妹ちゃんの言うとおりにしていたら覇王になっちゃったけど、どうしよう?
レオナールD
第1話 クーデターに成功しちゃいました
「馬鹿な……たった半日で我が城が落ちたというのか……!?」
城門が破られ、大量の兵士が城内になだれ込んでくる。
難攻不落。
建国より三百年間、一度として敵兵を入れることがなかった王城が不敗神話に幕を下ろそうとしていた。
「国王を探し出せ!」
「あのクソ王太子はどこに行きやがった!?」
「さんざん
口々に王族への罵倒を放ちながら、敵兵が容赦なく城内に踏み入ってきた。
彼らの顔は怒りと勝利に興奮しており、血に酔いしれている。
城内に残っていた使用人と兵士が逃げ回る。王城に敵が入ってきたというのに、その場で踏みとどまって戦うものは誰もいない。
敵はもちろん、味方すらもわかっているのだ。
この国の王族はもうダメだと。守る価値のない存在であると。
「……私がしてきたことは何だったのだ。この国を救いたかった。守りたかったのに」
城の窓から敵兵を見下ろし、嘆きの言葉を口にするのは王族の一人。
国王の娘である、メディナ・アイドラン王女であった。
アイドラン王国は何年も前から腐っていた。
国民から搾り取れるだけの税をかけ、けれど公共事業などで彼らの生活に還元することなく贅沢の限りを尽くしている。
国王はひたすら高い酒を国外から買いあさって、鯨が水を吸うように飲み干している。
王妃はドレスや宝石で自分を飾りつける事にしか興味はなく、毎晩のように夜会を開いている。
そして、次期国王になるはずだった王太子は市井から気に入った女を連れていき、側近と一緒になって嬲っては捨ててを繰り返していた。
そんな中で……メディナはただ一人、国の未来を憂いて国政を立て直そうと尽力していた。
両親や兄を諫めながら彼らから少しずつ権力を削ぎ落とし、民のための国造りに励んでいたのだ。
だが……そんな努力が実を結ぶことはなかった。
メディナの改革が目に見えた成果を出すよりも先に、民衆による反乱が起こったのである。
民衆が蜂起した当初、国王を始めとした王族はそろって高を括っていた。
クーデターなど上手くいくわけがない。
すぐに兵士と騎士によって鎮圧されるだろう。首謀者が首を吊るされることになるだろう。
そんなふうに楽観して、城が落ちる直前まで変わることなく贅を貪っていた。
だが……彼らにとって、大きな誤算があった。
反逆を率いているのは王国最強の騎士と呼ばれたヴァン・アーレングスであり、彼の圧倒的なカリスマによって国を守る騎士の半数が裏切っていたのだ。
ヴァンは隣国との戦争によって大きな手柄を立てた騎士なのだが……平民であったために権威主義の王太子に嵌められてしまい、辺境に左遷させられていた。
(だけど……彼は帰ってきた。大勢の兵士を引き連れて。王国の敵として……)
城の構造を知り尽くしたヴァン率いる反逆軍はわずか半日で城壁を攻略して、王城内部へと踏み入った。
こうなってしまえば、もはや彼らを止める手段はない。
国王も王太子もすぐにでも民衆の間に引きずり出され、彼らが首を吊るされることだろう。
「まさか……これで終わりだなんて。私は何もできなかった……」
そして、危機にさらされているのはメディナも例外ではない。
メディナは民衆を弾圧などしていなかったし、むしろ彼らのために減税を訴えていた。
だが……それを知る者がどれほどいるだろう。
多くの民にしてみればメディナも憎い王族の一人であり、殺すべき対象である。
「姫様! こうしてはいられません、早く逃げてください!」
メディナに仕えているメイドが叫ぶ。
窓から外を見下ろしていたメディナがノロノロと振り返る。
「貴女は死んではいけない方です。この国のためにずっと尽くしていた、かけがえのない御方です! どうか、城から逃げて生き延びてください!」
「アン……」
メイドの言葉に、メディナが悲痛な顔をする。
自分が生き残ったところで何ができるかはわからない。
それでも、ここで死んで何かが変わるとも思えなかった。
「……わかった。城を脱出する」
「姫様……!」
「城には隠し通路があったはず。そこを通れば逃げられるかもしれない。まずは生き残って、それから王族として出来ることを考えよう……!」
「それは困るな、メディナ王女殿下」
「…………!」
抑揚の無い平坦な声に背筋が凍りつく。
直後、部屋の扉が両断されて、一人の男性が姿を現した。
「ヴァン・アーレングス……!」
メディナが噛みつくような顔で男の名を呼んだ。
その男こそがヴァン・アーレングス。
反逆の首謀者であり、かつて最強の騎士とまで呼ばれた英傑であった。
ヴァンは黒い大剣を片手に持っており、屈強な体躯を覆った漆黒の鎧を鮮血で濡らしている。
顔立ちは貴族に混じっていても不自然はない程度には整っているのに、その瞳はどこまでも冷たい。
正面から見るだけで、死を決意させるような濃密な殺意が浮かんでいた。
「ひ、姫様! お逃げくだ……」
「アン!」
「…………」
メイドが主をかばって立ちふさがろうとするが、ヴァンが無言で大剣を振り下ろした。鈍い音が響いてメイドが床に倒れる。
「よくもアンを……!」
「殺してはいない。何か問題があったのか?」
倒れたメイドであったが、血を流すわけでもなくただ昏倒している。
ヴァンが片刃の剣の峰で首を叩いて気絶させたのだ。
わずかでも力加減を間違えれば、首の骨が折れていただろうに……ヴァンは脳を揺らして意識を奪うギリギリの強さで殴っていたのである。
「丸腰の女性に剣を向けるとは恥を知りなさい! それが騎士のすることですか!?」
しかし、手加減をしていたからといって、目の前で親しい人間が剣で倒されるところを見たメディナは冷静ではいられない。
ヴァンを怒鳴りつけながら掴みかかろうとする。
「『騎士のすることか』……」
「ッ……!」
ヴァンはメディナの言葉を復唱しながら、細腕を掴まえて捻り上げた。
「確かに、俺は騎士としてあるまじきことをしてしまったな。どうして、こうなったんだろうな?」
「それは……!」
何気なくかけられた疑問の言葉に、メディナは氷の槍で貫かれたような痛みを胸に感じた。
ヴァンは主君である王に刃を向けて、騎士としては許されない狼藉を働いた。
では……それはさせてしまったのは誰か。誰のせいでそんなことになったのか。
「……私達のせいだというのか、ヴァン・アーレングス」
「…………」
「私達が王族としての義務を果たさなかったから……民から贅を奪うだけ奪って、責務を果たさなかったから反逆が起こったと言いたいのか……!」
「…………」
メディナが叫ぶ。
ヴァンは答えることなく、無言で彼女の腕を捻り上げて捕らえている。
その無言の態度がかえって責めているように感じるのは、メディナの被害妄想だろうか?
「私だって国のために尽くしたかった。少しずつではあるが父達の贅沢を押さえて、国政を立て直そうとしていた……」
「…………」
「あと三年。三年もあればまともな国にできたんだ。父や兄から権力を奪って、民のためになるような国に作りかえることができた。こんな反乱が起こらなければ、きっとアイドラン王国は生まれ変わることができたんだ。それなのに……」
「……何人だ」
それまで黙っていたヴァンが口を開く。
「何人が死ぬんだ? メディナ王女、貴女が国を立て直すまでに……それまでに何人が命を落とすことになる?」
「…………!」
「俺は頭が悪いからわからない。教えてくれ」
「それ、は……」
たとえ三年後に国政がまともになったとしても、それまでに大勢の無辜の民が命を落とすことになる。
食料を奪われて、金を奪われて、尊厳を奪われて……枯れた大地の砂に還ることになるだろう。
その犠牲を黙って受け入れろと人々に口にできるほど、メディナは厚顔無恥な人間ではなかった。
「貴方の身柄は保護しよう。大人しくしているのであれば傷つけはしない」
「…………」
メディナは言い返す言葉もなく、後から部屋に入ってきた兵士に黙って連行されたのであった。
その日、三百年の歴史を刻んできたアイドラン王国は滅亡した。
民衆を焚きつけ、王家に刃を向けさせた首謀者の名前はヴァン・アーレングス。
歴史上で初めて大陸統一を成し遂げ、後世に『統一帝』の称号で語られることになる武人の覇道はここから始まったのである。
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