血志(けっし)馬鹿一代~神の願いに献血する者~

妄想屋あにこう

プロローグ~男は夢幻の内に~

 ゴボボ…ゴボボ…

 何時からだろう?自分の耳に聞こえるのが水のような音ばかりになったのは…

 しかしそれが「水」が出す音では無い事はその前の記憶から解っている。

 目を開けは赤い…どこまでも紅い…いや、「紅くなった」と言った方が正解だろうか?その前はもっと黒くて濁ってて…肌に感じる感覚ももっと粘液質な感じだった気がする。

 …何時からだろう?それが変ったように思えるのは…何時からだろう?こんな日々が始まったのは?

 思いだせない…いや違う…頭が動かない…違う…全身が動かない…そうなってどれ位経っただろう?…それを思い返す事も出来ない位動かない…

 今自分は起きているのだろうか?それともこれもまた夢?…夢?いつからだろうか?夢を見る様になったのは…いや、正確には「夢だ」と認識するようになったのは何時からだろうか?…それさえ最早解らない…

 実際どれだけの時間が過ぎたのかも判らない…

 一月?一年?もっと…あるいは一時間?一日?あるいは数秒?…

 解らない…解らない…ただ一つ解っているのは「これは自分が望んでした事」で「その結果もまた自分が望んだ事」だという事…そして


『これが誰かの為になってるという事に心躍る自分が今も居る事』


 ああ…でも…こんな気持ちのまま死ねたら幸せなのに俺はまだ生きてるんだな…どうせならこんな気持ちのまま死ねたら良かったのに……


『元の世界でも感じる事は無かったかもしれないこんな気持ちの中で死ねたら』


 彼はそんな気持ちの中今も漂い続けている…それは傍目には人一人入るにしても大きすぎるような「心臓の様な何か」だという事はその外から見れば、当然彼も知っている。

 しかしそれを知る者は少ない、いないと言っても良い位に少ない。

 だがそれさえどうでもよかったのだろう…彼は今も苦しみの中に居るのだから。

 意識不明と言うには意識はあって…

 重症と言うには体は元気に思えて…

 痛みも苦しみも最早慣れ過ぎて感じられなくなって…

 そんな中で彼はかすかな気持ちや意識を漂わせながらその中に居続けている。


 これが彼の望んだ事だとしたらどうしてなのだろうか?


 その問いかけに答えられるのは居ないのかもしれない、居ても数人かもしれない。それも知る人も少ない知名度があるような無いようなごく少数でしかない。

 現に今こうやってしている事をこの世界の住人は英雄譚として今後も記す事も無いだろう、代わりに彼がしてきた事は寧ろ「醜聞」と言う方が正解かもしれない。


 だとしたらこれは罰なのか?違うと彼を知る者達は言うだろう、彼自身も。


 しかし傍目にはそうとしか思えない。神話に曰く位の永劫続きそうな拷問、発狂しても闇堕ちしてもおかしくない位の拷問…そのはずなのになぜ?


 その答えが解る時彼はどうなっているのかさえも知る者は少ないだろう。


 そんな…そんな…英雄譚にはほど遠いとある一人の半生をこれから記していこう。


『誰の記憶にも残らずとも誰かの為に血と命を懸けて捧げた者達への鎮魂歌』


 そんな大層な物になるかどうかは分からないが。


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