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 エリーの背筋に悪寒が走ると同時、彼女は自身の脚力をフルに使って後ろへとバックステップで跳んだ。銃弾が行き交う戦場ですらも感じえなかったその感覚が冷や汗となって彼女のほほを伝う。


 そして彼女の体が発した警告は真実であると思い知る。


「いたたぁ~、銃で撃たれるってこんな感じなんだ。痛いっていうか熱い?」


 白地のワンピースを自身の血液で真っ赤に染めながら芦澤カナは立ち上がる。


 痛い痛いと口にしておきながらも撃たれた足で平然と立っている様子から、エリーは彼女が痛みに対して異常な耐性を得ていることを察した。


「はっ、吸血鬼は伊達じゃねぇってことか。肺と足撃たれて平然と立ってる奴なんざ人間じゃねぇわ。」


「あ、その口ぶりもしかしてアレ見たんだ?私のこと吸血鬼って言ってるし、その口でしょ!?」


「自覚あるっつうことはあの映像やっぱわざと映ったな?」


 エリーのその言葉に対して芦澤カナは狂気が張り付いた満面の笑みで返した。その次の瞬間、臨戦態勢を解いていなかったエリーへと芦澤カナが異常とも呼べるスピードで接近する。


(っ!!速ぇっ!!)


「おねぇさんには残念だけどさぁ、私とおねぇさんじゃあスペックが違うんだよねぇ。」


 人間離れしたスピードでエリーに接近した芦澤カナは、ぐっと拳を握り振りかぶる。


「たかが人間ごときがさぁ……が新人類の吸血鬼に勝てるわけないよねぇ!!」


「チッ!!」


 人間離れしているスピードの拳、だが戦場で行き交う弾丸と比べれば遅い。戦場で鍛えられたエリーはそれを動体視力とCQCの技術でいなして見せた。


「ふぅ。ヒステリックもここまで来るとやべぇな。ちょっと気が触れただけでだれか殺しちまうんじゃねぇか?」


「おねぇさんも私と同類でしょ?いっぱい人間を殺してる匂いがするもん。」


「ハッ、こんな人殺しじゃねぇとテメェの相手は務まらねぇんだとさ!!」


 そんな言葉を交わしながらもエリーは一発ハンドガンを撃つ。普通の人間であればまず避けられない至近距離での発砲だったが、蘆澤カナはそれをいともたやすく躱して見せたのだ。


「マジかよ。」


「やっぱりこうしてよーく見ると銃弾でも遅く感じるんだね。勘違いしないでほしいけど最初の二発は興味本位で当たってあげただけだから、そこのところよろしくね?」


 けらけらと笑いながらそう言い放った芦澤カナは自身の血でべっとりと濡れたワンピースに手を添える。するとワンピースが吸っていた血が見る見るうちに彼女の手のひらの中へと吸い込まれていく。


「お前、吸血鬼よりクリーニング屋のほうがあってるぜ。」


 次の策を練りながらも目の前で起きている不可解な現象をエリーは分析していた。


(どうなってる?手品とかの類じゃねぇ。銃は正面からじゃ当たらねぇし、まいったなこりゃ。)


 そして自身の血液をすべて手の中に集め球体を作り上げた芦澤カナはそれの形を更に変化させていく。


「せっかくだし、私も銃とか使ってみたいな~。こんな感じ?」


 新たに模られたのはエリーのハンドガンを模した何か。芦澤カナはそれを握るとエリーへと歪な銃口を向けた。それと同時……。


「BAN☆」


「っ!?」


 芦澤カナが自分の口で銃の発射音を口にした瞬間、彼女の握っていた銃のようなものから何かが発射される。


 エリーはとっさに体をひねってそれを回避するが、そこにすぐさま芦澤カナの追撃が飛んでくる。


「BANBAN☆」


「チッ、クソが!!無茶苦茶しやがる!!。」


 遮蔽物のないこの場所では銃撃を隠れてやり過ごすことはできないため、エリーは回避に専念することになってしまう。


(何せ場所が悪ぃ、あの飛んでくるなんかをやり過ごせる場所はねぇ。だが、あいつはさっき殴ってきたときもそうだったが戦闘に関してはド素人。銃の扱いにも慣れてねぇ。なら勝機はある。)


 エリーはハンドガンにセーフティーをかけ、引き金を引く。するとピンッと甲高い音が鳴った。それを確認してエリーはあろうことか自分のハンドガンを芦澤カナに向かって投げた。


「これやるよ。」


「へ?」


 そのハンドガンは芦澤カナの眼前でボンと破裂するような音とともにモクモクと煙幕を吐き出し始めた。


「ケホッケホッ!!なにこれ!?」


「特製の催涙成分入り煙幕だ、たんと味わえよ。」


 エリーは芦澤カナがひるんでいる隙に上着の内側からナイフを二本抜くと、煙幕の中へと突っ込んでいく。

 そして容赦なく芦澤カナの喉へと向かってその二本のナイフをぶっ刺した。さらにダメ押しといわんばかりにまだ根元まで埋まっていないナイフへと向かってを蹴りを叩き込みさらに深く突き刺す。頸動脈、さらには脊髄をも完全に断絶するその一撃は普通の人間相手では完全にオーバーキルだ。


「はぁ、生け捕りは無理だったわ。」


 耳にはめていた無線端末にスイッチを入れそう呟くと、無線の向こうから聞こえてきたのはメイの声ではなく……。


『やっほ!お母さんですよ~。』


「げ、お袋……。メイはどうしたんだよ?」


『あぁ、メイちゃんなら心配はいらないよ。今ちょっと代わってもらってるだけだから。それで、エリー今生け捕りは無理って言ってたよね?』


「んあ?あぁ。」


『まだ終わってないみたいだよ?』


「あ?」


 リースがそう言ったとほぼ同時、芦澤カナの目に光が戻る。

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