第19話 目覚めと出会い。そして、また一つ。

「ぁ・・・。」




どうやら眠っていたようです。


目の前には木で出来た天井、薄暗くぼんやりしたランタンの明かりが目に入ります。


体を起こそうとしましたが上手く力が入りません。


背中に感じる感触からどうやらベッドの上に寝かされている様です。


どうにか首だけを動かして周囲を見ます。


右隣にベッド、見れば誰かが寝ています。


白髪の・・・エルフの様です。ちょこんとした耳が見えます。


左隣側を見てみれば、またベッドがあります。


こちら側には誰も居ません。


右側に視線を戻して白髪のエルフさんを見ます。


フィノと似たような背丈の様ですが・・・。


ここは何処なのでしょうか?ぼーっとした頭で考えます。


天井の木目を眺めながら眠る前の記憶を探ります。


その時、ガチャリと言う音が聞こえ、続いて扉が開く音がしました。




「起きたみたいだね。気分はどうかな?」


「ぇ・・・ぁ・・・?」


「無理して起きなくていいよ。今は夜だし、もう少し眠るといいよ。」


「あ・・・の・・・、フィノは・・・?」


「あぁ、君の奥さんなら隣で寝ているよ。大丈夫、安心して。」


「ぇ・・・?」


「色々と混乱していると思う。けれど、隣の髪の違う色の彼女は間違いなく君の奥さんだよ。」


「は・・・ぃ・・・。」


「まずは体を休めるんだ。落ち着いたら話を聞かせてくれると嬉しいな。」


「わかり・・・まし・・・。」




瞼が重く、話そうとしても体が言う事を聞いてくれません。


そのままとろりと眠りに落ちました。




「おやすみ。」



















「んぅ・・・ぁ・・・。ッ!?」




目が覚めてみたら、淡いピンク色の髪の少女が僕の顔を覗き込んでおり、目に入ります。


ダルさの残る体に反して驚きからハッと目が覚めました。


「あ!おはようございます。・・・体の具合はどうですか?」


「え、あ?え??・・・え、えっと、おはようございます。」


「普通に喋れるみたいですね。良かったぁ・・・。」


「あ、あの・・・?あなたは?」


「あ、すいません。私、ミミルナって言います。」


「ミミルナ・・・って、あ、はじめまして。」



フィノのお姉さんと同じ名前です。


血は繋がっておらず、人間だと聞いています。


辛い時に一緒に居てくれた人だとも。




「初めましてですね、よろしくお願いします。」


「いえ、こちらこそよろしくお願いします。」


「はぁ、良かった・・・。二日間も寝てたんですよ。起きてくれてよかったです。」


「え、二日も寝てたんですか?すいません、寝てしまった前の事をよく覚えてなくって・・・。」


「え!?そうなんですか・・・?私の事、覚えてないですか?」


「えっと、少し待って下さいね。何か・・・。」


「わかりました。無理はしちゃダメですからね。」


「あ、はい・・・。」




会話をしながら目の前の少女の事を考えます。


背の高さは僕と同じくらいでしょうか。


淡いピンク色の髪で薄茶色の瞳。白いブラウスに茶色のサークルワンピースを着ています。


セミロングの髪はおでこの左側で分かれ、もみあげを通る髪は内巻き気味で、片方は三つ編みになっています。


そして後ろに流れる髪は柔らかなウェーブをしており、ゆるりふわりと肩の周辺を柔らかく彩っています。


・・・なぜか初対面なのにとても深い親しみを感じます。


(って、フィノは!?)


ハッっとして体を起こして辺りを見回すと、右隣にベッドがあり、そこでは白髪のエルフの少女がこちらに背を向けて寝ています。




「体、起こして平気なんですか!?あ・・・えっと、フィーはまだ寝ていますよ。」


「フィー?って・・・え?もしかして、このエルフさんは・・・フィノ!!?」


「そうですよ。・・・髪の色が変わっている事は先生達から聞いたんですけど・・・。」


「ええええええ!!?何で髪の色が変わって!?」


「えっと・・・私もわからないんです。先生達は外傷は無いし命に別状は無いって言ってました・・・その内、目を醒ますとも。」


「本当ですか!?」




思わず少女の肩を掴んで聞いてしまいました。




「わわっ!?は、はいっ!フィノは大丈夫です!!治療士さんもお医者さんも先生も言ってましたっ。」


「よ・・・良かったぁ~~~~~・・・・・・・・。」




どっと体の力が抜けます。




「・・・ふふふ。」


「ん・・・?」


「本当に、フィノの事、大事なんですね。」




笑顔で言います。


フィノの事を知っているような感じです。


(と・・・言うことは。)




「さっきの名前といい、呼び捨てって事は・・・君はもしかして?」


「はい、人間だけどフィーのお姉ちゃんのミミルナです。トーヤさんはこの子の旦那さまなんですよね?」


「・・・はい、先日フィノとは結婚をしたんです。フィーって呼ぶんですね。何だか新鮮です。」


「敬語じゃなくって良いですよ?仲良くしたいし、私もやめようかな。」


「なら、お互い呼び捨てで敬語は無しにしようか。」


「え、えっと・・・呼び捨ては恥ずかしいから・・・トーヤ君でもいい?私はミルでいいよ。」


「わかった。よろしくね、ミル。」


「ふふふふ、ありがとう。トーヤ君。」




2人して笑い合っていたその時、ミミルナさんのシャツの袖がすっと落ちました。


そこには・・・。







見覚えのある腕輪がはめられています。


(え?え・・・!?これはもしかして・・・!!?)








「あ、あの!!ミル、その腕にある腕輪って・・・!!?」


「と、突然どうしたの?えっと・・・この腕輪の事、知ってるの?」


「うん!!これは・・・えっと、ごめん。正体はわからないんだけど・・・それは!」


「う、うん。・・・それは?」


「それは・・・その・・・。」


「??・・・その?」


「フィノとの・・・結婚腕輪なんです。」


「えぇー!!?」




ミルはとても驚いた様子です。


そりゃそうですよね・・・。(血は繋がっていないけど)家族が結婚を誓うのに使った腕輪と同じものを持っているだなんて。


入手経路が特殊だった事もあって僕自身もこの世に二つしかないと思っていました。なのにこうして三つめが現れるだなんて事、想像がつくはずもありません。


もしかしたらミルも、誰かと心を結んで腕輪を持つに至ったのでしょうか?



「えっと・・・ごめん。突っ込んだ事を聞くんだけど、その腕輪をどこで手に入れたか、聞いてもいい?多分なんだけど、とても珍しい物なはずなんだ。」


「そうなの?えっとね。・・・十日ほど前に手首に突然現れたの。・・・確か昼間だったかなぁ。」




(突然現れた・・・。一緒だ。)




「・・・僕は二日間寝てたんだよね?えっと、ここは・・・治療院かな?」




辺りを見回して見ます。


やや大きめの部屋の中央にテーブルがあり、上には火のついていないランタンがあります。


周りには座り心地の良さそうな椅子が四つ。


テーブルの右手側。暖かくなり今は使われていないであろう暖炉の前には揺り椅子があります。


部屋の隅にはタンスや収納用の棚。ベッドの頭側に窓があり、窓の向こうには池や木々、小さめの畑と洗濯物の干場等が見えます。


その更に奥には・・・石作りの白く塗られている壁が見えます。


(ここはどこだろう?)


左隣には誰も居ないベッド。


右隣のベッドには・・・白髪のフィノが。




「うん。呼びかけても全然意識が無くって・・・すごく心配した。」


「心配かけちゃってごめん・・・。十日前ってことは、僕がフィノと結婚した日と同じだ。・・・僕とフィノも急に腕に現れたんだ。」


「えええええええええええええぇぇぇ!?」


「って、待てよ・・・?というか!!!ミルがどうしてここに!?エルフの里に居るはずじゃ!?」




(どうして初めに気づかなかったんだ!?フィノが言ってたけど、里からここに来るまでに数か月かかってるっていうのに!!!?)


ここに居るなら同時期に里を出ていないといけないはずで・・・!・・・何かが起きてる気がします。




「それが・・・私にもわからないの。」


「ええええええええええ!!?」


「でも、気づいたらここに居て・・・。」


「どういう事なんだ・・・?わけのわからない事が多すぎる・・・。」




ガチャリとミルの背後からドアを開ける音がして、僕はハッとして顔をそちらに向けます。




「やあトーヤ、ミミルナ。起きた様だね。体調はどうだい?」


「あ、アインさん。さっきトーヤ君が目覚めたのでお話してました。」


「あ、えーっと・・・?あなたは・・・?」




目を向けてみると、そこには優し気な顔立ちで若干ツンツンとした栗色の髪をした男性がいました。


優し気な目。瞳は青み掛かった灰色で、眼鏡をかけており、両耳にシンプルなイヤリング。知的な雰囲気も受けどこか包容力を感じさせます。


前を開いたジャケット風の茶の上着に堅めの生地の白いインナー。スラっとした黒いズボンにはポーチが見え、腰の右側に下がっています。


反対側には・・・幅の広い、短剣用にあつらえたと思われる鞘を下げています。鞘から生えるようにして見える少々長めの短剣はショートソードに分類されるのではないでしょうか。


その短剣には小さな傷がいくつも見え、手入れをよく行っているのか細かな汚れの中にもその表面はうすく光を反射しており、使い込まれている事が良くわかります。




「私はアイン・ベルガーと言うんだ。トトスで冒険者見習いの教官をしてる。生徒になりたいと聞いているよ。よろしくね、トーヤ。」


「え?あなたがアイン先生なんですか?」


「うん、そうだよ。アルから聞いたと思う。今後君の体調が安定したら授業をするから、何でも聞いてね。」


「あ・・・はい、わかりました。」


「で、さっきは交互に驚いたような声を出していたけど大丈夫かい?」


「あ、はい・・・えっと。」


「アイン先生、えっと、お聞きしたい事があって。」


「うん。どうしたんだい?ミミルナ。」


「この腕輪なんですが・・・実は普通じゃない方法で手に入れたんです。」


「普通じゃない方法?」


「・・・僕もなんです。アイン先生。」


「え?トーヤもかい?」




同じ腕輪を付ける意味合いを知っているからか、隣にいるフィノとミルと3人で腕輪を付けてると思うと若干気まずく感じます。


アルさんが言うには、アイン先生は信頼がおけてとても博識な方だそうです。視線をミルと合わせつつ、互いに頷き、聞いてみる事にしました。




「この腕輪は・・・突然現れたんです。買ったものとかではないです。」


「はい、私も同じです。・・・10日ほど前にいきなり腕に現れました。」


「なんだって・・・?・・・あまり聞いたことがないな。突然現れたって・・・何もない所からかい?」


「はい、そうです。」


「僕は・・・少し違いますが、突然現れました。時期も一致します。」


「ふむ・・・その言い方って事は、何かあったのかな?トーヤの方はどういった経緯で?聞いていいならだけど。」


「・・・それはフィノと相談しないと話せません。」


「相談・・・なるほど、二人にとって大事な事なんだね。フィノとお話ができて大丈夫だと思ったら話してくれるかい?」


「えっと・・・先生??」


「ううん。ただ、二人にとっては大事な事で、大事な物なんだと思う。」


「そうなんだ。うん、私も聞かないでおくね。」


「・・・その通りです。なんというか、色々と・・・。」




2人とも何も説明していないのに色々と察してくれたのだと思います。


腕輪に関しては色々と・・・あれです。二股をしているみたいな・・・実際している訳ではないですが、言いようのない罪悪感を覚えます。




「無理しないでいいからね?」


「え?あ、ううん!無理なんてしてないよ。」


「そうなの?でも、大丈夫かなぁ・・・って。」


「大丈夫!大丈夫だからっ!!」


「・・・そう?」


「そうだよ!ミルも先生もすっごく優しいし、嬉しいなって!それだけっ。」


「えっ。そ、それは・・・あ・・・あぅ。」




(って!ああああああああぁぁぁ・・・。僕ってば。)


後ろめたさと恥ずかしさも相まって混乱してしまいます。


僕もミルも顔が赤くなっています。・・・僕の方は赤だけじゃないかもしれませんが。




「あははは。ありがとう。」




隣を見ればアイン先生が優しい目をしながら僕らを見ています。


(な、何をしてるんだ僕は・・・。)




「あ、ありがとう。ミル・・・。」


「う、ううん・・・。大丈夫だよ。」


「2人は相性が良いみたいだね。先生としても、私個人としても嬉しいかな。」


「・・・はい。なんだかミルには親しみを感じてしまって。」


「そうなの?私もトーヤ君にはなんだか・・・ずっと一緒だったみたいに感じるの。」


「そうなの!?・・・実は僕もそんな感じなんだ。ふふふ。」


「2人ともか。ふむ・・・。」


「うん・・・何だか嬉しいな。私、里では一人だけ人間で、・・・その、ね、寂しかったというか。」


「・・・うん。フィノが言ってた。」




ミルはエルフの里では大人たちに嫌われていたそうです。


嫌われてる人たちに囲まれて暮らすことは・・・とても辛い事だと思います。


(しかも知らない大人たちだし・・・怖かったよね。)


フィノにとってはお姉さんなら、僕にとってもお義姉さんです。


(・・・大事にしたい。)


僕はそう思いました。




「改めて、仲良くしよう、ミル。」




僕は笑って手を差し出します。


ミルも、はにかんで、嬉しそうに僕の手を握りました。




「あ・・・・・・ありがとう。本当に、ありがとうね!!」




にっこりと笑うミルに、僕はとても嬉しくなりました。


知らない地で家族が二人も増えて、嬉しいやら恥ずかしいやらです。


(そういえば。)




「アイン先生、ミルも生徒になるんですか?」


「あ、うん。本人の希望でね。」


「そうなの?」


「うん。フィーは魔法がすごいけど、まだちっちゃいし、私も守ってあげなきゃって。・・・後は。」


「うん、わかる。僕も同じ・・・かな。後は・・・ううう、お金だよね・・・。」


「・・・うん。私、簡単な自然魔法しか使えないし・・・精霊さんとも契約してないし。」


「・・・僕は魔法自体が使えた事ない。・・・今の僕じゃ何も出来ないんだ。・・・無一文だし。」


「辛いね・・・。」


「うん・・・お金が無い・・・。」


「私も・・・貧乏やだ。」


「うん・・・貧乏やだ・・・。」




2人してどんよりとした顔で落ち込みます。


・・・3人の貧乏冒険者見習い姉弟妹の誕生です。




「ふ、二人共、大丈夫だよ。元気を出そう?」


「「アイン先生・・・?」」


「冒険者は、とても危険だけど、きちんと稼げるお仕事だよ。何より・・・強くなれる。」


「「・・・はい。」」


「2人には守りたい物がある。だからこそ強くなりたい。その気持ちはとても大事な物だ。」




僕らは顔を見合わせて頷きます。


僕らは互いが大事です、守りたい、出来るなら・・・皆で幸せになりたい。


そこには父さんも、ユユナも居て欲しい。一緒には居ないけど・・・母さんだって。




「私なら、君たち二人の気持ちを、現実にできる形でお手伝いしてあげられる。」


「「はい。」」


「だから、一緒に学んで、強くなろう。私もまだまだ足りない事ばかりだから、二人と一緒さ。」


「「そうなんですか?」」


「そりゃそうさ。私も君達や見習いの皆、トトスの人達を守りたい。それに・・・二人より三人、三人より四人・・・その方が楽しいし嬉しいだろう?」




先生は悪戯っぽく笑って言います。


頼もしくて強いその姿は、僕に強い憧れを抱かせました。


僕とミルは顔を見合わせる事もなく、言います。




「「よろしくお願いします。先生。」」


「あぁ、よろしく。トーヤ、ミミルナ。」


「「はいっ。」」






三度目の扉が開かれる音がして、振り向いてみれば。




「おい、大丈夫か?ん。トーヤ、起きたのか。・・・体は?」


「あ、アルさん。はい、もう大丈夫です。・・・ご心配おかけました。」


「いいよ、気にするな。まずは体を大事にしろ。」


「アルさん、とってもトーヤ君とフィーの事、心配してたんですよ?」


「お、おい。やめろミミルナ。」


「・・・ありがとうございます。・・・すごく嬉しいです。」


「アルは優しいからね。私もよく知ってる。」


「やめろって。全く、三人で一緒になって。ずるい奴らだ。」


「事実ですからね。」




三人で顔を見合わせて笑顔を向け合います。




「飯、いらないみたいだな?」


「「「た、食べるっ。」」」


「ふっ・・・。なら待ってろ。ジルスさんと作った合作だからな。」




勝ち誇った顔で笑みで、アルさんは部屋の外へ歩いて行きました。


隣のベッドで眠るフィノに顔を向けます。


(不思議でわからない事がいっぱいだ。・・・でも。)


寝返りを打ったのか、こちらに顔を向けて眠るフィノの寝顔はとても穏やかです。


でも、その髪は出会った頃の青み掛かった翠玉色ではなく、淀みのない白。


ちくりと胸に痛みを感じつつ、前で笑いながら話す二人を見ます。


(・・・ありがとう。)


1人じゃない事がこんなに頼もしいんだって、心が暖かくなるんだなと、思いました。


いっしょをしてくれる事が嬉しい、そうフィノは言っていました。


また一つ、フィノを知れた様な気がします。僕の中に大事な物が増えていくのを感じました。

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