第385話 ダンジョンの迷宮
うっかりしていた。
『モンスターを地上に転送されるのですか?』
『ああ、中層は迷路のように入り組んだ道が多いから、どうしたってモンスターの方が有利だろう? このままだと終わりの見えない消耗戦を強いられることになりそうだし、戦力を集中させて叩いた方が確実かなって』
『この〈
と言うやり取りがあって、メイドたちにモンスターの調査を命じると共に〈
予定よりも随分と日本に長居してしまったため、近いうちに楽園に戻るつもりだったしな。夏休みを利用してギャルの家族や教え子たちも月に招待してやろうと思っていたので、少し多めに〈
スカジたちも一緒に月へ転移したみたいで念話が届かないし、本当に困った。
月にもギルドはあるし、ま……まあ、大丈夫だよな?
あとで、日本のギルドマスターには謝っておこう。
「到着しました。この扉の先です」
失敗を悔やむよりも、いまは目の前のことに集中しようと思う。
呪素に侵食されたモンスターはすべてダンジョンの外に転送したが、原因をどうにかしないことには解決したとは言えないからな。
イズンの案内で辿り着いた場所には、巨大な石造りの扉があった。
この扉の意匠……見覚えがある気がするのだが、どこで見たんだっけ?
ダンジョンだろうか?
俺もいろんな遺跡を巡ったけど、ダンジョンではないような……過去の世界か?
「ご主人様、どうかされましたか?」
「いや、なんでもない。先に進もうか」
まあ、そのうち思い出すだろう。
忘れてるってことは、たいしたことではないのだろうしな。
「う、ううん?」
「ご主人様?」
「い、いや。なんでもない」
扉の奥に進むと、これまた見覚えのある景色が広がっていた。
これって、もしかしなくても――
「オベリスクがあるな」
「はい」
オベリスクと魔法陣があると聞いていたが、これまた見覚えのあるオベリスクがあった。
グリーンランド――〈方舟〉にあったオベリスクと同じものだ。
大きさカタチともに完璧に〈方舟〉にあったものと同じだった。
ということは、この遺跡ってもしかすると――
「
オベリスクに手を当て〈解析〉を使用する。
やはり間違いない。このオベリスクが床一面に刻まれた魔法陣を通して、ダンジョンから魔力を集めているようだ。そして、驚くべきことに〈
だとすれば、この遺跡はヘルメスの――博士の世界のものと言うことになる。ダンジョンに滅ぼされたという話だし、博士の世界の遺跡があっても不思議な話ではないが、いまになってこんなものが見つかるとはな。
でも、なんだこれ? オベリスクに集められた魔力がどこかに流れている?
遺跡はほとんど機能を停止しているみたいだし、ううん……。
『〈復元〉を使用されては如何ですか?』
ああ、その手があったか。
アカシャの言うとおり遺跡の機能を〈復元〉すれば、なにか分かるかもしれない。
そうと決まれば――
『アカシャ。
『はい、マスター』
まずは呪素をどうにかするのが先だな。
過去の世界でも一度だけ使用したことのある魔法だ。
大気中の魔素を集め、魔力に変換するエクストラスキル。
その名も――
「
◆
(ダンジョンの魔素がご主人様の杖に集まって、魔力へと変換させていく……)
魔素の光が渦を巻きながら集束していく光景に、目を奪われるイズン。
世界樹が精霊を生みだし、精霊が魔力を生み、魔法を使うことで魔素が発生する。
そうして発生した魔素は自然に還り、世界樹のもとで再び魔力へとリサイクルされる訳だ。
こうやって世界は循環している。
その自然の法則を魔法で再現したものが、椎名の〈
しかし、只人に世界樹の真似事が出来るはずもない。
(人間のなかにも稀に魔素を取り込んで魔法を使うものがいますが、これほどの規模は……)
魔素を利用する技術は椎名のオリジナルと言う訳ではなく、魔法使いたちの間で研究されてきた技術だ。
しかし、無尽蔵に魔素を身体に取り込める人間などいない。魔力の総量は魂の器で決まっていて、限界を超える魔力を身体に取り込むことは出来ないからだ。
ましてや、これはただの魔素ではない。椎名が呪素と呼ぶものの正体は、摂理や法則をねじ曲げることで生まれた世界の歪みそのもの――星霊を狂わせる魔素。即ち、星霊にとって毒となるものだ。
少量であれば耐えられるが、大量に吸い込むようなことすればイズンであっても身体に異常を来しかねない。椎名のように大量の呪素を身体に取り込めば、命の危険すらある代物だった。
なのに平然とした顔で呪素を取り込み、歪みを
それだけに――
(やはり、ご主人様は……)
改めて、椎名が星霊さえも超越した存在であることをイズンは実感する。
世界樹の大精霊――星霊だから分かるのだ。
「よし、こんなものか。結構、集まったな」
これほどの魔素を取り込んでいながら魔力が身体の外に漏れ出ていないと言うことは、すべての魔力を完全に制御下においていると言うことだ。
そんなことが出来るのは、すべてを超越した存在だけだ。
「早速、〈復元〉を試してみるか」
ましてや
人間は勿論のこと、星霊にも扱える代物ではない。
それを複数所持して、使いこなせる存在がただの人間であるはずがない。
「
◆
結論から言うと〈復元〉は成功した。
なにせ、集めた魔素をすべて遺跡の〈復元〉に使用したからな。
壊れていた箇所だけでなく、床や壁も新品同然にピカピカだ。
「魔力が送られているのは……亜空間か?
システムが復元されたことで、施設の全容が見えてくる。集めた魔力をシステムと繋がった亜空間に供給しているようなのだ。
もしかしたら、ここは集積所だったのかもしれないな。
だとすれば〈
「封印されているみたいだが、このくらいなら――」
さすがにロックはかかっているようで、誰にでも取り出せないようになっていた。
しかし、この程度であれば解除は難しくない。
俺のスキルは〈解析〉と〈分解〉を得意としているからな。
「
これまで幾つも遺跡を回ってきたが、施設自体が〈
「ご主人様。扉が……」
「なるほど、こういうタイプの〈
オベリスクの前に、高さ十メートルほどの巨大な扉が現れる。
どうやら倉庫のなかに入るタイプの〈
いまのように小型化される前の〈
だとすれば、この遺跡――相当に古い代物である可能性がある。
方舟が開発されるよりも、更に何千年も昔の遺跡なのかもしれないな。
「これはこれで稀少価値が高そうだ」
歴史的な価値がありそうだし、研究資料としても興味深い。
「ご主人様、お待ちください! どのような危険が潜んでいるか――」
「大丈夫、大丈夫。特に危険な気配はしないし、ただの〈
扉を抜けると、そこには――
「なんで、ダンジョンのなかに
迷宮が広がっているのだった。
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