第10話 だらしない先生と敬意のない弟子
「それで、この人たちはどうするんですか?」
死屍累々と横たわる瀕死のヤンチャさんたちを見て、先生に問う。
三途の川を渡りかけた私に先生は治癒魔法を掛け、飛んでいた意識は強烈なビンタで舞い戻された。
「先ずは治癒だな。」
地に伏せたヤンチャさんたちに先生は範囲的な治癒魔法を放つ。
それだけで分かる桁違いの魔力と魔法技術、一流の魔女でも魔力がスッカラカンになる範囲魔法(特に治癒魔法は酷く燃費が悪い)を最高レベルで詠唱も術式も使用せずに片手間で行う先生が、最強の魔女、『不死の魔女』と恐れられるヴェネーラ様なのだと認識させる。
「んで、目覚めた順にしばいて忘却魔法掛けりゃぁ終わりだ。」
バシバシと平手、拳で、せっかく治癒したヤンチャさんたちを先生はしばき倒し、1人1人アイアンクローをキメる終ると、
「「「姐さん!!」」」
忠実な下僕となった方々が誕生していた。
「魔女ってぇのは不自由に隠れて生きる存在だ。でもな、魔法は自由だ。見られりゃ忘れさせればいいし、そもそも見せなきゃいい。魔法を極めりゃこの世は自由気ままだ。」
先生はそう笑いながら、私の足元に転がる、エコバックから溢れたビール缶のプルタブを開けた。
「あ、クソ!!勿体ねえ!!」
缶から溢れる泡を啜る先生は、空間遮断の魔法を解いた。
「いいかクソ弟子、魔女ってぇのは一般人になりすまさなきゃ生きていけねぇ。…まあ、私は別格だから扱いはちぃと違うけどな。」
歩きながら缶ビールを傾ける先生は割りと真面目な顔で言う。
「でも、私も他の魔女も変わらねぇ。どんなに有益な、強力な魔法が使えようと、所詮私たちは魔女。人間からすりゃ異物だ。」
先生は空っぽになった缶を玩びながら、溢れたビールの泡をベタベタになった手を私のシャツで拭きながら言った。
「先生、汚ちゃないです。先生こそ世界の異物…いえ、汚物だと思いました。」
物凄い勢いのグーパンがボディに突き刺さった。
「テメェよぉ…せっかく偉大で最強な美しいお師匠様が話てんのによぉ…マジで泣かしてやろうか?」
私の胸倉を掴み、先生はマジオコ。
「そんなに怒らないで下さい…ババアなのに23歳のヴェネちゃん。」
自分で言いながら吹き出した私の陽気なアンサーは、どこぞの神拳かと思う百裂拳をお見舞いされた。
「テメェ、マジで次からは師弟関係の重みを叩き込むからな。」
三途川を再び渡り掛けた私に治癒魔法を掛けた先生は、私の鼻をギュゥっと摘みながら言った。
「先生は暴力を辞めると、少しましな先生になると思います。」
鼻声で答える私。
「私が怒らねぇ様にしろや!!このバカ弟子!!」
グイグイと鼻を引っ張られ、痛みで涙目になる。
「ではせめて、部屋を汚部屋ににするのは辞めて下さい。」
「あれは機能美って言うんだよ…才能ゼロのオメェにゃぁ一生分かんねぇだろうがな!!」
先生はプリプリと怒りながら1人先に帰った。
そして、部屋に帰った後…
「テメェ!!外で私の生活に関して言うんじゃねぇよ!!魔女は世間に潜むものなんだよ!!いいか!私はご近所からは超絶ナイスバディで傾国の美女なのに愛らしく可愛いヴェネちゃんで通ってんだ!!魔女はイメージ通りの存在に扮するのが生き方なんだよ!!」
大変ご立腹な先生は、怒りを月にぶつけ、消したり創造したりしながら、私に説教していた。説教の半分が先生のナルシスト自慢だった。
「今度ナイスバディって…」
「死にてぇんだな、クソ弟子。」
吹き出した私に、先生は恐ろしい程の魔力を放った。
「死にたくはないです。魔女になるまでは…」
「魔女になりてぇなら師匠は敬えや!クソ弟子!マジでテメェの立場叩き込んでやる!!」
地獄も様な折檻が深夜に繰り広げられた。
「飲みすぎた…」
青い顔で先生がトイレに駆け込むまで。
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