第6話 転校生

「で、人の金でたらふく食ったんだ。大事な話をしようや。」

 お腹いっぱい食べた私に、先生は空になったビール(500ml缶、8本目)をドンと置き私に言った。

「大事な話?…破門とかなら大歓迎です。」

 容赦無い平手打ちが私の頬を襲う。

「魔女ったって、今じゃあ一般人に紛れるしか生きる術はねぇ。オメェはどうしてぇんだ?」

 先生はタバコに火を着けながら頬をおさえる私に言う。

「とりあえず高校は卒業しろと言われたので学校に行きます。転入手続きはばっちりです。」

 世知辛い世の中。魔女といえど働かなければ生きていけない。

 せめて高校は卒業しろ。

 魔女になる為に実家を出ることに対し、父の出した条件がそれだった。

 故に実家を離れる際に、転入手続きをしている。今は全部インターネットで出来るから凄く便利です。

「どうでもいいが…転入日、昨日だぞ。」

 私の見せた転入書類を呆れた様に見ながら、先生はそう言って9本目のビールの栓を開ける。

「ハハ、何を仰られる。私はちゃんと…」

 手元に戻ってきた書類をしっかりと見た。

「まあ、1日や2日くらい誤差なので。」

 うん、失敗をくよくよしても仕方ない。今と未来を見るのが若者の特権だ。

「お前、マジでヤベェな…」

 グビグビとビールを飲みながら言う先生。

 真っ昼間からそれだけ飲むアナタも大概だと思います。


「んで、学校行きながら修行して、生活費はどうするんだ?魔女としちゃぁ糞の役にも立たねぇ候補生が食っていくにゃぁ、仕事しねぇと無理だろ。」

「?…それは先生がなんとかするんでしょう?」

 私は弟子なので、師匠が面倒見てくれるのが道理だ。

「弟子に給金払う師はいねぇぞ。あんま世間を舐めんなガキ。」

 ボリボリと頭を掻く先生。

「ったく、そういうとこは母娘そっくりだな…」

 不機嫌全開、しかし、少し笑った先生を私は見逃さない。

「2代に渡り…先生って面倒見良いんですね。流石おばあちゃん。」

「死ねやクソガキ!!」

 ヨイショした筈なのにグーで殴られた。



−−−−−−−−−−−−−−−−−



「都会の女子高生は派手かね…」

 2日遅れの転入。初日から鬼のように怒られた私は、廊下を歩く同級生たちにそんな感想を抱いた。

「転校生を紹介する。」

 そんな担任の先生(30代前半の真面目が服を着た様な男性)の紹介と共に教室に入った。

「光乃緋音です。なんかもう帰りたいけど、よろしくお願いします。」

 正直な感想を伝え一礼した。


 昨晩は散々だった。

 私の転校デビューだというのに、先生は泥酔して嘔吐するし、その片付けをしてお風呂に入っていたら先生が乱入してくるし、挙げ句湯船で嘔吐した。

 そんな凄惨な夜を越え転入したのに、担任からは怒鳴られ、生徒たちヘの見世物の様に扱われるのだから。

 だから私は正直な思いを言っただけである。


 朝のホームルーム終了後、転校生なのに誰も話かけてくれない。

 かと言って、私から話かけたい相手もおらず…

「ぬっか…」

 先生の相手をする疲れを癒す様に、大あくびをして眠りについた。

 目覚めるのは、1時限目の開始後、担当教師が私の頭に落としたノートの衝撃だった。








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