異世界転生を望んだ僕は異世界の神達と戦う羽目になった!

月白藤祕

1.出会い

瀬ヶ羅木渉せせらぎわたるは高校二年生の男子である。彼は学校生活に馴染めず、周りから浮いていた。自身が特別な存在なのだと考えている彼は周りと距離を置き、他人を見下すことで自身の価値を見出していた。


そんな瀬ヶ羅木にとって唯一の楽しみが異世界転生物の小説を読み漁ることだった。特別な自分はいつの日にか転生できると信じていた。だからだろうか、暴走したトラックが自信に向かって突っ込んできた時、突然訪れたチャンスのような瞬間だった。


死にたいと思って日々を過ごしていた、死を踏み出せない少年にとって、暴走したトラックが自身に向かってくるのは都合がよいと周りが逃げ出す中、自らトラックを迎え入れる。もしかしたら、いつも読んでいる異世界転生物の小説のように異世界転生できるかもしれないと。


「…もう!毎度毎度トラックを送り込んできて迷惑な!」


しかし、少年の前に黒い髪を靡かせてセーラー服の少女が立ちはだかる。驚き、バランスを崩してそのまま床に座り込んでしまった。そして、少女と自分以外の人間が停止しているのを目撃する。暴走トラックはその場からは動いていないが、ものすごい勢いでタイヤが回っている。


「何が起こっているんだ?君は一体…」

「あれ、君動けるの?…まあいいか。とりあえずこいつを!!!」


少女が叫びながらトラックに触ると強い光を放ち、それは最初から存在しなかったかのように跡形もなく消えた。唖然とした少年は気付くと、信号を待つ群衆の中にいた。


                 〇


いつも通りの教室で窓の外を眺めながら、あの女は一体誰だったのだろうかと、そんなことを考えていた。その思考を遮り、目に映ったのは屋上に立つセーラー服の少女だった。あの日の女だと、昼休みのチャイムが鳴るのと同時に慌てて教室を飛び出し、立ち入り禁止の屋上まで走った。


「おい!お前はあの時の!」

「結局記憶を消すことはできなかったのか…」

「なんだって?」

「何でもないよ。君は私が何者か気になるんだろう?私は君たちの言葉でいうと…神様のような存在と言えばいいかな」

「神?頭でも打ったのか?」


自称神様の女はふむっと少し考えた後に、近くへ寄るように手招きする。少年は警戒しながら少女との距離をつめる。


普通の人間だと思うんだけど、そう呟きながら少年の腕を掴み、ばんっと少年の頭を銃の形をした手で撃つ。理解できないといった顔で少女の顔を見る。少女はそのまま経過を観察するが、少年の顔がどんどん険しくなっていくのを見て、だめだこりゃと腕を離した。


「結局何だったんだ?」

「無駄な努力をしただけだから気にしないで」

「なんだそれは…」


少女の反応に一瞬困惑したが、瀬ヶ羅は少女に自身の疑問を解消してもらおうと思ってきたことを思い出した。


「あの日起こったことを教えてもらいたいんだが?自称神なら答えられるだろう」

「あの日?」

「とぼけても無駄だぞ!暴走したトラックを跡形もなく消しただろう!」

「ああ、あれは…分かりやすく言うと転生トラックを元の世界に戻しただけだよ」

「待てっ!あれは転生トラックだったのか?」

「そうだよ」


自称神の少女の話を信じるのであれば、あれはずっと待ち望んでいた転生トラックで、この少女のせいで転生のチャンスを逃したことになるわけだ。それが何よりも許せない。 


「何てことをしてくれたんだ!」

「どうしてそんなに怒っているわけ?」

「お前が…お前が奪ったんだ」

「………何を?」

「チャンスを!僕は転生したかったんだ!そのチャンスをお前は奪ったんだよ!」


少女の胸倉を掴み、そのまま崩れ落ちる。希望を失った人間の成れの果てみたいだ。


「どうして転生したいの?君はまだ学生だからこの国でチャンスを掴めるんじゃない?」

「生まれで諦めなきゃいけない場合もあるだろう。それにこの国の未来に希望を見出せない場合もな。………だからこそ僕は特別になりたいんだ。他の世界に可能性を賭けるほどに」

「特別?人間にできることなんて大抵同じでしょう」

「同じじゃない!僕は………ヒーローになりたいんだ!」


瀬ヶ羅木は絞り出すように伝えるが、少女は少年の気持ちに微塵も興味を示さず、少年の願いの強さに興味を示した。そして、一つの提案をする。


「ふーん、そうなんだ。………じゃあさ、異世界の神と戦う気ある?」

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