ラッキーボーイ

闇之一夜

ラッキーボーイ

 Aが出しっぱなしで逃げたので、Bはゴキブリになって追い回した。Aが薬をまいたので、Bは鼻をなくした。Aが手足をもいだので、Bは羽根を生やした。


 飛んで追いかけるBを見て、瓦屋根の雀が言った。

「ごらん、人間やめたおかげで、空を飛べたよ。Bは、ほんとについてる。よかったね、ラッキーボーイ」



 Aは完全に逃げ切った。怪物では外国には行けない。飛行機は雲に消え、もう間にあわない。あきらめるしかない。



 Bは自分で餌を取れず、ガリガリに痩せてもう飛べず、路肩の隅で泣き出した。そんな彼を見て、電柱に来たのは野良犬だ。裕福な飼い主のところにいたころの、おしゃれで凛とした姿は、見る影もない汚れきった土佐犬だ。それが片足をあげ、小便しかけて、ふと彼に気づき、言った。

「捨て子かい。空腹かい。でも栄養なら取れるよ。ほら足元の水溜りをごらん。よかったね、ラッキーボーイ。君は、本当についてる。いいや、ついてるだろ? ほら、よく見なさい。映った自分のおなかに、さ。ついてるだろ、肉が」


 Bは最後の力を振り絞り、老いた土佐犬に食いついて右足を食いちぎった。飢えは満たされ、化け物として警官隊に射殺されるまでは、とりあえず安泰になった。よかったね、ラッキーボーイ。



 ただひとつの懸念は、彼が「鼻さえなければ、におわなければ、たとえ毒ガス食らっても大丈夫」と思い込んでいることぐらい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ラッキーボーイ 闇之一夜 @yaminokaz

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ