お前にはもう会いたくない

雲巡アキノ

第1話 プロローグ

 ここは人が大勢いる都会だ、店も星の数ほどある。近場で飲みにいけるような店はそこだけ、なんて田舎じゃない。

 それなのに、なぜまたこの二人と会ってしまったのだろう。

 

 その日は、仕事帰りに友人と飲む約束をしていた。何軒か行きつけがある中選んだ店で、新しく恋人が出来たという友人は止まることを知らない勢いで惚気け続けている。

 仕事帰りにかかってきた電話のむこうで聞こえた、既に浮かれた声から、ある程度の覚悟はしていたが、ついこの間ふられてひどく落ち込んでいた人間と同一人物とは思えない。この友人の切り替えの早さにはいつも驚く。そして若干呆れながらも、グラスを片手に適当に相槌を打ちながら話を聞いていた。

 しかしその途中、別席から小さく聞こえた話し声に耳が反応した。

 声がした席にこっそり視線をやると、そこには男二人組が座っている。

 背の高い茶髪の男と、地味な黒髪の男。

 黒髪の男は茶髪の男の目を見て話している。時に腹を抱えるほど笑って、一体どんな言葉を投げかけられたのかたまに恥ずかしげに目をそらして、それは付き合っている恋人相手にする仕草だった。

 この二人と飲み屋で遭遇したのは二回目だ。一回目に会ったあの日は、一年前だったか。その時も今日とは違う店で偶然二人を見かけた。二人は同じように仲良さげに話していたが、あの時はまだ付き合ってはいなかったはずだ。


 (随分とまぁ……仲良くなれたんじゃん)

 

 茶髪の男相手に、幸せそうな顔を見せる黒髪の男の名前はサトシ。多分、本名。

 サトシと俺は一年前までセフレと呼ばれる関係だった。

 最後にあいつと寝たあの日、知らない男相手に楽しそうに話しているサトシの姿が、まるで別人のようで信じられなかった。

 自分と会う時、サトシがあんなに笑う事はなかったし、プライベートの事だって全然話さない。会って、やって、寝る。終わり。

 人付き合いが好きじゃないと言っていたから、きっと誰にでも同じ。そう思っていた。

 正直、あの晩の事はあまり思い出したくない。

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