Pumpkin K'Night
若椿柳阿
Method Of Pleasure
◇
ありふれている思考を繰り返そうと思った。それを繰り返すことに意味はないだろうが、人間の思考なんてそんなものでしかないのだから、どうでもいいのかもしれない。人間の思考なんてとりわけどうでもいいことにしかならなかった。
世界の不変性を考えた。世界の普遍性を考えた。世界の不偏性を考えた。やはり、それはどうでもいいことだった。
世界のことを考えるのは億劫になった。俺はどうでもいいことばかりをしていて、どうしようもないことを認識せずにはいられないものの、その思考を止めることはできなかった。あからさまな自分の性格の悪さと要領の悪さを呪いたくなった。
世界に呪いがあふれることを未だに考え続けている。自分以外の人間が祝福されている現状と世界の不変性に呆れを抱いてしまう。どうしようもない。
人というのが嫌いだった。人というのは欲望にしか溢れていないから相応の思考を繰り返すのが、嫌いだった。
俺は俺が嫌いだった。
俺は人間でしかない。人間の枠から超えることを望んでいるのに、それができない自分の存在が嫌いでしようがなかった。人間の枠を超えるということが自分自身で見出せないから、超えるも何も存在はしなかった。途方もない思考だけが頭の中に存在していた。
それでも世界はとてもゆっくりに進行していくのだろう。俺の存在など埒外だと明かすように。そんなものでしかないというのは自分自身で認識しているからこそ、どうしようもない。
──世界はいつまでだって、そこにあった。
◇
俺にとっては毎日がハロウィンでしかなかった。……いいや、全人類、毎日ハロウィンでしかないだろう。
……ハロウィンを仮装大会と勘違いしている自分が気持ち悪く思えて仕方がない。
本来のハロウィンは秋の収穫を祝福する祭典である。なぜか現代では、いつの間にか仮装をしてお菓子をせびるような、どうしようもない行事になり果ててはいるのを、なんとなくこの前知ったような気がする。
正直、どうでもいい。
俺は、ナイフを持った。
◇
収穫祭、というのなら命を摘み取らなければいけない。命を摘み取るのには平等に、思想に関わらず、適当に、適当でなければいけない。
無機物、有機物、原子番号、ありとあらゆる存在を数えることのできるすべて。
人間。男、女。関係なく。
老若男女、関係なく。
俺は、殺す。
関係なく、殺す。
命を摘み取る際には、そこに快楽を用意しなければいけない。
快楽とは、俺にとっては演出だ、ひとつのエンターテイメントだ。大衆的な娯楽でしかない。
悲鳴を挙げさせるのならば、そのために俺はどんな地獄を用意してあげよう。俺は、そう考えてナイフを研いだ。
ナイフはどこまでもどこまでも光り輝く。研いだ後が身につくように傷がつく。傷があればそれだけ鋭利な無機物になりえる。俺は本当にそれに意味があるのかを自分に問うた。
別に、命を収穫することに対しての無意味さを考えているわけではない。ナイフを研いで切れ味を良くすることに意味があるのかを考えているのだ。
俺が今まで摘み取ってきた命は、切れ味が良ければよいほどに悲鳴をあげることは少なかった。それは、摘み取る果実に対しての美味しさを消し去る行為なのではないだろうか。
……バカらしくなってきた。
俺は、ナイフを適当に水に浸けこんだ。
◇
「────」
一人の人間を連れてきた。その人間の性別については理解していない。仮面を被っているから俺には理解することはできなかった。
連れてきた、という言葉には語弊があるかもしれない。拉致してきたという表現が一番正しいのかもしれない。
仮面の下にある口にメタンフェタミンを蒸気に化かして吸わせておいた。覚せい剤の効力で気持ちよくなっているところを家に連れ込んできた。声を上げる様子もなかった。
目の前にいる人間は声をあげようとしているが、仮面を無理に押し付けるように顔面を縛り上げているから声は出ない。そもそも声を出せないように、俺は喉元を縛り付けて、呼吸をすることしかできないようにしている。
俺は、水に浸けたナイフを取り出した。
錆びついてくれるという希望を抱きながら浸けこんだナイフではあるものの、短時間しか浸けこんでいないナイフがすぐに錆びつくことはなかった。
「……はあ」
俺は溜息を吐いた。
こうも現実はうまくいかない。俺は現実を否定したくなる。だからこそ、俺は命を使って現実にあらがいたくなったのだけれども。
「なあ、聞こえてるかよ」
俺は仮面を被っている人間に声をかけた。
仮面を被って縛られている人間はもぞもぞと動きだす。でも、その動きは人間のものとは思えない。芋虫の交配のような気持ち悪さがあった。
「ああ、聞こえているなら別にそれでいいや。仮面を外してほしいか?」
「────」
もぞもぞとして、その仮面を外したい欲を行動で表す。
期待されているならば応えなければいけない。
俺は、彼の仮面を外した──。
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