第20話 守りたい

「はぁー・・・美味しかった。」


「ね、美味しかったぁ・・・。」




トーヤ君、すごい食べてた。


フィーも良く食べるけど、同じくらい食べてたかも。




「トーヤ、一気にそんなに食べて大丈夫なのか?病み上がりなんだろう?」


「ついつい食べ過ぎちゃいました・・・。ふわふわエッガのチュルズリゾットミルク仕込みとは・・・やりますね。サラダも爽やかでドレッシングもオニオス仕立て・・・何より、ペッピィで味付けしたこの薄切りサルーン・・・ピリッとしてアクセントになっている・・・。食べないで居られますか!これは所謂・・・運命です。」


「・・・お前は何を言っているんだ?」


「運命です。」


「あははは。美味しい料理は癒しだよね。ただ、私は料理が苦手なんだよなぁ・・・きちんと覚えたいのに。」


「え?そうなんですか・・・意外です。」




アイン先生、見た目はとっても優しそうなお兄さん。


お料理得意そうなんだけどなぁ。


私も料理はするけど・・・正直、そんなに得意じゃないなぁ。


フィーはたくさん食べてくれるけど、トーヤ君はどうかな?


私のご飯、食べてくれるかな。




「そうかな?得意そうに見えるかい?」


「見えますね。」


「私も見えます、お料理好きそうな感じで。」




お料理だけじゃなくって、何でも出来そうな雰囲気。


こんなに優しいのに、冒険者さんで魔獣を退治してるなんて、なんだか不思議な感じ。


見た目からは想像できないや。




「アインの料理は・・・やばい。」


「あぁ、やばいな・・・。体は元気になるんだが・・・やばいな。」


「やばいって・・・そんなやばいのかな、私の料理・・・。」


「「お前のはやばい。」」


「えぇー・・・?」


「一体どんな料理なんですか・・・?」




・・・怖いです。フィーには食べさせないようにしなくちゃ。・・・トーヤ君にも。


・・・フィーは大丈夫なのかな。・・・すっごく、心配。




「気になるけど・・・ちょっと怖いかもです。」




2人とも、なんだか抜けてそうな所もあるんだよね。


・・・私が守ってあげなくちゃ!!


・・・・・・強くなんて、なれるかわからないけど。


でも、頑張る。














2人が宿屋に帰った後、しばらく僕はフィノのベッドの隣で椅子に座り、寝顔を眺めていました。


夕日が窓から優しくフィノの顔を照らします。


白い髪にオレンジがかかって暖かさに優しさを感じます。


フィノは、穏やかな寝顔ですやすやと眠っています。


外傷とかは特にないとは聞きましたが・・・髪の色が変わった事は謎に包まれています。


(本当に大丈夫なのか・・・?)


こんな事、普通では無いはずです。


ここに来るまでの間、長い時間がかかりました。


魔獣に襲われた時、フィノを守りたいと思っても、今の自分が無力だと知った時、いつもそばに居て励ましてくれるフィノが心強くて・・・嬉しくて。


(でも今、こうして・・・髪の色が変わって・・・目をさまさなくて・・・。)


不安です。・・・この先にフィノが居ないだなんて事、考えたくもありません。


右の手首にはまる腕輪を見つめます。


(この腕輪があると・・・フィノとつながってるって、わかる・・・。でも・・・フィノが居なくなったら・・・?)





(「命に代えたって良い・・・?・・・ふざけるな。お前は残されたやつの気持ちを考えてるのか?」)




その時、アルさんに言われた言葉が頭をよぎりました。


(あぁ・・・。)


・・・後悔が体にしびれを与えます。言ってしまった言葉は、もう戻る事はありません。


(残されたやつの、気持ち・・・。)


フィノが居なくなる。


この先も。


ずっと。


笑っていたフィノ、好きだと、大事だと、膝枕をしてくれて、悲しみをやっつけてくれる。


とても強くて、でも、自分も怖いだろうに、僕を守るために戦ってくれる。


”いっしょ”をしてくれる、僕にとって言葉にできない程、大事な僕のお嫁さん。


(居なくなる・・・。)




「・・・ぁ。」




ぽろりと。


涙が流れました。


視界が滲みます。


悲しさが心の中を埋めていって・・・俯いたら、胸にぽとぽとと、涙の跡がつきます。




(いないのは、嫌だ・・・。)



この先・・・ずっと?



(フィノが居ないのは・・・いやだ。)



1人になる・・・?



(さびしい。)



ユユナも、父さんもいる。



(つらい。)



でも。



(かなしい。)



フィノは・・・フィノしか、いないのに?



ぼろぼろと、涙が、流れて、止まらない。



「ぁ・・・・あぁ・・・・ぁああああぁあああああ。」














「トーヤ?」











「ぇ・・・?」


「トーヤ、だいじょうぶ?」




ベッドで寝ていたフィノが、身体を起こして僕を心配そうに、見てました。




「痛いの・・・?泣いてる・・・。ぎゅー、する?」




いつもの声で、泣き顔の僕を、心配して。




「トーヤが泣くと、悲しい。」


「・・・ふぃ・・・の。」




ベッドから身を乗り出して、近づきます。


フィノの小さい体が、僕の体を包みました。




「いいこ、いいこ・・・。大丈夫。トーヤは、わたしが守る。」



優しく、頭を撫でてくれる。



「・・・う・・・ぁ・・・あ・・・。」


「泣いてもいいよ・・・。大丈夫、ずっと、いっしょ。」



いっしょだと、声をくれる。気持ちをくれる。



「フィノ・・・ッ・・・フィ・・・ノ・・・うぁ・・・あ・・・・ああああぁ・・・・っ」


「まじゅうが来ても、わたしが、全部倒しちゃう。わたし、トーヤが大好きだから。」



僕は・・・何もできないのに。こんな僕を大好きだって。




「よか・・・った・・・。生きてて・・・っ。フィノが、いないと・・・僕っ・・・は・・・っ。ぼ・・・くはっ・・・っ」


「よしよし・・・。わたし、もね。トーヤが居ないと、だめなの・・・。だから、いっしょ。」



そんなの、僕だって、いっしょだ。ずっとずっと、いっしょが、いい。



「・・・うんっ。・・・あり・・・がとっ・・・う・・・。いっしょに、居て・・・くれて・・・。」


「んーん・・・当たり前だから。・・・大好き、だから。」



ありがとう、ありがとう。・・・ありがとう。



「う・・・うぁ・・・・ぁあぁああああああぁっ。」






















「アルかい?」


「・・・アインか。トーヤ達の様子はどうだ?」


「うん・・・。3人は・・・危険は無いと思う。普通の、優しい子達だよ。」


「あぁ、俺もそう思う。あんな事があったって、あいつらはただの、どこにでも居る優しい子供だ。」


「うん・・・俺もそう思う。」


「・・・どうするんだ?」


「悩んでいるよ。・・・サザルダーニ家には王家の目が付いている。このまま話が通ってしまうと・・・3人が危ないかもしれない。」


「隠し通すには、さすがに規模が大きすぎたからな・・・。監視は見たか?」


「いや、まだ見てないよ。ただ、もしかしたら魔術師ギルドの上の方はわからない。感づいていてもおかしくは無いね。」


「・・・そうか。・・・どうするんだ?」


「・・・ひとまず、俺は警戒しながら3人を冒険者として育てるよ。3人が互いを守れるように。」


「国から目を付けられるかもしれないんだぞ?」


「良いんだ。俺は誰かを助けたくて冒険者になったんだ。アレスもリリィも・・・ユイだって、あの子達が傷つくことを望んだりしないさ。」


「ユイさんか・・・懐かしいな。アレスさんとリリィさんは・・・話に聞いただけだけど、俺もそう思う。」


「アルは出来るだけ3人についてもらってていいかな?」


「・・・わかった。どうせ乗り掛かった舟だし・・・心配だからな。」


「ありがとう。・・・優しくなったね、アル。」


「・・・俺は元から優しいぞ?・・・ユイさんとアインのおかげだ。」


「うん・・・ありがとう。まぁ、今でもキレると手がつけられないけどね。」


「うるさい。」


「ふふふ。ユイも、君をとても大事に思ってたよ。勿論、俺もね。お互い様だ。」


「・・・やっぱりお前はずるいやつだ。」


「そろそろ切るよ。また明日話そう。」


「わかった・・・テルフォンスの魔法、便利だな。俺も使いたいんだが。」


「火山亀を倒せれば魔欠石は手に入るよ。」


「無茶言うな。あんなの一人で倒せるかっての。」


「頑張り次第だよ、アルならいけるいける。」


「簡単に言いやがって・・・それじゃあな。」


「あぁ。また明日。」


「おう。」








「アイン先生、二人とも、落ち着いたみたいです・・・。本当に、良かった。」




フィーは本当に良い人と巡り会えたみたい。可愛くて、泣き虫で甘えん坊のトーヤ君。・・・本当に良かった。


二人が無事で。フィノも、無事で。


でも・・・ちょっと妬けちゃうなぁ。




「うん、そうみたいだね。」


「先生・・・私も2人が大事で・・・守りたいです。・・・家族ですから。」




私の、新しい家族。フィーと、トーヤ君。


・・・大事な人が居なくなるのは、悲しいから。


私も、守りたい。目の前で大切な誰かを失うのは、もう絶対に嫌だから。




「うん、3人とも、沢山の事を教えてあげるよ。大事な物を守れるように。」


「ありがとうございます。・・・頑張ろうっと!」




むんっ!と腕まくりをしちゃいます!


力はないけど・・・やる気は十分なんだからねっ。


絶対に、絶対に頑張るんだからっ!!




「ふふふ、授業は厳しいからね。覚悟をする様にっ。」


「はいっ、アイン先生っ。」


「「あはははっ。」」




2人して笑って。


気づけば夕日はとっぷりと、闇色の空に変わってた。


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