第4話 ヴェネちゃん

「ババアはババアじゃないですか!!それに尊敬の意味を持ったババアです。」

「尊敬してんならババア言うな!!これでもご近所でモテモテなお色気担当じゃあ!!」

 ゴゴゴ、ととんでもない魔力を放ちながら私の肩を揺らす師匠。

「ああ、見た目は凄く良いですもんね。」

「やっぱりお前嫌い…」

 師匠は、スンと魔力を消し、ふて寝した。

「師匠…ご飯どうします?」

 反応がない。完全にご立腹の様だ。

「仕方ない…これは使わせて貰いますからね。」

 掃除していた過程でゴミの山から出てきた結構な額の現金。本当にどんな生活してたんだろう、この人。

 そんな思いを押し殺し、私はスーパーに向かった。


「開かないんですけど!?」

「お前バカだろ!!いや、バカだ!!なんでさっきの今で分かんねぇんだよ!!」

 魔法はまだ解かれていなかったらしい。



−−−−−−−−−−−−−−−−−



「いっぺんそこに正座しろ。」

 ヴィネーラ様が魔法で私の身体を操り、綺麗になった床(私が綺麗にした)に強制的に正座させた。

「パワハラ…」

「うるせぇ現代っ子。オメェ、自分の立場分かってんのか?」

 私の顔にタバコの煙を吹きかけながら不機嫌に言う師匠。

「弟子として来ました。でも正直辞めたいです。情けない大人にはなりたくありません。」

「よし、よく分かった。オメェ友達いねぇだろ。」

 ヴィネーラ様が頭を掻きながらそんなことを言う。

「失礼な!!友達いっぱいいましたよ!!雷轟丸に白王号、けんちゃんにさくら…みんな仲良しだったし美味しかったです!!」

「家畜じゃねぇか。」

 我が家で飼育していた鶏に馬、豚に牛…みんな大切な友達だし、今も私の血肉となり生きている。

「家畜じゃありません!!大切な友達です!!」

「友達食うのかよ…オメェヤバい奴じゃん…」

 ヴィネーラ様がドン引きしていた。

「そりゃ、死んだら食べてあげないと…勿論、有り難く頂きますよ?私からすれば、人間同士が平気で殺し合うヴィネーラ様の時代の方がヤバいと思います。野蛮です。」

 幾千年の歴史を生き残り続けた『不死の魔女』ヴィネーラ様。伝説が本当なら、太古の時代から生き、幾万、幾億の戦場に出て、時には呪い、殺戮の限りを尽くした、とにかく世界で最も血を吸った最強の魔女。

 魔女の世界で最も偉大な魔女にして、最も汚れた魔女が『不死の魔女』だ。

 そんな『不死の魔女』ヴィネーラ様は、私にとって尊敬の対象であり、忌避の対象でもある。

「私は平和な世界の魔女になりたいのですよ。血に汚れた魔女じゃなく、みんなの役に立つ魔女に。」

 正直に私の思いを伝える。

「友達いないのに?」

 私の師匠は意地悪でした。


「友達はいます。今年もいっぱい産まれました。」

「家畜じゃなくて人間の友達な。」

 やっぱり、師匠は意地悪です。

「人間って面倒くさいじゃないですか。」

「お前、さっき自分が言ったこと覚えてるか?」

 ヴェネーラ様は大きく溜息を吐き、

「よく分かった。今日から緋音、お前は私の弟子だ。弟子は師匠に絶対服従。それが嫌なら私を殺せ。」

 ギュッっと私にアイアンクローを掛けるヴェネーラ様。

「痛い!痛い!痛い!!」

 そんな私の悲鳴など気にもせず、ヴェネーラ様は言う。

「私のことは先生と呼べよ。あと、ここいらじゃ、私はヴェネちゃんで通ってるから、余計なこと言うなよ。魔女はひっそりと生きるもんだ。」

 

「数千歳のババアがヴェネちゃん…」

「テメェ!やっぱいっぺん殺す!!」

 アイアンクローから解放され、思わず笑った私を先生は容赦無い平手打ちした。

 児童虐待ダメ、絶対…






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