月が落ちる
一宮 沙耶
第1話 DAY1
月が5日後に地球に衝突する。そんな驚きのニュースが飛び込んできた。そういえば、1ヶ月ぐらい前に彗星が地球に接近するということがニュースになってたわ。最初は、彗星は地球には何もなく通り過ぎたと言ってたけど、月と接触したようで、その影響で月の軌道がずれたらしい。
月の軌道に影響することは、政府関係者とかは最初から分かっていたらしいの。曖昧な情報を国民に開示すると混乱が起こるので黙っていたという言い訳していたけど、多くの人から批判されていた。挙句の果てに、どうせ知ったって逃げられないんだから、知らせても意味がないだろうって暴言を吐く政治家も出てきた。
その後すぐに、先進国の政府要人と大富豪は、火星にある基地に移住するために地球を出発したというニュースが流れてきた。やっぱり特権を持った人はいて、そのために国民には黙っていたんじゃない。宇宙船で逃げられるってニュースが流れたら、宇宙船に人が殺到して、大富豪たちは乗れなくなっちゃうものね。
火星では、1つが東京23区ぐらいのドームがいくつかあって、そこから基本は出られないし、植物栽培中心で、ニワトリとかの養鶏場はあるみたいだけど、お肉とかはほとんど食べられないみたい。そんな感じで自由は少ないけど、100年以上は暮らせるぐらいの環境は準備されているんだって。
これも、多くの人から、国民に内緒で秘密裏に逃亡計画を進めていたことが批判されていた。本当に政府の人って信用できないし、国民を馬鹿にしているわね。今更言っても、どうせ行けないんだから、敗者の遠吠えだけど。
ところで、月は、衝突前に粉々になるという可能性もあるらしいけど、このスピードだと地球にそのまま衝突する見込みとニュースでは言っている。衝突すると、地球全体に衝撃波がきて、その後、全てのエリアが炎に包まれ、灼熱の中、地下とか、どこに逃げても生き残れる人はいないんだって。それまで、あと5日しかないって、びっくり。
テレビが、この事態の紹介と、政府への批判をニュースで流した後、誰もが、あと数日のためだけに働くのもばかばかしくなって、家で飲んだくれたり、公園で寝そべったりと、思ったより落ち着いた時間を過ごしていた。5日という期間がちょうどよかったのかもしれない。
よく映画とかだと、暴徒がショッピングセンターを襲撃してとかいうシーンがよくあるけど、あと数日しかないので、そんな気にもなれない感じだった。そもそも、ショッピングセンターの店員はいなくて、なんでも持ち出し自由の状態だったし。誰もが、わずかな時間でも充実した時間を過ごそうと思っていたんだと思う。
私は、大学に行くのをやめて彼の部屋に行くことにした。実家は遠いし、最後なら彼と過ごしたかったから。電車も放置されて動いていなかったので、自転車で少し遠めだったけど彼の部屋に着いた。合鍵で入ると、彼はまだ寝ていた。
「来るなら、前もって言ってくれよ。」
「なに寝てるのよ。もう11時じゃない。」
「昨日、遅くまで飲んでたから。」
「そんなことじゃなくて、地球が、あと5日でなくなっちゃうんだってよ。」
「何言っているの? カルト集団からの爆破予告とか?」
「そうじゃなくて、テレビで言ってたけど、月が地球に衝突するんだって。」
「そんなことないだろう。月って、今、どんどん地球から遠ざかっているって聞いているし。今更、地球に落ちてきたりしないよ。」
「そうじゃなくて、彗星がぶつかって軌道がずれたとか言っていたのよ。」
「そんなことあるのか? テレビつけてみるね。」
テレビでは、もう局員がやる気がなくなったのか、私が言っている通りのことが文字だけ流れていた。彼は、私の話しを信じたみたいで、これからどうしようかという話しになった。そう、どうしよう。レストランとか映画館とかやっていないだろうし。
天気は快晴で、気温も秋らしく爽やかな日で、5日後に月が衝突するなんて雰囲気は全くない。本当なの? 外を見ても、いつものように人気はなく、昨日と同じに見えるし。
それは別として、電車とかも動いていないから、近くのスーパーでお弁当とビールをいただき、それを持って、近くにある昭和記念公園に行くことにしたの。野原で寝っ転がって、ランチを食べ、太陽のもとで、気持ちのいい時間を過ごした。
そう、こんなに気持ちのいい空間がすぐ横にあって、食べるものとお酒もあれば、十分に幸せなんだって、本当に実感できた。これまで、なんて、もったいない時間を過ごしてきたんだろう。数日で死ぬとなって、初めて生きていることが実感できるなんて不思議。
あと数日には死んじゃうんだから、彼と結婚したり、子供を産んだりはできないけど、一緒にいる時間を、もっと大切にしてくればよかった。なんか、いつも、不満があって、喧嘩ばかりしてきたけど、そんな嫌なやつじゃないし。
そういえば、文句を言いながらも、いつも、私のこと可愛いって、声をかけてくれたよね。LINEしても、すぐに返事をくれないとか、いつも彼に文句言ってたけど、他に女性がいたわけじゃないし、私のことずっと見てくれていたんだから、つまらないこと言わなきゃ良かった。
お酒を飲んで、太陽の日差しのもと昼寝をして6時ごろに彼の部屋に戻った。そして、スーパーから、また冷凍食品をいただき、チンして、ワインで乾杯した。そして、日頃の些細なことを話して大笑いしながら、夜を迎えた。でも、そして次の朝、起きたら、想像を超える事態が起こっていた。
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