第4部 第2章 大聖聖女如来

 そうして、一真に連れていかれたら、でかいお寺に案内された。


 近隣では有名な寺らしい。


 歴史も創建が飛鳥時代と古いんだそうで、信徒も多いようだ。


 特徴的なのは護摩堂がかなり大きく作ってあって、今、祈祷をしているらしくてかなり信徒が集まっていた。


 本堂も地元の観光地らしくて、観光客すらいた。


 なんだよ、良いとこのボンボンじゃねえか、こいつ。 


 そうして、一真には本堂の横のお堂に案内させられた。


 どうやら、そこだけ最近に出来たお堂らしくて、観光客も信徒もいない。

 

 そこには女性の如来が祭ってある。


 如来風だが、どっちかってーと、ファンタジーの女神に近い造形である。


 違和感が半端ない。


「仏教なんだよね」


「ああ、祖父が名付けて、大聖聖女如来」


「なんだそれ? 」


「だから、女神から天啓を受けたらしいんだ」


「いや、確か、如来って……」


「そう、性別は無いんだけどな。それでも、男性のイメージだな。仏教って平等だけど、実は女性は成仏できないとか無茶な教えがあってな。……最近はあまり言わないが……」


 まあ、弘法大師の人生くらいは本で読んだことあるから知っている。


 弘法大師の母親は弘法大師に会いたくて年老いた身体で高野山の近くまで来たけど、高野山には入れなかったんだよな。


 インド自体がカーストがあって、それに反対する形で全部人は生まれながらに平等の仏教が出来たとか思えば、古来のインドの女性蔑視の考えは残してしまって、女性は成仏できないって考えのまま教えが最近まで続いてた。


 だから菩薩の請願に女性に対して変性男子とか妙なのが出来た。


 某、戦前の新興宗教で有名な言葉だが。


 とにかく、それで女人の為にってんで後に女人高野とか出来た。


「祖父は某密教系の宗派で祈祷僧で有名だったのだけど、女神から天啓を受けて、訳が分からんことを言い出したと本山に注意されてな。それに逆らって独立したんだ」


「いや、別に確かに仏教で女神と言えば弁財天とか吉祥天もおられるし、いよいよなれば天照大神でもよかったんじゃないの? 神仏習合だし」


「いや、祖父は誤魔化すのを潔しと思わなかったらしい」


「仏教から離れていない? 」


「いや、祖父の中では離れていないんだ。それで、祈祷僧として有名だったせいもあって、信徒の皆がついてきて独立したんだ」


「で、<聖女>と女神の話はどうなんだ? 」


 颯真が割り込むように話してきた。


「この末世の世がこれから魔物の世界に変わる。それを防ぐために勇者と聖女を降臨させるとか告げられたんだ」


「勇者ってあんた……」


「まあ、確かに仏教に勇者は無いんだけどな、祖父はそれは転輪聖王の生まれ変わりの事だと話しているが……」


「転輪聖王ってあれだよな。古代インドの理想の王の事で、仏法的には四天下を統一して正法をもって世を治める王の事だよな……。これがか? 」


 私がそう颯真を見た。


「いや、それで祖父には話せないんだ」


「単なるジェノサイダーだよな」


「まあ、勇者だしな」


 颯真があっさりと私達の意見を無視して結論付けた。


「仏法の教えに挑むものとしての心構えとして勇者とか言葉で使っちゃう人はいるけど、まんまは無いからな」


「そうだろ? これは違うんじゃないか? そもそも、本気でやってる事ってせいぜい必殺仕事人かって感じだしな。日本的には勧善懲悪だけど、中国的には除暴安良だ。そちらに近い。元は道教かな?  向こうは治安もあって悪は全部処刑して除くから、私達がやらされている事は結構そっち的なんだよね」


 そう私が独り言のように呟いた。


「除暴安良とな? 女神が言っていた事と似ているな」


 そう爺さんの僧侶が頷いた。


「ちょっ! 」


「おぃぃぃぃ! 爺ちゃん呼んでないし! 」


 私と一真が慌てる。


「いやいや、お前が女の子を連れ込んだと聞いたから、注意しようと思ったら、大聖聖女如来のお堂に行ったと聞いたからな」


「母ちゃん! 内緒にしてくれって言ったのに! 」


「まあまあ、なかなか面白いことを話す子じゃな? 」


 そう一真の祖父は笑った。


「いやいや、良いから」


「で、こちらのプロレスラーみたいな人はなんだ? 新しい友達か? 」


「勇者だ」


 止めようかと思ったのに、先に颯真が返事をしてしまった。


「は? 」


「いや、本人がそう言ってるんだ」


 意を決したように一真の祖父に一真が話す。


 ああ、言っちゃった。


「いやいや、これは違うじゃろ」


 そう一真の祖父は苦笑した。


「いや、勇者だ」


「勇者はもっと理知的なものだ。うちの教義を知ってきたのじゃろうけど、残念じゃな」


 そう一真の祖父は爆笑した。


 その時の颯真の顔は凄い顔をしていた。


「いや、まあ、良いから、とにかくほっといてくれ」


「いやいや、まあ、でも、お前も少しは考えてくれているんだな。わしもあの時は天啓を受けたばかりで無茶をしたからな……」


 そう少し嬉しそうな顔で一真の祖父が一真に追い立てられてお堂から出ていった。


「祈祷で護摩堂にいるから来ないと思ったのに……今は親父が祈祷をしているのか……」


 出て行ったあと、一真がふぅとため息をついた。


「理知的って? 」


 颯真が私に聞いてきた。


「いや、頭が良いと言う事だよ」


 ズバリ私が言っちゃう。


「俺は学年で一応5番なんだが? 」


「は? 」


「こないだの試験だが? 」


「え? 」


 その日、一番驚いたのがこの話だった。


 それって、うちのレベルだと日本のトップクラスの大学に行けるレベルで……。


 なんで、こんなに馬鹿なんだ?

 

 

 



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