。」
君たちのために倒したわけじゃないけど黙っておこう。
なんて思っていると、フェンリルは俺を飛び越えて禿マッチョを押し倒した。
「た、たうぇ、食べないでくだs・・・。」
言い終わる前に男の二の腕がごっそり持っていかれた。
「あ、ああああ!!俺の腕がー!!!」
盗賊は、悲鳴を上げながら徐々に食われていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます