第3話 『不死の魔女』ヴィネーラ様

「おー、綺麗になってる。」

 眠気眼を擦りながらタバコを咥えた師匠は、私が徹夜で半分程片付けたゴミ屋敷にそんな感想を述べる。

「綺麗…これが…」

 徹夜の睡眠不足と疲労で血走った目で私は師匠を睨む。

「まぁ、片付けなんざ魔法使えば一発だしな。」

 そうタバコの煙と共に言葉を吐く師匠。

 瞬く間に部屋が綺麗になっていく。

「魔女になんだから魔法使わねぇでどうすんだよ?」

 笑いながらタバコをふかし、冷蔵庫を漁りに行く師匠。

「な、なんねそれ!!そんなん反則やろうもん!!」

 そもそも、それが出来るなら自分で綺麗にしておけという話だ。

「知らんがな。」

 そう言って勢い良く缶ビールの栓を開け、ゴクゴクと飲み始めた。

「ッアアーッ!!寝起きのビール最高!!」

 そう至福の声を上げた師匠。

「もうやだ…」

 私はさめざめと泣いた。


「てかよ~、このヴィネーラ様の弟子になれるって意味を考えた方がいいよ、マジで。」

 クッチャクッチャとスルメを噛みながら言う師匠は、

「うん、マジで私凄い魔女だから。私マジ凄い。」

 グーっとビールをあおり、

「旨い!!おかわり!!」

 空になった缶を私に差し出す。

 溜息を吐き冷蔵庫に向かう私。酷いなこの冷蔵庫…酒とビールしか入ってない。

 そこから一本の缶ビールを取り、師匠に差し出す。

「それで、なんでそんな凄い魔女のヴィネーラ様がこんな自堕落な生活を送っているのでしょう?」

 私は冷めた目でそう問うた。

「自堕落?分かってねぇな~。これ仕事だから。」

 そう言ってビールを指す師匠。

 ああ、この人はダメだ。

 如何に高名で偉大な魔女といえど、こうなってしまったらおしまいだ。


 それからしこたま酒を飲み、酔潰れ、眠った師匠に修行の中止を決意した。



−−−−−−−−−−−−−−−−−



「なんで開かんと!?」

 玄関もその他全ての窓も開かない。

「そりゃぁ、魔法よ。弟子が師匠の断りなく逃げるなんざ許されねぇからよ。」

 相変わらずの下着姿でタバコを吹かす師匠。

「オメェ、マジで私が誰か分かってねぇな?」

 タバコの煙が私を包み師匠の元に運ぶ。

「ヤニ臭い!!」

「ヤニは大人の匂いだ。」

 そう言い切る師匠。

「『不死の魔女』ヴィネーラ様、魔女協会に属して知らねぇわけねぇよな?」

 床に転がる私にそう言う師匠。

「本物…お母さんのいつもの嘘じゃない?」

 嘘しか言わない我が母。

「嘘じゃねぇよ。疑うんなら協会に問い合わせろよ

。」

 不機嫌そうに言う師匠。

 私は迷わず協会に問い合わせた。


「はい!…はい!ありがとうございました。」

 いつだって魔女協会に連絡する時は緊張する。

 しかし、問い合わせた結果分かった。

 間違いなく、私の師匠は最強にして最高と称される『不死の魔女』ヴィネーラ様その人らしい。

 因みに、魔女の世界ではそんな伝説的な存在にあやかり、『ヴィネーラ』の名を持つ魔女が多い。なんなら魔女世界で1番多い名前でもあるのだ。

 そんな有象無象のヴィネーラではなく、本物のヴィネーラ様が目の前にいる師匠らしい…


「すみませんでした!!」

 全力の土下座をした。

「お前、本当に迷わず問い合わせたな…」

 そう少しショックを受けた表情で師匠は私を責める。

「申し訳御座いませんでした!!こんな…こんなにだらしない大人が…普通じゃあ有り得ないゴミ屋敷…アル中のダメ人間が本物の『不死の魔女』ヴィネーラ様とは露にも思わず…本当に申し訳御座いませんでした!!」

 私は謝り続けた。

「お前嫌い…」

 そんな謝罪は届かず、師匠は拗ねて酒瓶を抱えてふて寝した。

「すみません!!なにかお気に触ることをしたなら謝らせて下さい!」

 そんな私の謝罪にも無反応。

 

 どうしよう、最強の魔女を怒らせてしまった。

 なんか気に入られる様な送り物… 

 某大手通販サイトのギフトカード?それとも◯イペイ?

「あれ?『不死の魔女』ってことは、5000年以上生きてるババアか。ミイラとかのがいいのかな?」

「誰がババアだ!!テメェ!!ぶっ殺してやる!!」

 師匠はさっきよりも怒って私に掴み掛かってきた。





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