第3話:外れスキル
私は神官長様のお言葉に、衝撃を受けて頭の中が真っ白になって目の前がぐるぐると回転していくのを感じた。
「く、空気操作ってどんなスキルですか?」
「うーむ、正直に言ってしまうとわしにもわからん・・・操作と神様が言うておったから何かを操るものだと思うんじゃがな~。」
こうして私の人生はここで終了した。
厳密には死んではいないが、それでも死んだほうがましだと思えるような地獄が待っていた。
飯は一日に一回から二日に一回となり、それまでスープに入れられていた豆や肉類などはほとんど入れてもらえず、味も極端に薄くスープ自体も冷えたものになっていた。
そして、虐待や罵倒が両親や弟から日常的に行われるようになった。
「一家の恥さらしめ!この、この!こうしてやる!!」
父親は私を殴る蹴るなどして死なない程度に暴行を加えた。
その後に回復魔法で回復させた後に罪人用の檻に戻す。この繰り返しだ。
檻は、ユニークスキルを授かる前に何回か視察に連れてこられたことがある。
以前、この家に暗殺者がやってきたときに父親と一緒に食事を与える際に連れてこられたのだ。
家があるところは夜が決まって肌寒く、この檻はもちろん外の寒さの影響を受けやすいため厚着を着ていても凍えそうなくらいだった。
しかも、今日にいたっては昼間でも凍てつくほど寒かったので薄着で檻に放り込まれた僕は、このまま死んじゃうのではないかと思った。
だが、寒さで死にかけた時になぜか布団にくるまっているかのような暖かさが体全体を覆った。
「・・・変だな?」
翌朝、弟が檻を叩く音で目が覚めた。
「んあ?」
「起きろ無魔人!魔法の練習に付き合ってもらうぜ。」
そして、いつものように丸太に縛り付けられた。
やじ馬のようにメイドたちが数人集まってきたが当然止めるものは誰もいない。
「成長した僕の攻撃を喰らいやがれ!ギガ・ファイヤーボール!」
いつものファイヤーボールより明らかに大きい!くそ、この魔法を吹き消せる突風でも吹いてくれたら!!
私がそう思ったその時、自分の目の前でイメージ通りの突風が吹いて、弟が放ったギガ・ファイヤーボールが目の前で消えた。
「馬鹿な!僕のギガ・ファイヤーボールが消されただと!?」
メイドの一人は目を丸くして驚いた。
「そんな!坊ちゃまが放ったギガ・ファイヤーボールは、Lv.3の炎系魔法で同レベルより上の防御系魔法を習得したものでしか完全に消せないはずなのに!」
フレーは、風属性の魔法を使えるのでもしやと思い、周りを見渡したが弟とメイドたち以外は誰もいない。
「お、おい!誰だっ!!コイツを助けようとした奴は!?」
だが、もちろんメイドたちはいっせいに首を横に振った。
「ちっ、興が冷めた。飯食ってくる。」
弟とメイドたちは、ぞろぞろと食堂の方へ行ってしまい私はいつも通りそのまま放置された。
ある日、剣の修行という理由で私を刺し殺そうとした父親は、私がどこかへ飛んでいけと念じると、またもや突風が吹いて飛ばされて地面に腰から落下してしばらく動けなくなった。
その後、腰痛が治ると言われる火山の麓にある温泉宿へ行くことになった。
私は、どうせ連れていかれないだろうなといつもの檻でふてくされていると、杖を突いた父親が檻の目の前までやってきた。
腰の痛みで眠れず食事も喉を通らないのか、目にクマができて頬も痩せこけてまるで別人のようだった。
「な、なんでしょうか?」
「喜べ、お前も連れてってやることにした。家族には了承済みだ。」
内心嬉しかったが、今まで散々意地悪をしてきたために簡単に心を許せなかった。
「で、でもなぜ私を?」
「思えば、この腰の痛みは神から私へのバツなのだと思ってね。君を連れていき、そこで極楽を味合わせてやれば治ると思ったのさ。」
「・・・・。」
「もちろん、この後は正式に我が家の長男として再び迎え入れるつもりだ。」
私は目頭が熱くなった。
親に愛されたい、その願望がついにかなったのだ。
「あ、ありがとう・・・ございます。父上!」
・・・・・
一年で最も寒い日であろう今日、僕たちは馬車に乗って護衛に囲まれながら温泉宿を目指した。
窓から流れる景色は、緑豊かな草原からだんだん枯れ草がまばらに生えている不毛の大地へと変わっていった。
「停まれ。」
父上が御者にそう命令すると、馬車がぴたりと止まった。
何事だろうと思ったら、いきなり馬車の扉が開いて護衛の一人につまみ出された。
「ぐわっ!な、何をする!?」
その疑問に答えたのは護衛ではなく父上だった。
「ハロルド!貴様を今ここで廃嫡とする。」
「な、なぜですか!?父上!!」
「うるさい!お前はもう私の息子ではない!ろくに魔法も使えずクソみたいなスキルを授かりおって!!」
続いて母上が私を罵倒した。
「12年も期待した私がバカだったわ!あんたなんか生まなければよかった。」
私はショックで頭が真っ白になり、冷え切った風が余計寒く感じた。
続いて弟も底意地の悪い笑みを浮かべて吐き捨てた。
「こんなみじめでクズな兄を持った僕は不幸ものだよ。僕の見えないところで凍え死んでしまえ!」
「まって!待ってください!」
扉が閉まり、行ってしまう馬車を必死で追いかけようとしたが、護衛に突き飛ばされ岩に頭を強く打ち付けた。
・・・・・・・・・
灰色の曇り空から雪がちらつき、俺の顔について溶けた。
俺は、その水滴をぬぐいふらふらと街道に向かって歩みを進めた。
頭を岩にぶつけたのか、近くの岩に血がついていてそれが俺の方へ点々と続いていた。
血がにじみ出てくる頭をさすりながら俺はつぶやいた。
「俺は捨てられたのか・・・。」
頭を打ったショックで思い出した。
俺の前世は日本のサラリーマンだった。
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