第二王子の場合

第22話:勘違いの始まり




 小さい頃に結ばれた婚約は、見事に政略的なものだった。

 王族と筆頭公爵家の結婚。

 しかも王族側が側妃の産んだ第二王子である。

 どう見ても、王族側のごり押しだった。


 しかし、その事実に気付いていない者が1名。

 残念な事に当事者の第二王子、ロレンソ・リバデネイラ=ラローチャその人だった。


 事あるごとに、母親である側妃に「婚約者を大切にしなさい」「婚約者を尊重しなさい」と言われて育ったので、逆に反抗心が湧いてしまったのかもしれない。

 婚約を結んだ当初、この婚約の意味をしっかりと説明されていたはずだが、長い年月の間にそれも忘れてしまったのかもしれない。


 それでもまだ、二人が小さいうちは良かった。

 どれだけロレンソが嫌がろうと、母親がお茶会の席へと引っ張って来ていたから。

 もっとも、そのせいで保護者抜きで会う年齢になった時に、頑なな態度を崩さなくなった可能性もあったが……。



「殿下。なぜ昨日の定例会にいらっしゃらなかったのですか?」

 ロレンソの婚約者であるフランシスカは、定例のお茶会をすっぽかしたロレンソを、翌日、皆の前で責めた。

 フランシスカの言う通り、昨日は保護者抜きで行われる初めてのお茶会のはずだった。

 ロレンソが来なかった事で、中止になってしまったが。


「そんなものは知らん」

 ロレンソが強い口調でねると、フランシスカは優雅に笑う。

 泣くかわめくか、とにかく醜態をさらすと思っていたロレンソは、フランシスカの行動に舌打ちをした。


「とても残念な頭をしていらっしゃったのね」

 不貞腐れた態度のロレンソに、フランシスカは容赦の無い言葉を投げかけた。

「な! 貴様! 無礼だぞ!!」

 ロレンソがフランシスカを怒鳴りつけると、フランシスカの笑みが更に深くなった。


 その後、定例のお茶会が開かれる事は、二度と無かった。

 ロレンソは自分の主張が通ったのだと、満足した。

 単なる勘違いだったが……。

 実際は、怒ったパディジャ公爵が「二度と娘を行かせん!」と、王家の言い訳も謝罪も聞かずに決めただけなのだったのだが、残念な王子と噂になりつつあるロレンソは理解していなかった。




 ロレンソの態度に危機感を覚えた国王は、禁断の言葉を口にした。

「もっと王太子候補としての自覚を持て」

 その台詞は、婚約者のフランシスカのお陰で王太子候補だという事を、しっかりと自覚してもっと真摯な態度で接するように、とういう意味だったのだが、ロレンソに王の意図は理解出来ていなかった。


 頭に残ったのは、「王太子」の三文字だけ。

 側妃の息子で第二王子の自分が、王妃の息子で第一王子である兄を差し置いて王太子に選ばれたのは、それだけ自分が優秀だから。

 見事で完璧な勘違いである。



 まさか、あれだけ言い聞かせたパディジャ公爵家と結婚する意味を、ロレンソが忘れているなどと誰が考えただろうか。

 一から十まで聞かせる年齢はとっくに終わっている。

 両親に愛されていたロレンソは、それだけで使用人から大切にされていた。

 婚約者であるフランシスカは、ロレンソを放置した。雑魚は相手にしない、生まれながらの高貴な性質だった。


 以上の不幸がロレンソを益々増長させた。


「婚約者? はっはっは! あんな俺に逆らう事も出来無い女がどうした」

 側近達にも、ロレンソはいつもそう言っていた。

 お茶会が中止になってから側近になった子供達は、ロレンソの言葉を信じた。


 なぜ、その愚行に国王夫妻が気付かなかったのか。この場合の妻は、側妃である。

 親というものは、自分の子供を過大評価しがちである。

 周りが気を使って褒め称えた言葉を、そのまま受け取ってしまう事も有るだろう。

 国王であっても、一人の親である。




「王太子とは、国王の次に偉いんだよな」

 ロレンソは、側近達に質問をする。

「それはそうですよ!」

 即答したのは、ファビオである。

 騎士団長子息であり、勉強よりも体を動かす事が得意な男。

「王妃陛下とどちらが上か微妙ですが、まぁそう思っても良いと思いますよ」

 首を傾げながらも肯定したのは、大商会の跡取りであるマルティンだ。


「皆がそう言うなら、そうだと思います」

 曖昧な言葉は、日和見主義の伯爵子息カルリトス。

 子爵子息で魔法師協会会長の孫であるトマスは、周りを見回した後に沈黙した。



 この問答があってからすぐに、高等部学校への入学だった。ロレンソは中等部学校へ通っていたが、フランシスカは家庭教師に勉強を習い、他の時間は社交にてていた。

 高位貴族の令嬢としては、当たり前の行動である。


 高等部学校へ通う事は、貴族の義務であり、公爵家であっても例外では無い。

 その頃にはフランシスカとロレンソは、名前だけの婚約者だった。

 何も交流せず、時節の挨拶の手紙すらやり取りしない間柄。


 ロレンソ破滅への始まりである。




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すみません。新しい携帯の初期設定に思ったより時間が掛かってしまいました。

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