第31話:着々と
冬季休暇中、フランシスカは色々な所へと連絡を取り、
勿論、完璧な悪役令嬢になる為である。
「暗殺を請け負う方ともお会いした方が良いかしら?」
裏社会の中でも一二を争う位置に居る組織の幹部との面会を終えたフランシスカは、横に立つ侍女へと問い掛ける。
「すぐに楽にして差し上げる予定は無いのですから、そこは大丈夫だと思われます」
侍女の助言に、フランシスカも納得して頷く。
「そもそも、あのような者達に頼まなくても、我々が動きますよ」
面会相手が相手なので、護衛として傍に居たパディジャ公爵家の私兵が話に参加する。
フランシスカに話し掛けた男と一緒に、ソファの後ろで面会相手に威圧を放っていた二人の男も無言で頷く。
「あら、でも悪役令嬢としては、やはり裏社会と繋がっておかなくてはでしょう?」
フランシスカが言うのに、侍女も私兵も微妙な気持ちになる。無論、表情に出す事は無いが。
上の方へ行くと、裏も表も似たようなものだ、と言ったのは誰だっただろうか。
実際に面会に来たのは、とても上品で裕福な紳士とその護衛にしか見えなかった。
パディジャ公爵が面会を認めたのだから、繋がりは皆無では無いのだろう。
結局はそういう事なのである。
それから傭兵団の代表や、ルエダ商会の代わりになる商会の役員とも顔を繋ぎ、フランシスカは充実した日々を過ごした。
本人の考える悪役令嬢への階段を着実に登っている。
その後、王家主催の新年会へ行き、王太子が第一王子に決定した事を喜んだりもした。
第二王子を産んだ側妃を国王が
これから側妃は、かなり肩身の狭い思いをする事だろう。既に実家からは切られてる。
国王の強引な第二王子ごり押しがなければ、王家との婚約はなかったし、仮にあったとしても婚約していたのは第一王子だっただろう。
フランシスカは元々、第一王子との方が仲が良かった。
聡明な第一王子が唯一第二王子に負けていたのは、容姿の派手さだけだった。
しかし系統が違うだけで、並んでいても第一王子が見劣りするわけではない。
事実、フランシスカの好みは第一王子だったのだから。
「この度はおめでとうございます」
フランシスカが挨拶をすると、第一王子は優しく微笑む。
「貴女にそう言って貰えるのが、1番嬉しいです」
嫌味でも揶揄でも無く、本心からの言葉。その言葉に込められた意味を何人が理解しているだろうか。
第一王子には、まだ婚約者がいない。
パディジャ公爵を含む大人達は、仲良く会話する二人を温かく見守っていた。
「力関係など気にせずに、さっさと第一王子殿下との婚約を決めておけば良かったよ」
パディジャ公爵が愚痴をこぼすと、隣のオリバレ公爵が口の端を片側だけ持ち上げる。
「まぁ、そのお陰で無能を排除出来たと思えば、なあ?」
その無能には、勿論国王も含まれている。元々大して力の無かった国王は、今回の件でただのお飾りに成り下がった。
「そういえばアレシア嬢の婚約はどうなったのかね?」
パディジャ公爵が問い掛けると、オリバレ公爵が笑顔になる。今度は、本当に嬉しそうな笑顔だ。
「隣国の王子との婚約が決まったよ。フランシスカ嬢の役に立てると、本人も大喜びだ」
オリバレ公爵家には、隣国から王子が婿入りするようである。
第二王子の婚約者になってしまった手前、フランシスカが王宮へ来ていても、偶然会う以外に第一王子と顔を合わせる事は出来なかった。
年齢が3つ離れている為に、高等学校も入れ違いになってしまった。
公爵家令嬢として、自身の行動には責任を持っていたが、気持ちは別である。
しかし、もう誰にも遠慮する必要は無い。
フランシスカは、嬉しいという気持ちを素直に笑顔で表現した。
王妃教育は公爵家へ講師を招いて学び、既に修了している。
適切な期間を空けたら、二人の婚約が結ばれるだろう。皆がそう同じ事を考えていた。
「踊っていただけますか?」
第一王子が手を差し出す。
「喜んで」
フランシスカが笑顔で手を取る。
フロアの真ん中で、優雅に踊り出す二人。
フランシスカは、親族以外と踊るのは初めてだった。
第二王子の婚約者であったし、当の第二王子はフランシスカと踊る事を拒否していたから。
「羽根のように軽い」
女性のダンスを褒める最上級の言葉を言われ、フランシスカは微かに頬を染めた。
それを見て、第一王子がふふっと嬉しそうに微笑む。その頬も、目の前のフランシスカが気付く程度には染まっている。
冬季休暇の中で、フランシスカが『悪役令嬢』として頑張らないで良かった新年会は、こうして幸せに過ぎていった。
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数少ない、恋愛部分のお話です(笑)
着々と進んでいるのは何でしょうね〜
いつの間にか(当初から?)22話と23話が入れ替わってました。
直しました。
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