第7部 第2章 お願い
「ああ、面倒くさいことになった」
私がそう呻く。
何しろ、家にあまりに信徒が押しかけて来て、聖地にまでなったので、居場所が無くなってきた。
それを一真に文句言ったら、バイト料とやらを父親が家に持ってきたらしい。
母は私がパパ活をしていると勝手に思い込んで泣き叫んでいた。
ただ、まあ、父には言わないだろう。
昔から父には心配させないと言う事で、絶対にそういう話は言わない人だった。
子供の時にレンガで友達をいじめる相手を殴った時くらいである。
警察も来たからしゃーないけど。
それで落ちこんで泣く母親を黒柴のポチが「くぅぅぅん」と泣いて慰める。
犬の素晴らしいところは飼い主の人間の心に寄り添うところだ。
母がそれでポチ1号……家ではポチになっている……を抱きしめた。
完全に犬になっていた。
困ったもんである。
まさか、それが悪魔とは思うまい。
現実とは不可思議なものなのだ。
それにしても、景気が良い話だ。
バイト料が札束になるとは……。
宗教団体は政治家と密接である。
大聖寺も密接で県会議員とか市長とか信徒らしい。
何故、こうなるかと言うと、集票マシーンだからである。
教祖がうちの教団を応援してくれるからと信徒に言うだけで、彼らはその政治家に投票をする。
そして、もう一つは政治活動はポランティアが不可欠だという事。
宗教団体も手慣れたところは、すぐに選挙前にボランティアとして信徒を貸し出す。
これが日本の選挙には大切なのだ。
それで、とうとう、まさかの国会議員が挨拶に来たらしい。
恐ろしい話である。
なんでやねん。
転校生のプロフェッショナルたるもの目立ってはいけない。
それなのに、この展開。
ネットでも加熱してきたようで、慌てて加奈に電話した。
間違っても、自分の体験を投稿しないようにと……。
私は困りごと解決なんてしてないからと……。
そうしたら、何でですか? って食い下がられた……書くつもりだったらしい。
女神の聖女として人助けは……本当に困ってる人は沢山いるとか……そんな話を聞く。
信徒の怖さである。
話がかみ合わない。
こう言うことは目立ってはいけないのだと女神の指示がいると誤魔化した。
もう、会話にならなかったが、女神を出したら黙った。
そんな事もあわせて、相談するために皆で集まることになった。
と言う事で待ち合わせ場所で待っていると、颯真が来た。
ラーメン屋でも見たが、母親が結構センスがいいらしくて、それを着てるだけとの話だが、私服だと意外とおしゃれである。
そして、がっちりとした筋肉質でハンサムでもある。
頭は残念でも、それだけでいいのだ。
街行く若い女の子がチラチラと颯真を見た。
私が転校してきたばかりにチラチラと見てるクラスメイトとは違う目だ。
そして、私も聖女とか言うイメージが広くなり過ぎたので、変装も考えて髪をツィンテールにして可愛らしい服に変えた。
流石にこれで聖女とは思うまい。
これだと、颯真と初々しいカップルに見えそうだが、仕方あるまい。
「まだ、誰も来てないのか? 」
「ああ」
私が答える。
とりあえず、不本意ながらカップルを見るような目で見られるだけで、別に聖女様と騒ぐ人はいない。
母にメイクを教わったおかげと、颯真が洒落た格好をしているおかげだ。
まあ、目立たずに済んだのはありがたいと思っていたのに……。
「おお、待たせたな……」
前から、僧侶とレゲエの爺さんと優斗が来る。
何で、こう、センスがないんだ。
なんで魔法使いの爺さんが短パンとシャッとサングラスなんだ?
マジでレゲエのおっさんじゃないか。
「お前……爺さんに何てファッションを? 」
「いや、わざわざジャマイカ製で揃えたんだぞ? 」
「そんな拘りいるか? 」
「魔法使いの恰好より良いだろ? うちに住まわせてんだし、魔法使いはまずいだろ」
そう、一真が宣う。
まあ、寺に魔法使いは寺にクリスマスがあってサンタが来るようなもんだが、私が聖女なら以外と通るような気もするが……。
「お前の僧侶の恰好も何とかしろよ」
「皆でうちの寺に来るんだろ? 仕方ないじゃん」
「作務衣でも着てろよ。無茶苦茶浮いてんじゃん」
私が悲しい。
大聖寺が有名なせいか、さわさわと雰囲気が変わりだした。
「やっぱりなぁ、俺もおかしいと言ったんだが」
そう優斗が苦笑した。
「いや、お前もホストみたいだそ? 」
「信徒がいるから、ちゃんとした服でって言われたんだが……」
「学生服でいいじゃん」
「お前らだって、お洒落な恰好してんじゃん」
「これはやむを得ずだ。イメージが聖女に固まってしまったので可愛い系で誤魔化そうとしてるのだ」
私がそう囁いた。
「まあ、目立つと困るから、寺からハイヤーでも呼ぶか? 」
一真がにやりと笑った。
「いや、タクシーでいいだろ。何でそんな贅沢すんだ? 」
「祖父も事態を知って親父も祖父からお前を大切に扱えと厳命されている。まあ、祖父は女神様の聖女だからだが、父はもう目が金に変わってる」
「……そうなのか」
「寺はな。宗教法人とは言え大半が火の車だ。そうでないところでも、固定資産税とか法人に対する寄付とか課税が免除される部分があるから、何とかやっていけるレベルだしな。うちは独立したから無いが宗派への課金とか物凄いかかるからな。それで、寺の木の伐採とかもしないといけないが、うちは結構寺が大きいので、これが下手したら200万くらい毎年かかる。僧侶はちゃんと寺と言う法人から給与貰ってるサラリーマンだし、世情で言うほどの金持ち寺は極一部だ。実際、昔は葬式で数百万が当たり前だったが、今は家族葬とかだからな。どの寺も先細りだ」
「しかし、有名な祈祷寺なのだろう? 」
「そこは良いところなんだがな。ちょっと、寺が大きすぎるんだ。観光寺でもあるから、多少の拝観料はとれるが、大きいとお金がかかるんだよ。維持費が……」
「なかなかシビアな話だな」
「実際、中産階層が潰れて、日本自体が貧しくなると言うのはこう言う事だからな」
一真が信じられない事を話すので衝撃を受ける。
なんだと……?
「まあ、あちらの世界では女神はこちらのどっかの世界宗教と同じで、税金払った後の全収入から1割を寄付させてるぞ? 」
魔法使いのジジイがそう呟く。
まれに宗教に入る事を軽く考えて教会のチャペルで結婚式をってんで入信して結婚したら信徒としてのお金も毎年払わないといけないから、当たり前に延々と寄付の話が来たりする。
また、某別の世界宗教の場合、宗教を辞めたら信徒がガチで殺しに来るから、辞めれない。
そういう緊迫感は日本人にはわからない。
「広く浅く取るって事か? まるで消費税だな」
「どこも維持費が大変だからな。行基の時代みたいに民家で手作りの仏像で祈るのと違うからな」
「あれは菩薩だろ」
行基は当時の税の租庸調が、何と本人が税金を払いにわざわざ地方から都に来る仕組みで、交通費なんか出なくて、行きは沿道の農家が稲束を供出してくれるが、税を払った帰りは無くて、かなりが税金納めに来て餓死したり、生きてけなくて盗賊になったりしていた。それを憂い、自ら金持ちを回り食料を寄付してもらい、その地方に帰る人たちに窮民粥を施した。
病気の者は無償で治療して、実に行き帰りの橋とか壊れたら自らが大工道具を持って、信徒とともに修理してた凄さである。
全てが篤志家の金で一切自分は贅沢などしなかった。
当時の僧侶は特別扱いで、国から給与としてそれなりのお金が出るから、こんな事をしないで良かったのにだ。
だから、大師は空海の他にあっても、菩薩号がつく僧侶は史上彼だけである。
朝廷はそれなのに最初は弾圧した。
人が集まるのが怖かったからである。
だが、あまりの人気に手のひらを反して大仏殿建設で取り込むが、行基は必死にほんの少しでも大仏を作るのに布施すれば来世が変わると信じて信徒と頑張ったが、開眼の儀には信徒は誰も参加できなかった。
「お前。本当につまんない事は凄く良く知っているな」
魔法使いのジジイがそう私に突っ込んだ。
そういや、こいつ、心が読めるんだった。
私がちょっときまり悪そうに笑った。
その時に、声をかけられた。
「お前、なんて恰好してんの? 」
私が振り返るとそこに兄がいた。
浅野大翔(あさのはると)である。
突然の自分たちの空手のヒーローの登場に一真と優斗の顔が輝いたのは言うまでもない。
そして、私はまあ、そろそろ兄が出て来るよなと覚悟はしていた。
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