第拾伍話 月夜の支配者

 ロシアが戦術核及び戦略級核地雷による焦土作戦を行った。この事実はロシア国内における情報統制を食い破り、翌日には国際新聞の紙面を飾った。


 戦略級核地雷の閃光は、避難途中のウクライナ国民が大勢に目にしていた。加えて偵察衛星及び地震計の捉えた異常な数値。情報統制も役に立たないはずだ。


 ロシアは国際社会からの非難を多少は受けたものの、これといった制裁は無く、致し方なかったという声の方が多かった。


 ロシアは核による焦土作戦──フォールアウト作戦を実行。ドニエプル線全域より進攻した異生物群グレート・ワンを、撤退を報知されず、果敢にも防衛戦闘を繰り広げていた歩兵達と諸共に文字通り焼き払った。戦死及び行方不明者の総合は二〇とはいかないまでも、おおよそ一〇万以上。


 彼らの犠牲と、容赦ない核砲撃により歩兵を除くほぼすべての部隊が撤退。しかしながら、崩れかけの現状を凌いだ結果は悲惨なものだった。


「歩兵部隊の損失概算一〇万以上。航空猟兵種ヴンダーヴァッフェの鱗粉で中和しきれなかった放射性降下物を原因とする黒い雨の観測」


 山積みの問題にセルゲイは唸り声を上げずにはいられない。セルゲイは特殊戦術兵器群STAGの戦略オペレーターかつ一応は参謀の一人。色々と事務仕事もあるし、頭も使う。


「加えて浸透襲撃種ガルマディアの亜種と来た。全くこれじゃ何が原因なのかさっぱりだ」


 火炎を吐く亜種が元々居たのか、最近になって実戦投入されたのか。はたまた放射線による突然変異が原因か。放射線を原因とする線が現状の有力候補である以上、今後核兵器の使用は控えるべきだろう。


 頭を抱えていると、執務室の分厚い扉からノック音と若い声が聞こえてくる。


「閣下、ご報告が──」

「入れ」


 食い気味にセルゲイは言う。


「失礼します」


 一言断って秘書官がぎこちなさの残る所作で扉を開ける。


「あれか? また汚染区域が拡大したのか?」

「......要約致しますと、そうなりますね」


 フォールアウト作戦で生まれた放射性降下物は、その大部分が中和、無力化された。しかしながら、無力化されなかった一部は風に乗ってウクライナ東部を死の大地にしてしまった。


 当初はハルキウ、ドネツク、マリウポリの三都市とウクライナ北部国境にかけて防衛線を築く予定が、度重なる汚染区域の拡大で全て水泡と帰してしまった。ドニエプル流域にほど近い重工業地域の失陥だけでもかなりの痛手だというのに、このままではウクライナ国境部まで撤退。ウクライナそのものを放棄せざる負えなくなる。


 だが、ウクライナ国境部まで撤退したとして防衛に難がある。ウクライナ国境部周辺は大半が平地。防衛には向かない地形だ。


「厳しいな......」


 現状、ロシアは欧州連合EUからの避難民すらロクに養えてはいない。そこにプラスでウクライナ東部からの避難民約一千万。フォールアウト作戦を原因とする被曝者も数多く、多少は減るだろう。だが、減ったとしても数万か、数十万か。


 諸外国も数千万の避難民を受け入れてはくれない。どこも自国民を養うだけで精一杯。加えてロシアの軍需、民間産業は限界に近い。


 兵器の二〇パーセントは無償武器貸与レンドリース。軍人は半数が避難民で、そのうち一割が少年少女兵。軍隊としてはガタガタだ。とはいえ、幸いなことに市場経済は未だ生きている。


 それもこれも、避難民をプロパガンダと社会的援助を釣り針に、軍隊へ送り口減らしを。そして軍民の工場へと半ば強制的に駆り出しているからどうにかなっている話。避難民は増える一方で、軍隊は金を食い尽くしていく。


 そろそろ軍隊へと駆り出して口減らしをするのにも限界が来つつある。だからといって工場勤務に駆り出そうと思っても、働くための工場が足りない。大量の人的資源と労働力を確保しつつも、その恩恵を上回る勢いで使えない避難民──穀潰しトラッシュが増えていく。


 土地も、物資も、何もかもが足りない。


「............ええい!! やめだやめ!! これはもっと上の奴らの仕事、俺は軍人だぞ。こんなこと考えてどうするってんだ全く」


 そうしてセルゲイは変に回る頭を小突き、巨大な戦略地図との睨めっこを再開した。


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 ──西暦二〇〇二年九月七日、オリョール臨時基地──


 先日のデブリーフィングで、ルカ達は南部方面に対し臨機応変に即応できるように。という思惑でキエフより北に二七〇キロ地点、オリョール近郊に臨時の基地を構え、待機していた。


『そういうわけで、防衛線はロストフ・ナ・ドヌーから鉄道線沿いにドネツクまで。それ以上はウクライナ国境部沿いに防衛線を構築することになった』

「それって、ウクライナは放棄するってことですか?!」

『そうだ。汚染区域が想定より広く、今現在も被曝報告が上がってきている。こんな状態でマトモに防衛など出来ないからな』


 なんて身勝手な。ルカはそんな言葉を寸での所で抑える。


「それじゃあウクライナに居た人たちは......」

『避難民、だな。こんな戦況じゃ今更だろう』


 今更という一言で片付けてしまっていいものなのだろうか。ソ連から分離独立して僅かに九年ちょっとでロシアの保護国──傀儡となり、その一年後には国体そのものが消えかけている。戻る故郷も核の炎で焼かれて残ってはいないだろう。


 そんな彼らが逃げ延びた先で待っているのは何か。それは迫害と差別と、雀の涙にも満たぬ慈愛。


『避難民に関して、どうするかは俺達の仕事じゃない。政府高官の仕事だ』

「そりゃまぁ、そうでしょうけど......」

『うだうだ言うな。気持ちは分かるがこれが現実だ。ほんと、どうしようもないもんだよ、戦争ってのは』


 その台詞を最後に無線が途絶える。


 ルカはつい最近支給されたばかりの携帯電話とやらを片手に、気分転換がてらオリョール市へと向かう。最新型の無線通信機だという携帯電話、その先行量産型。パカパカと気持ちのいい音を立てて折り畳んだり、展開したり。絶妙に癖になる感覚だ。


 これを使えば、わざわざデカい無線機を持ち歩く必要は無いのだと言う。とはいえ、参謀本部のセルゲイとの通信はこの携帯電話では出来ないらしい。今はサーリヤとイヴァンナが基地に残ってくれている。携帯電話は特殊戦術兵器群STAGの要員全員分支給されている。何かあれば連絡をくれるだろう。


 携帯電話を閉じては開いてと、音を楽しみながら歩いていると周りの人が一度はこちらに視線を向けてくる。ルカは少し恥ずかしい気持ちになって携帯電話をポケットに仕舞う。


 電話と言えば未だ持ち歩くには薄らデカくて不便な代物。こんな先行量産型、持っている者はそうそう居ないだろう。


 それにしても、九月ともなると暑さも徐々に引いて涼しさが増す。冷たい風が立ち並ぶバラック小屋の群れを通り、身体に吹き付ける。酸っぱい臭いが僅かながらに鼻を突く。


 家電量販店はラジオもTVも無く、商品棚にはアメリカ産の食品類が並んでいる。店の前に置かれたTV目当てに避難民や、市民が集まり見てくれは賑わっているようにも見える。


 モスクワではよく見た光景。しかし、少し違う。


「どけよ避難民トラッシュ。TVが見えねぇだろうが」


 後ろで立っていれば見えるというのに、清潔そうな服を着た大人が、小汚いボロ服を着た子供の首根っこを掴んで群衆の中から引きずり出す。


Що? Щоなに? Що такеなんですか?!」

「ッチ、ロシア語で喋れや!! ここはロシアの土地だぞ!!」


 侮蔑を吐き散らす男の足が動く。蹴りの予備動作。ルカは咄嗟に駆け出し、男の足を掴む。


「っ、んだクソガキ!? 邪魔すんな!!」


 自分より身長が高く、体格の良い大男に睨まれてルカは一瞬固まってしまう。その隙に掴んだ手から足がすり抜ける。大男は標的をルカに変え、拳を振り上げる。


 ルカも一応軍服を着ており、軍人であることは明白。しかしながら、ルカのような少年少女兵はこの手の暴行に遭いがちだ。それはひとえに貧弱だから。だが、ルカは例外だ。


「貴方みたいな大人が居るから!!」


 拳が振り下ろされる前に、溜まった鬱憤を吐き出さんほどの勢いで横っ腹に蹴りを入れる。


「いつまで経っても戦争が終わらないんですよ!!」


 人を蹴ったのは初めてだった。筋肉の柔らかくも硬い感触に、内臓を圧迫する確かな手応え。少し......いや、かなり力加減を誤ってしまったかもしれない。


 大男は一メートルほど飛んで、固い地面に叩き付けられる。幸いにも頭から行くことは無かったが、鈍い音が辺りに響いた。


「クソっ、なんなんだよ?!」


 気迫に押され、ルカは一瞬怯む。


「俺みたいな奴のせいって言うけどよ、コイツらが死んだ方が戦争早く終わるんじゃねぇのか?!」


 そう言って避難民達を指差し、脇腹を抑えつつ怒鳴る。剥き出しの敵意、害意、排斥心。瞳の奥には仄かに殺意がギラついている。


「それは間違ってるでしょ!!」

「何が間違ってるってんだ!! 俺はロシア人で、こいつらはウクライナ人。どっちの命の方が大事かも分かんねぇのかてめェ!!」


 男はよろけつつも立ち上がり、再びルカに殴りかかろうとしてくる。そこに通報を受けた憲兵が駆けつけ、男は取り押さえられる。


 ああいう輩がここ最近多い。憲兵もやけに若く見える。恐らくはやっと二〇歳になったばかりだろう顔触れだ。


 加えて、ロシア国内だけでなく国際社会も荒れに荒れているらしい。TVの声に耳を傾ける。


『本日朝八時頃。ルーノ製薬のモスクワ薬学研究所に対し、アルカイダを名乗るテロ組織からの爆破予告がありました。これを受けて我がロシア政府は同薬学研究所周辺を一時封鎖し──』


 目的はさっぱり分からないが、銃口の先だけでなく背中にも気を配らなければいけない世の中になってきている。中東周辺で不審な動きが多く、中東地域とほど近いスエズ要塞基地では更なる兵士の増員がなされているとも報道。


 場面は薬学研究所からの中継映像に切り替わる。


 真っ白で前衛的な作りの研究所を、黄と黒が交互に入ったバリケードテープと憲兵隊が取り囲んでいる。PKOの真っ白な装甲車が数台、青い帽子を被った兵士達と共に佇む。


 何の変哲もなく、現場の状況を知らせるリポーター。集う野次馬に、世界各国の報道機関より派遣された取材班たち。実に数百人の人間がこの場に集まっていた。


 中東の過激派組織による爆破予告が、某国の策略であるとも知らずに。


「アルファリーダーよりCP、配置に着いた」


 研究所の裏、報道陣の監視が及びつかぬ位置にて事は進む。


『CP了解。アルファ各員に伝達。地下施設に侵入するまでは一切の発砲を禁ずる』

了解コピー

『これより作戦を開始する。エカテリーナを暗殺、可能であれば捕縛せよ。以上』


 総勢一〇名ほどの、サプレッサー付きのカスタマイズされたM4を携え、ガスマスクを装備した兵士達。ぞろぞろと、音もたてずに研究所内部へと侵入していく。発する言葉は最小限。アイコンタクトと手話で互いに報告し合い、地下施設へと通じるエレベーターまで到達。


 エレベーターは決して広くは無く、装備を背負った歩兵達では入って四、五名。アルファリーダーを先発とし、四名づつ搭乗。およそ五回に分けて各員が地下施設へと潜入した。


「アルファリーダーよりCP、地下施設に潜入した」

『────』


 念のためと通信を入れるも、やはり無線は通じない。これが普通のエレベーターであれば、おおよその速度は分速五〇メートル程度。地下施設に到達するまでに二〇分は経っている。適当な計算だが、地下施設の深度は二〇〇メートル。中々の深さだ。


 報告通り、剥き出しの配線。コンクリートで作られた灰色の通路。不気味に明滅する蛍光灯。ネズミの一匹も、埃の気配すらない。やたらと小綺麗で工場染みた通路だ。


 密閉空間の割に空気は澄んでいる。湿気も無く、温度も重装備だというのに実に快適。よほど高度な空調設備があるのか、はたまた別の何かか。


「各員、鋼蟲種マンティスの鎌に気を付けろ。奴の斬撃は音より速い」

了解ラジャー


 ひそひそと、それでいて淡々と会話がなされる。


 アルファリーダー及びアルファ隊は、イヴァンナの辿った順路を逆さに辿っていく。音の無い通路に軍靴の足音だけが嫌に響く。


「アルファリーダー、右通路グリーンクリア」

「アルファ02、左通路レッドクリア」


 丁字路に突き当たり、左右をクリアリング。引き続きアルファリーダーを先頭として、丁字路を右に曲がる。


 そして、ソイツは音もなく目の前に現れた。


「エンゲージ」


 同時に撃発。一発、続いて二発。乾いた銃声が響く。鋼蟲種マンティスの脳天と胸部を撃ち抜き、くずおれる。


「タンゴ、ダウン」


 早々に溶け始める死骸を踏み越え、更に奥深くへと進んでいく。


 その後も度々鋼蟲種マンティスと接敵するも、これを次々と撃破。動きも鈍く、敵を認識してから鎌を振り上げるまでに一秒二秒と掛かる鈍麻な種。精鋭たる特殊部隊の隊員たちに対し、敵として立ちはだかるには貧弱過ぎた。


 特殊部隊はいとも容易く、イヴァンナの行き着いた部屋に到達する。恐らくはエカテリーナの研究室。未だ開きっぱなしのドアの隙間から閃光手榴弾を投げ入れ、起爆と同時に突入。怯んだターゲットを確保する。


「うっ......もーフラッシュバンなんて乱暴な......私何も武器持ってないよ?」


 未だ視界が焼けたままにエカテリーナは呟く。


 両腕は背中で縛られ、全身をくまなく調べられる。しかし、武器などは何も出てこなかった。


「やっぱり子供が素体じゃこの程度なのかなぁ......かといって先行掃討種クリューエルは嫌だし──」

「許可なく口を開くな!!」


 小声でブツブツと呟くエカテリーナを、アルファリーダーは一層力を強めて抑え込む。


「アルファリーダー、ターゲットを確保。これより帰投す──」


 突如、地下施設全体が大きく揺れた。地震のような振動は数十秒続き、段々と収まっていく。


 突然の振動に、特殊部隊の隊員達でさえ表情が強張る。


「ま、諸々含めて予定通りだけどね」


 そう言ってエカテリーナは薄ら笑いを浮かべる。


「ヒーローは遅れてやってくる。君達にとっては、悪魔かな?」


 ゴォーンと一つ、鐘の音が鳴った。


"さぁ、復讐の時間だ"


 そして、鐘の響きが止まぬうちに、頭の中で声が鳴る。


 コンマ一秒後には、アルファリーダーの首が跳ね飛ばされる。


 跳ね飛ばされた頭は理解もできず、瞳には自分の身体が逆さまに映る。それが自分の身体だとは、死の直前に理解することは出来なかった。


"宴を始めよう。我らが主様へ貢ぐ贄を用意して"


 そうして、怪物達の宴が始まった。


 地下施設は突如として崩壊し、地上の研究所諸共崩れ落ちる。


 突然の崩落と、目の前の光景に報道陣も、野次馬も、PKOの兵士達でさえ。全て時が止まったように硬直し、巨大な翼を目の当たりにした。地面より生み出されし翼は巨大で、研究所よりも大きく広がっていく。


 巨大な腕と手が地面より顔を出す。金色の腕輪を付けた四本の腕が、大地に爪を突き立てる。その手を一つとっても装甲車より大きく、大地を穿つ。


 伝承に存在する竜の如き頭部が晒される。嫌に人間染みた、意思の通った双眸が愚民を睨む。涙のように流れる赤い線は溶岩に似て煌めいている。真っ二つに裂けた下顎を開き黒い煙を吐く。


 そして、巨大な竜は悠然と、その全身を晴天の下に晒し出す。竜は所々に鎧を纏い、赤く光る宝玉を胸に抱えていた。黒鉄色の尻尾には亀裂が入っており、赤い光を不気味に放つ。


 瓦礫の山より獣脚を離し浮かび上がる。人々を見下ろし、四本の腕と一対の翼を広げ、赤き鱗粉が涔々しんしんと降り注ぐ。鱗粉は朱き炎となりて大地を焦がし、地上を火の海へと変えていく。


"主に変わりて、いにしえよりたまうた聖恩を忘れ去り、かしこくも主を冒涜せし子供達に告ぐ"


 人ならざる声は世界中に響き渡る。空を伝い、あらゆる大地、命まで余すことなく。


 太陽は黒き月によりて閉ざされ、陽を蝕み陰訪れる。


 世界は暗闇に閉ざされ、黒き月光が空をむしばむ。


"これより再臨の儀を執り行う。贄を焚べ、主へ謳うのだ"


 そして、仰々しく名乗りを上げる。


"主の勅命によりて、我が名を宣告する。我が名は月夜の支配者ルノレクス。天顔を御見せすること叶わぬ主に変わり、愚かなる子供達へと神罰を下す者である"


 ルノレクスは炎と死を地上に振り撒きながら、飛び去って行く。その場に居た生命は、細菌の一つも残さず焼き払われていた。


 エカテリーナは竜の背中に在りて、狂気的な笑みを浮かべ続けている。


 標的はモスクワ、総勢二千万の人間の命。


「ついにだ、ついにここまで来た!!」


 エカテリーナは笑み湛えたまま涙を流す。


「殺してやる!! 女も子供も男も老人も!! すべてすべて壊して殺して奪い尽くしてやる!!」


 そう叫ぶ度に、瞳から涙が溢れる。


 奪われた、ずっとずっと前から。奪われた全てを奴らからも奪う時が来たのだ。幸せも、普通の人生も、平穏も、愛も、不幸も。ありとあらゆる全てを奪われ、踏み潰され、壊された。


 すべては奴らのせいだ。


 すべては人間なんてものが居るからだ。


 すべてすべて世界のせいだ。


 全てを奪い、壊し、殺す。そうすればもう苦しまなくても良いのだ。幸も不幸も愛も悲痛も。全て消し去ればいい。


 殴られる痛みも、首を絞められて息の詰まる苦しさも。


 無いものを望み、手に入らぬ哀しさも。


 積み重ねた努力が水泡と帰す虚しさも。


 愛した者に裏切られる苦しみも。


 信頼していた味方に、刃を突き立てられる悲劇も。


 自分を失っていく恐怖も。


 いつまでも聞こえる心の声に怯えることも。


 普通じゃない不幸も。


 愛した充実感、愛された幸せも。


 やっと、やっと、アイツらにも味わわせることが出来る。奪ってやれる。この時をずっと待ちわびていた。自分の全てを解放し、憎悪の詰まったバケツをぶちまけてやる。そして、そうやって、やっと──。


 ──楽になれるんだ。

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