第24話:孤影悄然
王城へと帰宅したロレンソを待っていたのは、顔色を無くし無表情になった
二人の様子がおかしい事にはロレンソも気付いていたが、それよりも婚約破棄を果たした妙な高揚感と達成感が先に立った。
「父上、母上、丁度良いところに! 私は悪役令嬢と婚約破棄をいたしました!」
誇らしげに告げるロレンソへ、国王は冷たい視線を向ける。
「知っておる」
静かに答える国王へ、ロレンソは怪訝な表情を向ける。
自身の行動が全て報告されている事を知らないのかと、国王も驚き、微かに眉を上げた。
「では、私の新しい婚約者はシルビアで良いですよね?」
気を取り直して聞いてくるロレンソへ、国王は「好きにしろ」と冷たく言い放つだけだった。
その後、自室へと連行されるように押し込まれたロレンソは、周りをガッチリと固めていた近衛兵を睨みつけながら部屋へと入った。
その後、食堂に行く事も許可されずに、部屋へと食事が運ばれた。食堂で食べるものと違い品数は少なくなるし、1品の量自体も少なくなる。
不満を言おうにも、給仕も付かずにテーブルに料理が並べられて、使用人は下がってしまった。
「さすがに勝手にはまずかったか……」
モソモソと遅い昼食を食べながら、ロレンソは呟く。
いつの間にか勝手に脳内で変換されていた婚約理由は、ロレンソの中では事実である。
「あの女も、嫉妬する位ならもっと俺を尊重して、可愛げのあるところを見せろってんだ」
中身を飲み干したカップをテーブルに大きな音を立てて置くと、少しだけロレンソの気が晴れた。
「そうしたら婚約破棄せずに、側妃にしてやったのにな!」
はっはっはっと声を出して笑うが、それに同意してくれる者は部屋にはいなかった。
冬季の長期休暇の間、ロレンソは部屋から出る事が出来なかった。
シルビアと行く予定だった旅行も、王家主催の新年会への出席も、側近達との連絡すら禁止された。
メイドが掃除や入浴介助に入って来る時と、給仕が食事を持って来る以外では、人の出入りも無い。しかも、その使用人達は終始無言で、ロレンソに何を問われても、雑談すら返事をしない。
部屋から出られない。他の人間との会話も出来ない。
ロレンソの精神的重圧は、かなりのものだった。
新年の挨拶を家族と交わす事すら無い生活に、さすがにロレンソは食欲が落ち、痩せていった。
それでも侍医が呼ばれる事も無い。
父親から連絡が来る事も、母親が心配して顔を見に来る事も無い。
扉の前に居るのはいつもの護衛では無く、近衛兵だ。廊下へ出ようと扉を開けると、無言で睨まれる。
「庭を散歩したい」
ロレンソがそう訴えても、無言で首を横に振られるだけで、理由の説明も無く扉を閉められてしまう。
「俺が、俺が何をしたって言うんだ!」
部屋の中でロレンソが暴れても、やはり誰も止めに来なかった。
一通り壊れ
割れ物を投げてもし怪我をしても、食事の時間まで誰も部屋に来ないだろうと予想出来た為に、自分の身を考えて投げられなかった。
「あの女との婚約は、それ程大切だったのか」
やっと自分の行動を
「あの女を正妃として迎え、シルビアは側妃にしよう。そうすれば元通りだろう」
しかし、方向が間違っていた。
「シルビアに暴力を振るうほど、俺を愛してるんだ。復縁してやると言えば二つ返事で了承し、喜ぶだろう」
クックッと噛み殺した笑い声を出し、口の端を持ち上げる。
これ以上の良案は無いと、早速扉を開けて近衛兵へと声を掛けた。
「パディジャ公爵家との婚約を結び直す! 直ぐに連絡してくれ」
扉の前の近衛兵へロレンソが笑顔で声を掛ける。
近衛兵は今までで1番冷たい目付きで睨んできた。明らかに侮蔑を含んでいる。
「……死ねばいいのに」
久しぶりに聞いた人からの言葉は、信じられないほどロレンソの自尊心を傷付けるものだった。
目の前で勢い良く閉められた扉の前で、ロレンソはただ茫然と立っていた。
扉の前の人物が、元騎士団長と学生時代に切磋琢磨した間柄だった事など、勿論ロレンソは知らない。
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孤影悄然:一人ぼっちでさびしげなさま。一人だけで悲しむさま。
ロレンソ、悲しんでない気がするけど(笑)
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