五つの塔へ

ソマリとベンガル

序章



精霊の見守る大地


この大陸は五柱の精霊によって見守られている。

火、水、木、土、金属──五つの塔に宿る彼らは悠久の時を生きながら、人々の営みを“観察”し、“干渉”してきた。


彼らの目に映るのは、国の王でも街の権力者でもない。

信仰を捧げ、祭壇を訪れ、日々の行いを通して“好奇心”をくすぐる者たち。

そうして選ばれた者にだけ精霊はスキルや力を与えるという。


塔を登る者たちは人々から“探索者”と呼ばれていた。



ウッディーレ村は木の塔の街から北へ数日の距離にある湖のほとりの小さな村だ。

レオはその村を旅立ち伯母の教えを胸に、ひとり薬師として修行を続けている。


伯母――シーラは、かつて名の知れた探索者兼薬師だった。

その証拠に彼女には木の精霊より授かったスキル《緑の手》の刻印が刻まれている。

触れるだけで薬草の成長を促し、毒草を見分けるその力は彼女の大きな助けとなっていた。


彼女には特別な“約束”があった。

それは彼女と木の精霊が交わした唯一の約束。

「必ず、塔を登り切り精霊あなたに会いに行く」


幾度もの祭壇で祈りを捧げ、会話を交わし、笑い合った木の精霊との約束。

しかし、パーティメンバーの離脱、そして命にかかわる大怪我によりシーラはその夢を果たせぬまま探索者を引退した。


それでも彼女は諦めなかった。緑の手を活かし、村で薬屋を開き、旅の探索者を支えながらいつか再び塔へ登る準備をしていた。


薬師としての生活に慣れた頃、遠くに暮らす家族の村が盗賊によって襲われたという報せが届く。

探索者崩れの賊によって廃墟と化した村――

シーラは駆けつけ倒壊した倉庫の氷室で、なんとか甥のレオを見つけ出した。

それが精霊との約束を果たせなかった彼女の最後の旅となった。



今、レオはその想いを継ぎ、伯母が果たせなかった約束を叶えるため、塔を巡る旅をしている。

目指すのは、五つの塔の最上階。

そして精霊へ、自らの手で作り上げた薬を捧げること。


背嚢には伯母から贈られたお守り、木の枝を模した薬匙を持ち、腰には、水と金の魔力で姿を変える、奇妙な金属の棍棒――

アイアンスライムの体液から作られた、彼だけのメイスが揺れている。


精霊達はこの世界に確かに息づいている。

そして自分達の好奇心を満たす者を観察するのであった。

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